190 拗ねられた
翌朝、起きてみると予想以上に疲れが取れてた。絶対寝れないとか思ってたけど、そこはやっぱ疲れが上回ったみたい。熟睡できた。
リビング行きたくないなあ。騎士と顔合わせんのが気まずい。
私が起きたころにはみんなも起きていて、リビングでのんびりお茶してるところだった。
いやいや、待って。
そのお茶どっから取り出した?
「そこに薬草が生えていましたので、煎じました。火魔法は狐の方から手助けしていただいて」
すごい普通に話すじゃん。
顔合わせるのが気まずいとか思ってた自分が恥ずかしいわ。もっと照れろよ。赤面しろ。むしろ私の姿を見た途端逃げるとかそれぐらいやれ。
ほんっとに慣れてんなあ。普通女の子にあんなことやったら、恥ずかしくて話せないと思うんだけど?
「ほう、さすがだな」
とは言っても、私も魔王として接するなら全然問題ない。
こっちは強がりだけどね。
私も席に座る。と、珍しくアルトが寄ってこなかった。黙々と、出されたお茶を飲んでいる。……どうしたんだろう。体調悪いのかな。
声を掛けようかと思ったけど、少年がこれからの話を始めたからやめた。
重要だからね。
「別に、俺らは登頂しようとしてるわけじゃねぇ。横断できりゃあいい。今日は天気もいいし、たまに魔王が飛んで様子見て、真っ直ぐ進んでけばいい。進む道は、曖昧な地図だけど入手してっから」
少年が広げたのは、進むべき道を記した地図だった。まあ、少年の言う通り、かなり曖昧。曲がるところなんかは『○○の形をした岩を~』みたいな書き方だ。
でも、この山の地図なんてなかなか出回ってないから、良いのを入手した方なんじゃないかな。どうやって手に入れたんだろ。裏ルート的なもん?
「で、魔物の出る危険地帯も通るわけだが、そこは呪いの部族がいるから安心するとして」
「ぼくやらない」
え?
今なんと?
「もう、ぼく、招福……かけたくない」
「あ、アルト!?」
「どういう心境の変化なのっ!?」
私と狐ちゃんが叫ぶ。他の三人は「は?」という表情を浮かべてる。
いやいやいや、何? 疲れたの? やる気失せた?
っていうか、出かける前にお姉ちゃんを守るとか言ってくれてたじゃん!
「お姉ちゃん……昨日、ひみつの事してたでしょ」
うっ!
固まる。秘密の事……いや、思い当たらないなー。
ナンダロナー?
「秘密の事? なんだ、何かしてたのか?」
エリアスの純粋な疑問が今は痛いです。
あー、もしかしてアルトに見られてました?
……嘘でしょ、いや、え?
今すぐ騎士の反応を伺いたかったけど、多分勘のいいひとにはバレる。つまり全員に誰と何があったかなんとなくバレる。
絶対嫌だ。
少なくとも私が何かしてた、にとどめてほしい。
私が誰と何をしてたとか、そこまでは言わないで。
お願いだから! アルト!
「だから、もう、ぼく、お休みする」
つまり、これは、あれだ。
お姉ちゃんが勝手に行動しちゃったから……
拗ねちゃった?
私が唖然としていると、
「……まずは出かける準備しなきゃいけないの」
固まり切った時間を動かすために、狐ちゃんが動いてくれた。
サンキュー、狐ちゃん。
恩に着ます。
かまくらを撤去して、結界を解く間も、アルトはずっと無言だった。
エリアスから、説得しろだの、あいつの重要性が分かってるのかだの、めちゃくちゃに言われた。
分かってるよ、分かってるけどさ、説得して、アルトが怒ってみんなに言っちゃったらと思うと何も言えないよ! そう考えると、アルト、弁解もできないし説得もできないっていう、微妙なところで牽制にかかってる!
頭いいね!
発揮するところ違うけど!
「おい、本当、何をしていたんだ」
「女の秘密だよー」
「お前は女じゃない、いいから白状しろ」
え、女じゃないの私?
女扱いされてないの、もしかして。
「なあ魔王、これから通るところは第一関門なのに、本当にいいのかよ。呪いの部族なしじゃきついと思うぜ?」
「何とかなる。何とかするし、アルトは私がちょっとずつ説得していく」
できない気がするけど。
怒ってるならともかく、拗ねてる相手を説得するのって難しそう。
「じゃあ今やれよ」
「みんなとちょっと離れたところでね」
「なんでだよ。そんなまずいことしてたのか?」
「別に?」
「剣の一族絡み?」
「違う」
一瞬ヒヤッとしたけど、誤魔化せたらしい。少年は、ため息を吐いて行ってしまった。
説得頑張ろう。
覚悟を決めたところで、みんなでまとまって歩き始めた。ちなみに、騎士は平然としてたよ。さすがのポーカーフェイス。笑顔だけど。
日が照り付ける、寒い中での山脈横断。前世の学校行事でスキーに言った時、日が雪に反射して日焼けがなんちゃらとか習った気がしたので、それとなくみんなには言ってある。
私は、アルトと歩きながら話す。みんなとはちょっと離れたところで。
「なあ、アルト、招福があるとすごく助かるんだ」
「しらない。お姉ちゃん……ちょっと困っても、平気でしょ」
「アルトの力が必要なんだよ」
「しらないっ」
アルト、いつのまに拗ねるなんて感情を憶えたのよ。
感情が増えるのは嬉しいんだけど、拗ねないでよー、ここで! 超重要な場面じゃん!
