196 新しい技を修得した……かもしれない
少年とアルトが帰ってきた。作戦会議はそこらへんの酒屋で買って来たサンドイッチを食べながら行って、皆へとへとだったから、そのままベッドにダイブして眠りこけた。
明日は私の疲労が一気に襲ってくると予想されてるから、何もせずに宿に泊まることになった。皆は皆で観光してくるみたいだから、羨ましい。私も行きたかった。
静かな寝息だけが響く室内で、私はうっすらと目を開けて紫色の糸のような光を追っていた。『変化』は解かないまま、可視化と併用している。
さっきまではユアンの周りを囲っていたのに、今では私の周りに在る。何がきっかけで移動したのか分からない。私が気を抜いた瞬間に移ってた気がする。
何なんだろうなー、この光。既視感あるんだけど、思い出せない。光と言いつつ動き回るし、触れば私の手を避けるみたいにたゆたう。どうやっても触れないし、なんなんだ。
しかも、これは意図して視ようとしてもなかなか視られない。たまに視えてもすぐに消えてしまったりする。だから、今みたいに継続して視ていられるのはたまたまだ。
この機を逃すわけにはいかない! と意気込んで必死に可視化を維持している。
うーむ、難しい。触れれば何か分かると思うんだけど、絶妙な角度で触らせてくれない……これ、傍から見たら何もない空間で指をくるくるさせてる変人なんだよねえ。そう思うとやる気も失せるわ。
さてと、これの原因の究明を急がないとね。よくないものかもしれない。
便宜上『糸光』とでも呼ぼうかな。糸に似てるから。
「――だ」
かすかな音を、耳が拾う。ぱっと起き上がると、糸光はいそいそと私から距離を取った。こうしてみると生きているようにも見える。
私は皆を起こさないように気を配った。
今の声、誰だ?
この部屋からじゃなく、もう少し遠い場所から聞こえてきたような。
……厄介ごとの匂いがするな。
見て来るか。
私は皆に真読魔法を掛ける。目を瞑って標準を定め、全員を眠らせた。特にユアンとエリアスには厳重に。
そっと部屋を抜け出し、昼と同じように外から鍵を掛ける。移動している間も、付かず離れず、糸光は私の周りを囲っていた。
「あんたら、ひょっとして生きてたりする?」
小声で語りかけても、反応はなかった。ちょっぴり寂しい。
さっさと宿を抜け出し、声がした方向を見る。そこには、どこかで見た三人衆が突っ立っていた。宿の塀を越えてきたようだ。
立派な不法侵入だぞ、おい。
「昼間の奴らはここに泊まっているはずだ。あの銀髪の小娘と、あとあの妙な瞳の色をした男児。あの二人は攫ってしまいたい。特に男児の方は目が黒かったからな、かなりの値が付くだろ」
うわ、よりによってその二人かよ。
狐ちゃんとアルトね……このパーティの中でも飛び抜けて不安な二人じゃんか。戦闘力がない子と、暴走しかねない子。
私は息を潜めた。糸光も呼応するように私の周りにきゅっと寄ってきた。
あいつらはやっぱり昼間の三人だよね。皆が気付いたらユアンとエリアスが過保護になるし、狐ちゃんが怯えるからさっさと片したいところ。
軽く追い出すか……? でも、また手を出したら強すぎる幼女とかって言って触れ回られるかも。
あ、そうか。
記憶に残らないくらい早く始末すればいいんだ。
方法が決まったら、あとは簡単。私は手のひらに魔法を生成して――って、え?
さっきまで私と距離を保っていた糸光が、するすると手のひらに寄ってきた。一つ一つの細かな光の粒が糸を形成していたのに、それが集まって、まるで光源のように光っている。
……これは。
「試して――みるか」
私はその糸光の集合体を、思い切り三人衆に向けて投げつける。光の可視化ができないから『視界良好』と『千里眼』を駆使して狙いを定めた。
一寸も狙いを外れることなく、紫色の光を放つ玉は三人衆に直撃した。一人を跳ね飛ばした後は一人、また一人といった具合で、私の思い通りに玉は動いた。
それを受けた三人衆は、苦痛に呻く事も無く地面に倒れ伏した。
んっ、体が重い……?
それにしても、魔法のなりそこないのはずだけど、結構威力強いんだな。ってか、ここまでとは思わなかった。痛がるくらいかな、あんまり期待しない方がいいかーとか思ってた。
飛んで行った光の玉は、ターゲットを倒し終えると分解されて、元通り私の周りに糸光として纏ってくる。
これ……やばいものを手に入れてしまったかもしれん。
何より凄いのは、魔力の消耗が一切ない事。あれだけ完璧に事を成し終えたのに、一ミリも魔力は減っていない。『変化』はオンのままだから魔力は少ないはずなのだけど、疲れも一切ない。
光の玉を放った瞬間、力が抜けるような心地がしたのは気のせいだったのか、今は何ともない。
……あ、あれってもしかして疲労が帰ってきてるって事だったのかな。
だとしたら早く戻って寝ないと。
だとしなくても早く戻らなきゃいけないんだけどね。皆が気付かないうちに。
「おい、今の何だよ」
「……そんな気はしてた」
少年は私の目の前に現れると、ため息交じりに言った。
「鍵、掛けてきたはずなんだけどなー?」
「アホか。窓ががら空きだったっつの」
「少年が窓から出入りする種族だって忘れてたわ。真読魔法は? 眠くならなかったの?」
「あー、なったけど、あれ霊魂族と剣の一族に重点置いてただろ。あんまり俺には掛からなかったよ」
マジか、そういうものなのか。確かに二人を警戒しすぎてたかも。
最悪少年ぐらいにならバレてもいいかーぐらいの気持ちだった。
「複数人にはあんまりうまくかからないんだね」
「真読魔法とか鍵とかどうでもいいから、とりあえず今のは何なんだよ。俺には神楽が何かを全力で投げたら三人が倒れたように見えたけど?」
「何も間違ってないよ」
「だからどういうことだっつってんだよ。何を投げたんだ? 見えなかったしよっぽどちっちぇえもん投げたんだろ」
あ、そっか、少年には見えてないのか、糸光。
今も私の周りをたゆたいつつ、少年に矛先を向けてるんだけど……やめなさい。
この人味方だから。
観察すれば観察するほど、意志があるとしか思えない動きをするなあ。
「紫色の光? みたいなのがね、あってさ。触れなくて、私の手を避けるの。魔法を使おうとしたら自由に動かせるの。糸光って呼んでる。これ、なんだと思う?」
「はあ? 魔法を使おうとしたら動かせるって、そりゃあお前――」
「ん?」
「……いや。なんでもない。魔王、それ、他の奴等には内緒にしとけよ」
「やっぱりそうした方がいいよね。得体の知れないものを操るとか、反対される気しかしない。……あと、少年、私は魔王じゃなくて神楽だよ。間違えないでね」
「ハイハイ。じゃ、戻るぞ。明日は疲労が戻ってくるんだろ。今のうちから寝とけ」
「了解」
やっぱり少年は気配りが上手いな。
私は可視化を途切れさせないまま少年と一緒に戻り、ベッドにもぐりこんだ。
ちなみに糸光は物を貫通するみたいで、布団の中までついてきた。
ほんと、何なんだろ、これ。
閲覧ありがとうございます。
紫の光は細くて、ミルヴィアの周りを螺旋状に囲ってる感じだと思います。触れません。
次回、寝込むミルヴィアに代わって、狐ちゃん編です。




