186 雪山
騎士とエリアスが周囲に目を配り、少年は狐ちゃんを疲れさせないように気を使い、アルトは特に何もせず……アルトは歩くだけで精一杯だろうし、全然いいんだけどね。
このパーティにおんぶしてくれるような人はいないから。
アルトは一番疲れないのが仕事。そのアルトの面倒を見るのが私の仕事。
そうやって歩いていると、遠くの方にうっすらと雪山が見えて来た。見通しを良くしようとフルで魔力を稼働させてようやく見えたくらいなので、まだまだ遠いのかもしれない。
……暇だ。
うん。暇だ。すごく暇だ。
私はエリアスの顔を覗き込む。
「そう言えば、泊まるときってどうするの?」
「俺が結界を張ってやるから、お前が雪を動かしてかまくらでも創ってくれ」
「なんでかまくらなの? 普通に土で簡易的な小屋作ればいいんじゃないの?」
「かまくらは断熱性が高いからな。暖かいだろうし、お前が創れば絶対に溶けないだろう」
「絶対にって」
信頼が重いなー。ちょっとその期待に応えられるかどうか怪しいなー。
「もしミルヴィアが疲れるようだったら俺も手伝うから安心しろ」
「おっ、頼りがいがあるねえ」
「大人なんだから当然だろ」
おお、かなり頼もしい。エリアス、今回人族領へ行くに当たって、滅茶苦茶頼もしくない?どうした急に。それほど不安なのかな。
私は次に少年をロックオンする。話し相手としてね。少年は狐ちゃんを雪から庇うのに尽力していた。自分が盾になったりして。
いいお兄ちゃんだ。
「バリア張れば?」
「あのなあ、みんながみんな、お前みたいに魔力が無尽蔵なわけじゃねえんだよ」
「私だって無尽蔵じゃないと思うけど……」
黒髪なんて前例がなさ過ぎて確かな事は言えないけど。
「ただのバリアならそんなに消費魔力多くないじゃん」
「だけど、もし魔獣に遭遇したらどうすんだ?その時戦える奴が居ないと困るだろ」
「ぼくが、招福やってるから――だいじょうぶ」
「ほら、アルトもこう言ってるし」
「……もしもの場合があるだろ」
あ、これは意地になってるな。
私は一人で納得すると、何も言わずに引いた。
ちなみにもしもの場合でも騎士が居るので大丈夫です。騎士が居なくても、私が居るし。私と少年の戦闘力なら、私の方が上じゃないかな。
……………
いや、どうだろ。
微妙なところかもしれない。
これは近いうちにはっきりさせた方が良いのでは?
「魔王様、あれをご覧ください」
私が仲間割れのキッカケを作ろうとしていると、騎士が正面の上の方を指差す。その言葉は皆にも聞こえたようで、皆が一斉に騎士の指の先を見る。
さっきまで何もなかった一面の吹雪から、数歩先は斜面になっていた。つまり、雪山への入り口だ。
「本当に何の管理もされていないんだな」
「適当すぎるとは思いますが、ここに近付く人なんて滅多に居ないでしょうからね」
「ところどころ斜面が急なところがあるから、滑らねえように気を付けろよ」
この中の年上組が率先してそう言い、歩き始める。
これ、転がったら漫画みたいに雪だるまになるんじゃなかろうか。
そう思うほど、踏みしめる雪の深さが違う。脛の辺りまですっぽり埋まってしまう。
「うぉおおお……」
すごい。〝そこそこ都会〟な場所で育った私にはこの量の雪が目新しくて楽しい。
私はぽすぽすと足を突っ込んだり抜いたりする。
「これ、ずっと遊んでたい。雪だるま作ろうよ、雪だるま!」
「お姉ちゃん、先進まないと……」
アルトに諭されてしまった。しかしアルトも少しは楽しいみたいで、目をキラキラさせながら(私にしか分からないくらいの差だけど)雪を見ていた。
反応が無いのは年上組だけ。狐ちゃんなんて手で雪玉作ってるからね。
やっぱり雪って楽しい! そうだ、
「何やってんだよ、お前ら。雪なんてこれから散々見るし、少しすれば温度の方に気が取られるぜ」
「大人ぶっちゃって、楽しんでるくせに」
「ぶってねーよ!いいから進むぞ!」
怒らせてしまった。エリアスとユアンは微笑まし気に見てるので、多分そっちが大人の対応……なのか?
