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狐編 守ろうとする気持ち

本日(?)二本目です。

そこそこ書いた割にはほぼ本編と関係ない番外編みたいなものなので、読み飛ばし可です。

 ミルヴィアは寝込んで、お兄ちゃんはアルトとかいう呪いの部族とどこかに行って、私は霊魂族と二人きり。

 この状況をどう受け止めればいいのか、分からないの。


 ことはミルヴィアが「弱った顔とか見られたくないし、三人でどこか行って来てくれない?」と言い出したのが始まりだった。もちろん騎士である剣の一族がそんな事を許すはずがなく、断固として残ったのだけど、その代わりに私と霊魂族が追い出された。

 納得がいかない。

 周りの人族全てが敵に見えるこの状況で、どうしろっていうの。


 昨日の事は、かなり怖かった。魔族領で起こった誘拐事件とはわけが違う。魔族領ならもし万が一誰かに見つかれば必ず助けてもらえるっていう確かな事実があった。でも、ここではきっと、誰も助けてくれない。

 弱きは淘汰される。

 だから私より強かったあの三人は私を攫おうとして、あの三人より強かったミルヴィアは、それを阻止できた。


 自分が危ないのに短剣を振るって、自分の騎士を頼らずに、私達を守ろうとした。

 どうしてあんな風に守ろうとするのか――理解、できないの。


 私にとって『魔王』というのは、誰もが平伏す強さの象徴だった。

 それなのに、『ミルヴィア』は、誰にも平等に全てを与えている。


 無種族と蔑まされ、絶滅しかけていた私とお兄ちゃん。

 隔離者だと疎まれて、迫害され続けていた庭師の子供。

 呪う事しかできない、恐れられるしかない呪いの部族。

 森の中の魔物と嫌われ、ひっそりと生きていた夢魔。


 異端児だと人族から見放され、追放された弟子。

 最悪の夢魔だと、忌避されていた兄。

 呪われた一族の生き残りである、騎士。

 手当たり次第に襲い、自分で傷を負っていた執事。


 これらに、居場所を、縋るものを、名前を、生活を、立場を、逃げる場所を、身分を、目標を、与えた。


 ミルヴィアがどこまで自覚して行ったことなのか、私には想像もつかない。

 何も考えていないような気もするし、考えている気もする。考えていなかったとしたら天才で、考えていたとしたら優しすぎだ。

 ミルヴィアの周りには、それほどお腹に何か抱えた人が多すぎる。それら全部を守ろうとしてるなんて、常人の考えることじゃないの。


 ミルヴィアの周りで、何の問題も抱えていないのは――


「どうした。さっさと食べて、出るぞ」


 この、霊魂族くらいのものなの。


 何を考えているのか、眼鏡の奥の目からは何も読み取れない。私の『千里眼』をもってして、この男の思考は視れないの。普通、悪い事を考えてるか、良い事を考えてるかぐらいなら視れるものなのに。


 霊魂族というのはあまり聞かない、種族的には珍しい方ではあるけれど、さっき挙げた人達のような問題は持ってない。

 いや、持ってるのかすら判明してない。私とお兄ちゃんの完璧路地裏情報網ですら、この霊魂族の目的だのなんだのは全然分からないの。


「……食わないのか」


 眉を寄せて、私に話しかけてくる。

 いちおう、こいつは私とお兄ちゃんのことを無種族呼ばわりしないから、そこは気に入ってるの。


「ミルヴィアって、どうしてあんなにみんなを守ろうって、思ってるの? 今それを考えてたの」

「ああ。ミルヴィアのアレは気にするだけ無駄だ」

「む、無駄なの?」


 思ってなかった言葉が飛び出して、驚く。てっきり優しさ故だというものだと想像してたのに。


「いつからああいう事をしだしたのか、まるで分からん。カーティスが最初なのか、夢魔に名前を与えたのが始まりなのか……はっきり分かるのは、あいつにとってそれは普通だということだ」

