188 雪の家
床が必要。あとベッドもいるかなー、人数分。で、さらにさらに服を置いておくハンガー的なものもあったら便利だよね。
一晩寝るだけだっていっても、ここでしっかりしていたら明日順調に進める。
いえー、あったまいー。
……この自分ヨイショは頭悪そうだな。
「おい、変なこと考えていないだろうな」
「変なことなんて考えてないよ。床とベッドとハンガーを置こうかと」
「俺が言ってるのはそれだ。それが変なことだと言ってるんだ!」
声を荒げるエリアスを宥めるように手のひらを向ける。
怒らない怒らない。怒っても体力消耗するだけだって。雪山でそれは自殺行為だよ。
「じゃあエリアス、冷たい雪の上で寝るの? そんなの眠れるわけないし、体力が奪われるばっかりだよ」
「それは――だが、別にベッドまで作らなくてもいいだろう」
「エリアス、自宅の床で寝たことある? ないでしょ?」
「…………」
少年と狐ちゃんはともかく、他の人達はかなりいい暮らしをしてきた(アルトはよく分からないけど)。床で寝るなんてできるわけない。私も前世合わせてベッドだったから怪しいし。
言葉に詰まったエリアスににやりと笑いかけ、背中をバシッと叩く。
「まあまあ、心配なさらんな。私を誰だと心得る」
「魔王だろう」
「そうそう。魔王のいう事なんだよ? できるできる。やれるやれる。私が今まで言ってやらなかったことあった?」
「ないことはないだろう」
「う、ん。ない……よ」
多分ね?
多分ないよ。ない……多分。
「じゃ、始めるんで、皆さんいったん『温暖火』消しますねー。いいですかー」
「もう諦めたの」
「好きなようにやりゃあいいんじゃねえの?」
「お姉ちゃん……がんばって」
「無理なさらないように」
みんなも私に慣れてるせいか、かまくらで諦めがついたらしい。私はまず床の制作に取り掛かるる。
操作魔法を操り、雪と魔力、そして空中の塵を集め、反応を起こさせて木へと変化させていく。操作魔法は、いわば錬金術のようなものだから、必要な要素が揃えばなんにでも変えられる。
ものの十分で、下は暖かい木の床に変わった。木目もしっかり再現してる(ちなみに意味はない)。
さすがに床暖房までは完備させらんなかった。
次、ベッド。さっきと同じ要領で木を作り、シーツ、綿。シルクとまではいかないし、市販のものやアイルズが作ったものと比べるとお粗末だけど、一晩泊まるだけだしね。
さっき言ったこととと矛盾してるって?
気にしない気にしない。
さて、ベッド人数分も完了。
「さすがにやりすぎなの。なんか家になってきてるの」
「もっと快適に作り上げるから待っててねー」
「……ここでずっと住みたいの」
一瞬狐ちゃんの目の奥に、仄暗い煙がゆれた気がした。少年がふいっとそっぽをむく。
そっか、狐ちゃんたちの家はここまで充実してないのかな。
いつかプレゼントしてあげたいな。今はお兄様からのバイト代で、本当に自分で稼いだとは言いづらいから、ちゃんと魔王になったらね。
さてと、次はハンガーとハンガーを掛ける洋服掛けね。
これは簡単だな。木で作ろう。組み合わせるだけだしね。
さっきから木ばかりを使っているのは、木と水と炎が操作魔法では一番扱いやすいから。逆に、鉄やガラスと言う加工されたものは扱いづらい。
自然に存在するものが一番いい。
しばらくして全部作り上げると、雰囲気が暖かくなった。下を木にしたからかまくらが崩れるということもなさそうで一安心。
「さ、ゆっくり過ごそう!」
「…………」
「エリアス様、もう何も言わずにおきましょう」
「……そうだな」
エリアスにまで諦められてしまった。これ、突っ走りすぎてみんなに見捨てられるタイプの奴? いつの間にか嫌われる奴?