でもまあ私が悪い……私が悪いのか?
あれ?
「アルト」
「やだ……ぼく、もう、しらない」
「……分かった。じゃあ、せめて怪我はしないようにしてくれ」
覚悟を決めよう。責任は取る。私が、襲ってきた魔物全部やっつけてやる。
やってやろうじゃあないの。
全員守り抜いてみせます。
――と、息巻いたはいいものの。
さっきから騎士が警戒態勢を崩さないせいで、全然魔物来ないし。
ねえ、私に出番ちょうだい?
「危険地帯はここからだからな」
「ん、りょーかい」
しかし、騎士が警戒しちゃってるせいで、私暇だなー。
久々に可視化の練習でもしながら歩こう。
魔力を微量に調節する。操作魔法を憶えたおかげか、ここら辺の細かな操作が超楽。すごいな……相変わらず、訓練の成果にしては地味だけど。
とりあえず可視化は固定で魔力の量を調整しつつ……にしても明るいなあ。
こんな明るかったら、魔物とかいないんじゃない?
「ミルヴィア様」
「ミルヴィア」
騎士とエリアスが構えるのはほとんど同時だった。遅ればせながら、私も構える。いないんじゃないかと言った途端気配がするとか、かっこ悪いからやめてほしいんだけど?
少年はアルトと狐ちゃんをかばう様に動く。
アルトまで気遣ってくれるなんて余裕あるねえ。
「どんな奴だ」
「ヒョードでしょうね。気配が大きくなってきます。魔王様、お下がりください」
ヒョードって言うのは、まあ言っちゃえばホッキョクグマみたいなもの。とはいえ凶暴だし、氷魔法まで操る厄介者だから、退治しないわけにいかない。見た目も厳つくて、ちょっと怖い。
私は手のひらに炎石を作り出す。炎をまとった石。
当たれば、打撲とやけどは必至。
「下がらない」
「魔王様」
「エリアス、少年と狐ちゃん、アルトを結界で囲って。私と騎士で応戦する」
「おい、俺も戦えるぜ」
「ここで戦力全部使う必要はないでしょ。体力温存しておいて」
「……了解」
さすがに聞き分けがいいな、助かるよ。
騎士は不満げではあったけど、それ以上は何も言わずに私の隣に並んだ。
騎士が一歩踏み出す。
「グアアアアアアアアアアア!」
来た!
「エリアス!」
「分かってる」
『縄張り』に足を踏み入れられたヒョードが、飛び出してきた。真っ黒な目に、真っ白な体。四足歩行で、その足が雪を踏みしめると、地鳴りのように地面が揺れた。
うわ、久々に大物と戦うからちょっと緊張してきたかも。
がんばろー。
炎石を投じる。もちろん当たらない、素早く避けられた。避けた場所にもう一回、炎石を投げる。また、避けられる。
ふうん、素早さはこんなものか。
考えられるほどの余裕は持ち合わせてた。いざとなればみんながいるし、私だってむざむざ殺されるほど愚か者じゃないつもり。
騎士に目配せする。
言わずとも伝わってるらしい、助かるね。
3・2・1。
「はっ!」
「!」
私が炎石を、わざと『避けやすい位置』に投げた。当然ヒョードはそれを軽々と避け、私に向かってくる。
うわああああ、怖いったら!
迫力!
――ん?
あの紫の、何だ?
私が紫の光に気を取られて逃げ遅れたところで、ヒョードを、騎士が一刀両断した。スタン、と、ほとんど音もなく。声もなく。
血は出ないせいで、終わった感がない。まだ動き出しそう。
「えい」
短剣でヒョードの喉を突き刺す。声はなかった。
よし、死んだね。
怖かったー……。
「おい魔王、あの作戦は感心しねぇぞ」
「私も驚きました。自分に標的を移させることはないでしょう」
「無謀だ」
「待って、やめて。そんな責めないでよ、成功したしさ」
「剣の一族の実力ありきの作戦なの」
「もちろん。そうじゃなきゃ意味ないじゃん?」
私一人でなんとかしてもよかったんだけどさ、なんとなくやっぱり連携を取ってみたかった。
ゲームとかでよくあるよね、連携技。
「今回、旅の途中でみんなとの連携を磨いていこうかなって」
「意味があるのか、それは」
「あるよ。二人でやる分行動の幅は広がるし、強力じゃん?」
「おー、賛成賛成。じゃあ次俺と魔王な。妹との連携とかはばっちりだから」
少年……多分だけど、あなたやる意味よりも楽しさを優先させてるね?
うん。
私も。
みんなと戦うって、やっぱり浪漫あるし。当然、本当に危なかったら乱戦でもいいんだけどね?
「先、進もう」
アルトがぶっきらぼうに言う。唇を尖らせて、眉を寄せている。
……あ。
アルト、ますます拗ねた? これ。
……やば。
閲覧ありがとうございます。
アルトの重要性は本編で述べていた通りなので、それがなくなったら本当は「やばい」で済ませられることじゃないです。
次回、少年と遊びます。




