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197 救世主ごっこ

 疲れが一気に襲ってくるとあんな地獄が広がるんだな。あの例の糸光の可視化を途切れさせてしまうぐらいには、辛かった。

 もう一度、と思ってやっても糸光の可視化は全然進まない。まぐれだったらしい。


 昨日の辛さを思い出しながら嘆息する。倦怠感と息苦しさでどうにもならなかった。エリアスが治してくれようとしてたけど、病気の類じゃないから治せないだろうと断った。んで、狐ちゃんと二人で追い出した。

 大丈夫だったかなー?

 ま、エリアスがいるんだから心配無用か。このパーティで一番無害な人ですし。


「お姉ちゃん……もう、しゅっぱつ?」


 アルトと少年も、二人してどこか行ってたな。アルトに変なこと教えてないでしょうね、少年。


 私はアルトの頭を撫でて頷いた。もう出発の準備は整っているので、いつでも出られる。当初の『数日過ごす』という予定を撤回して、早くこの街に出ることにした。狐ちゃんが猛反対したのだ。

 相当初日の襲撃(?)が堪えたらしい。


 分かるけどね、一昨日の夜も襲いに来たぐらいだし。


 狐ちゃんの猛反対を受けて、さっそく私達は鉱山の麓にある町を出た。

 私達が目指すのは、王都――いや、王都と呼ぶのは適切じゃないかもしれない。

 なにせ、その場所は色々な呼び方で呼ばれている場所なのだ。


 王都、城下町、首都、貴族街、とにかく色々と呼ばれている。

 国側は特に定めてないらしく、そのせいもあって呼ばれ方は様々だ。とにかく国の中心地と言われたらそこを指していると思って間違いないが、まあ、紛らわしい。


 伝われば何でもいいんだけどさ。


 あ、ちなみに町から出る時にまた例の三人衆に襲われたよ。

 ユアンが撃退したよ。


 そんなこんなで、私達は何もない、ただの一本道を歩いていた。周りに広がるのは原っぱ。何にもない。ほんっとに何にもない。地球の田舎みたいに田んぼや畑があるわけでもなく、ただの芝生が広がってるだけ。

 やばいくらい暇だった。


「何か面白い事ないかなー」


 私の呟きに呼応したかのように、私達の目の前に馬車が現れた。正確には、見えてきた、というべきか。道のど真ん中に、大きな馬車が佇んでいる。

 この世界からしてみれば珍しくないのか、皆は驚いてない。

 ただ、馬車が停まっていることについては疑問に思ったみたいだった。


「おっ、馬車じゃん! いいなー、あんなのあったら……」

「言うんじゃないの」


 軽口を叩こうとしたら速攻で叩き返された。

 ご、ごめんて。


「――ねえ、なにかおかしい、よ」


 アルトが言う。目は真っ直ぐに馬車を見つめていた。

 んっ? おかしいとは?


「そうらしいな。まあ、俺達がどうにかする必要もないだろう。別の道で迂回していくぞ」

「え!? ち、ちなみにどうなってるの?」

「襲われてるの。魔獣に襲われて、ひいひい言ってるの」

「助けようよ!?」


 何気なくスルーしようとしないで?

 この最高火力のパーティを今使わずしていつ使うのさ!