「うわああ、ベッドふっかふっかなの!」
「すげえ。寝やすそう」
「もう、寝る」
……子供たちには好評みたいだ。
よかったよかった。みんなに嫌がられちゃ、作った意味ないもんね。
「魔王様」
「なんだ?」
騎士が、こそこそと話してくる。私も声量を絞った。
なんか問題あったかな?
「着替えの際の話なのですが……」
「ああ、壁か。なるほど」
その手があったか。
「いえ。その時々作っていただければいいのです。あの、魔王様?」
騎士が察しの良さを発揮する。
よーし。
「みんな、ちょーっと揺れるよ!」
ゴザを取り払う。外から雪をごっそり持ってくる。気分が乗ってる時の魔法は荒くなりがちなのに、いつもよりうまくいく気がする。大量に運んだ雪で、リビング、寝室を二つと壁を作って分ける。ついでにそれぞれに木製のドアも取り付け、リビングには人数分の椅子とテーブルを設置した。ついでにソファのようなものも作って設置。
この間、誰も何も言わなかった。圧倒されて言えなかったのかもしれない。
エリアスでさえ、作業が終わっても無言だった。
騎士はといえば、くすくす笑いながら見ていた。あいつにとってはいつもの事なのか、考えてみれば。私が思い付きで行動するのは慣れっこなのかもしれない。
「ふー、これでいいかな?」
「なあ、魔王、お前さあ、魔王なんかやってないで大工になれば? 魔王がいれば建築業界も安泰だろ」
一番に声を発したのは、少年だった。諦めるとか呆れられるを通り越して、感心されてしまったらしい。なるほどやはり何事も行き過ぎると褒められるのか。
ゲームをやり込んでも呆れられるが、極めてゲーム関連の職に就ければ文句を言う人間も減るだろう。
「ちなみにベッドの配置は、私と狐ちゃんとアルト、少年とエリアスと騎士。おーけー? 意義があれば移動させるよ」
「別にないの」
「いいんじゃね。できれば個室がよかったけどな」
「そこまでのスペースはないなあ」
感心されると必要以上の物も求められるようになるんだな。
あんまり極めるのもよろしくないかも?
「机とテーブルは何故作ったのです?」
「みんなで食べる時は食卓を囲むのが一番和むだろう」
「和みは求めてねぇぞ」
「……ぼく、お姉ちゃんのとなり」
「アルトは可愛いな」
ぴっとりくっついてきたアルトを撫で回す。アルトは目を瞑ってなされるまま。
あー可愛い。大好き。
コナー君っぽい可愛さだよね、小動物って言うか母性本能をくすぐられると言いますか。
「じゃあそろそろ食べるか?」
「ごはん? もうそんな時間?」
「魔王がいろいろやっている間に六時だな」
「あれだけいろいろなことをやって一時間しか経っていないのだと思うと、かなり早くに終わりましたね」
「それでも一日中歩いたんだ、休みたいだろう」
エリアスはそう言って、ちらりと狐ちゃんと少年を見た。意外と二人の事も気にしてくれてる?
嬉しいねぇ。
「何をにやけてるんだ」
「なんでも? じゃあお弁当開けよっか。いやー、おなかすいてたから嬉しいなあ」
「考えてみりゃあ、道中おにぎり一個食ったぐらいじゃねぇの? 俺らよくもってたな」
「体力のある面々が揃ってるからねー。狐ちゃんはお兄ちゃんが思いっきり守ってたし」
「うっせぇ」
照れなくていいのに。かっこいいことだよ。
なんだかんだ落ち着いて、私達はテーブルについた。
お腹いっぱい食べよっと。
みんなで食べるの、修学旅行っぽくて悪くないな。
閲覧ありがとうございます。
感想をいただきまして、筆が乗って投稿しました。気付けば半年も空いてたのですね。
申し訳ありません。久々に楽しんでいただけたら幸いです。
ミルヴィアが勢いで行動するのは、ユアンも読者様も慣れっこかと思います。
次回、星空です。