「普通ってどういう意味なの?」

「続きは食べ終わってからだ。スプーンを口に運んで、その皿の上にある食べ物を胃に収めろ」


 はぐらかされたの。

 私は、ぱくぱくとご飯を飲み込んでいく。お腹が空いてたから、うん、いい感じなの。


 全部食べ終えて食堂を出ると、次は近くの広場にあったベンチに座った。人気の多い広場で、休みの炭鉱夫が談笑していたり、近くに住んでるのか、子供たちが遊んでいたりと賑やかだった。

 そこで、私は気になっていた話題をもう一度切り出す。


「ミルヴィアの話なの」

「……あいつは人を助けるのが大好きな奴だ。それでいて自分の思いのままに動くから性質が悪い。助けておきながら、その後は自分で歩ませる。優しいんだか厳しいんだか、判別が難しいところだな」

「ミルヴィアは、問題のあるみんなに、分け隔てないの」

「優しさの所以については、そういうところに生まれたから、と言うしかない」


 そういうところに生まれた?

 よく分からない。


「周りを優しい人間に囲まれていたら、きっとああいう人間に育つんだろう。カーティスは甘いし、ユアンだって――優しいといえば、優しい。俺も特別厳しくしているつもりはない。お前達も邪険にはしていないんだろう?」

「それは、順序が逆なの。だって、私達はミルヴィアが優しくしてくれたから、憎からず思ってるの」

「あまり順序は関係がない。循環が生まれているからな」

「循環、なの?」


 複雑そうな顔で、霊魂族は続ける。


「カーティスに優しくされたから、ユアンに優しくする。ユアンに優しくされたから、俺に優しくする。俺にも――悪いようにはされなかったから、次はお前達だ。そういう風に回っている」


 自分が優しいとは口が裂けても言わないつもりなの、こいつ。


「……あいつはきっと『私は優しいわけじゃない』と、言うだろう」

「うん、言うの」

「周りがしてくれたことを当たり前のようになぞっていたら、優しいだなんて思わない。あいつが優しくしたつもりなのは、せいぜいユアンを騎士に戻した時くらいだろう」


 裏切り者を許した時。

 その時くらいは、優しくしたつもりだったかもしれない。


「あいつがユアンを手元に残したのは何故だと考える?」

「……強い騎士がほしかったから、なの」

「外れだ。正解は、行く当てのなくなったユアンが可哀想だから」


 可哀想だから、騎士を手元に残した。

 もしかして、私とお兄ちゃんにも、可哀想だから。

 可哀想だから、仕方なく、お友達になってくれてるの?

 可哀想なんて、そんな事思われてるなら、それは、それは。


「哀れみの感情を抱くのは、ミルヴィアにとって全員が下の人間だからに他ならない――そう考えてるのなら、それも外れだ」

「っ!」

「あいつの感情はあいつだけのものだ。自分の尺度で考えるな。お前があいつが何故全てを守ろうとするのか理解できなかったように、あいつの『可哀想』の基準をお前が考えるものじゃない」

「…………」

「どう足掻いても、あいつは優しい。優しさを甘さだと糾弾されても、あいつは主義を変えないだろうな。あいつの優しさは、今のところ誰にも被害を及ぼしていない」

「被害って、何なの?」

「一人を救おうとして一人を失うとかだ」


 それは、被害というにはあんまりにも惨いの。

 結局、ミルヴィアの事はミルヴィアにしか分からないと、そういう事なのかもしれないの。


「――王としては立派な器だろうが、な」

「同感なの」


 ギリギリ聞こえるくらいの声量で発された言葉に、同じく囁くくらいの小声で返した。


 ただ、このままだとその他大勢の国民より、身内の誰かを優先させそうで。

 そこはちょっと、危ういの。

閲覧ありがとうございます。

少し前の『呪いの部族編』に対する答えとして受け取っていただければと思います。……とはいえ、ミルヴィアの優しさについて語らせたら三者三様、皆違う答えが返ってくるので、本当に参考程度の番外編ですね。

次回、王都まで歩きます。

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