「冷静に考えろよ。目立っちゃいけねえんだぜ」

「……そうだけどさぁ」

「分かったらさっさと行こうぜ」

「助けてあげたら途中まで乗せてもらえるかもよ?」


 背を向けかけていた皆が固まった。


「だって向かってる方向としては同じだよ。途中の街まで……ぐらいなら、乗せてもらえるんじゃないの」


 馬車を指さす。試しに『視界良好』と『千里眼』をオンにしてみると――お、犬の魔獣が群がってるじゃん。なんであんな弱い魔獣にやられかけてるのか不明だけど。

 騎士がいないのかな? 結構なお嬢様も乗ってるみたいなのに。


「助けるの」

「無駄だろ」


 狐ちゃんと少年の声が重なった。意見が真反対だ。ということは。


「……チッ、しょうがねえな、助けるか」


 少年が折れるんだよねえ。

 分かりやすくて助かるわあ。


「じゃ、行きますかあ。誰が行こっか? 私でもいいけど」

「それは、だめ。……ぼくが招福、かける?」

「招福だと私達が助けたという明確な証拠になりませんね。威圧して追い払っても手柄になるかどうか。やはり、分かりやすく私が斬りましょうか」

「意外と乗り気だねえ。お願いするよ。私達は弱々しく後をついて行くからさ」

「はい」


 具体的な策を述べてくれるユアンに全部任せて、前を歩かせる。

 魔法は不言魔法が使えない(魔族だとバレる)ので、ユアンがいてくれるのはとても助かる。詠唱しちゃうとあんまり大きな魔法が打てないから。


 少し速足のユアンに続いて走った。だんだん馬車が近づいてくると、まるで阿鼻叫喚とでもいうような叫び声が聞こえて来た。


「ラルド、ラルド! なんてことっ……!」

「お嬢様、お下がりください。ここは私が」

「駄目よ! ラルドを置いていくつもりでしょうっ!」


 かなり騒いでる。ラルド、と呼ばれたらしき男性が、魔獣に向かって必死に立ち向かっていた。

 ……ちっちゃい、せいぜいドーベルマンくらいの犬の魔獣だよ? 私達はその百倍くらいある化け物を、この前倒してきたんだけど……弱くね、人族。

 私はそれを見て、危機感を抱く。


 これ、ユアンが一発で倒しちゃったら結構ヤバそう。


「ユアン、ちょっとだけ苦戦してくれる?」

「一番難しい注文ですね」


 ユアンが剣を抜く。騎士服じゃないのでいつも通りではないにせよ、その姿に頼り甲斐を感じた。


「この服では動きにくいのですが、ハンデとしては……」

「いや足りないでしょ」

「足りませんね」


 首肯して、ユアンが魔獣を見つめた。狙いを定めて――飛び出す。


「大丈夫ですか?」


 あちらからすれば、颯爽と現れた救世主のように見えたかもしれない。唖然として、慌てて状況を説明してくれた。

 分かり切ってたことではあったけど、それはこの状況を受け入れてくれたって事だ。僥倖、僥倖。


「あ、あの魔獣が、私達の馬車を!」

「ええ、そのようですね。お下がりください。私が――」

「ユアン。共闘してなんとか(・・・・)勝って」

「……共に戦いましょう」


 ユアンが一瞬渋い顔をした。よっぽどやりにくいらしい。そりゃ、魔獣だもんね。

 雪山に居たどの魔物よりも弱いよ。


 ラルドさん――恰好からして騎士っぽい――が、ユアンの隣に並ぶ。


「なかなかの強者です、あなた様もお気を付けください」

「……心してかかるとしましょう」


 ため息を押し殺すユアンの姿が痛ましい。


 二人は一気に剣を振るう。ラルドさんの剣は魔獣を吹き飛ばし、ユアンの剣は魔獣を両断した。さらに流れるような動作で、吹き飛ばされた魔獣の下へジャンプ。剣を突き立てると、振り返った。


 あのさ、なんとか勝てって言ったよね!?

 加減を知らないのかな、あの人?


 あれほどに被害を被ったというのに、魔獣達は一歩も退かない。どころか、ユアンに闘志を燃やしているらしい。歯を剥いて唸っている。生気のない目には敵しか映ってないようだった。

 どれだけ仲間を倒しても無駄――か。

 あんまり加減しなくてもいい感じかなー。


「ユアン」


 ユアンの視線がこちらを向く。


「頑張れ」

「――仰せのままに」


 口元に弧を描き、ユアンが笑う。場所さえ違えば、美青年の優雅な笑みに見えたことだろう。

 その美青年は、私の言葉でやる気を出したらしい。突き立てていた剣を、リズミカルに振るっていく。バタバタと、魔獣が片っ端から倒れる。ラルドさんは完璧に置き去りだった。


 そして、一分後、穏やかな平原が広がっていたはずの道には、魔獣の死骸が積み上がっていた。


 確かに私は、やる気を出すように応援したよ。

 だから、うん。文句は言わないよ。……はあ。


「す――すごい」


 ラルドさんが呟いた言葉が全てだったと思う。

 呆気に取られるお嬢様と、息を呑む御付きのお爺さん。唇を噛むラルドさん。


 ……さてと。

 こんな強い人間を従えてるこのチームのこと、どうやって説明しようかな?

閲覧ありがとうございます。

ごっこと言いつつ、お嬢様たちからしてみればまさに救世主。

ミルヴィアの声援がなければ辛勝(を演出)していたはず。

次回、お嬢様達とお話です。

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