体力の温存のためにも早く進んだ方が良いのは確かなので、アルトの手を引いて少年に続く。狐ちゃんも、せっかく作った雪玉を名残惜し気に二個だけ積んで、簡単な雪だるまを作っていた。
ていうか、雪玉作るの上手いな。まん丸。
その雪玉も、吹きすさぶ吹雪に埋もれていく。それを見てると、なんとなくテンションが落ち着いてきた。
あ、なんか寒くなって来たかも……。
さっきまでのテンションが落ち着いたら急に。やっぱりハイテンションになると周りの事ってどうでもよくなるのかも。
だったらハイテンションのままで居させて欲しかった……。
「大丈夫ですか?寒ければ『温暖火』の魔法を使えば温度を保てますが、あまりやらない方がいいかもしれません」
「……そう、だな」
騎士の心配そうな言葉に、頷く。
『温暖火』は、周りを燃やさないけど温度だけは伝わると言う超便利魔法。
ただ魔力の消費が半端じゃないのであんまり使えない。
……でも、魔力がたくさんある私まで魔力温存し始めたら何したいのか分からないね。
周りの人達も寒そうにしてるし、あんまりケチり過ぎてもダメか。
ちなみにアルトだけなんともなさそうです。何この子すごい。
「皆、もう少しまとまって歩こ。『温暖火』、使うから」
「はあ?やめとけよ、あれ維持させるのにどれだけ魔力使うと思ってんだ?」
「そうかもしれないけど、魔力の多い私はあんまり温存しすぎてもいけないんじゃない?飛ぶのとバリアなんて大した魔力使わないんだからさ」
「……賛成、なの。悪いけど、結構、限界、なの」
「早いねぇ」
体力無いなぁ、狐ちゃん。苦笑しつつ少年を見ると、狐ちゃんが希望したことによって反論してこなくなった。甘々だね。
エリアスを伺うと、
「いいんじゃないか。もしお前の魔力が足りなくなっても少し休めば回復するだろうし、どれくらいで尽きるのかも気になるからな」
「ん。じゃ、アルトはもうちょっとこっちに寄って。で、狐ちゃんと少年はこっちで……」
と、皆で固まるように陣形(?)を組む。風からは騎士が守ってくれて、もし誰かが後ろに倒れたらエリアスが支えてくれるような形。
よーし、準備完了。
それでは、魔力を込める準備をしてっと。
「温暖火」
ぽう、っと淡く赤い明りが私の手のひらに浮かぶ。これ、周囲を照らしてくれるから結構いいかも。
しかも周りの雪が解けていく。狐ちゃんはふるふると震えながら火に手を翳している。
「うう、あったかいの」
「じゃ、この感じで歩こうか」
「お前、魔力不足の感覚とかねえの?」
「無い。元気だよ」
「……やっぱりお前って見た目変える以外に『変化』の使い道ねぇな」
一時的に魔力を増やすって言う本来の使用法は出来ないね。
魔力が足りなくなった時の疲労感とか一切ない。やっぱり黒髪の恩恵はこういう小さなところでも受けておかないと、勿体ないね。
「歩けるところまで歩いて、夜になったら眠るの。倒れないように気を付けないとなの」
「そういえば、時間ってどうやって把握するの?吹雪で時間とか全然分からないけど」
「俺の体内時計だ」
と、エリアスが言う。大丈夫か……?
「……それじゃあ、お姉ちゃん、何も起こらないように、気を付けようね……」
「ああ。大丈夫。何事もないだろうしな」
アルトの招福に加えて、騎士とエリアスの戦力、狐ちゃんのサポート。私と少年は遊撃部隊。
何かあっても負ける気がしない。
漠然とした不安を抱かないようにそんな事を考えながら、私達は吹雪の中を歩いて行った。
閲覧ありがとうございます。
久々の投稿です、本当にお待たせしました。
書いていて思うのですが、短いセリフだと少年とエリアスの区別がつかなくなる時があります。狐ちゃんやユアンは分かりやすいのですが。
しっかり区別が付けられるように技術を磨いていけたらと思います。
次回、雪遊びです。




