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185 歩く

 何この雨、一寸先も見えないんですけど。

 先導するのはエリアス、私の手を握って並行して歩いてるのがアルト、私とほぼ同じペースで歩いてる少年と狐ちゃん、私の後ろで護衛を務めてるユアン。

 かなりの色物ぞろいなんだよね。

 私の知り合いの中でも選りすぐりの変わった人たちを集めている感じがする。


「あ、そういえば、食べ物ってどうするの?弁当屋『ツハシ』、やってないんじゃない?」

「あそこの営業時間をなめちゃいけないの。年中無休、大雨大雪雷でも営業してるところなの」

「……そう」


 そういうお店も、地球(あっち)じゃ稀に見たけどね。

 こっちじゃあ、大雨って言うと台風だし、大雪って言ったら吹雪だし、雷って言ったら三日三晩止まないし。

 それでも営業するって、中々だな。

 私なら絶対無理だ――と、魔王って年中無休なのかな?

 ブラックかな?


「魔王は年中無休が当たり前だろ、有給とかねーから」

「わあ、素敵ー」


 死んだ目で空を見ながら言った。

 大雨の中なのに、皆の声だけははっきり聞こえてるってんだから、皆耳がいいよね。

 ああでも、狐ちゃんと少年は獣(半分)だから耳が良いのは当たり前なのかな。

 狐ちゃん、目の良さに加えて耳の良さまで発揮されると、ちょっといいとこどり過ぎな気がするよ。


「ところで、ツハシに行く方向って合ってるの?」

「んっ」


 先導していたエリアスがピタッと歩みを止める。かなり自信が無さげだった。

 ……そういやあエリアスって味覚音痴なところあったし、もしかして方向音痴だったりする?

 いや、さすがにそれは無いかな……味覚音痴かつ方向音痴ってのは……。

 大雨で前がほとんど見えない状態だし、迷ってても無理はないけど。


「……ミルヴィア、『飛行』を頼む」

「やっぱり間違ってるのか」

「念のためだ」

「はいはい――アルト、ちょっとここで待ってろ」

「うん、お姉ちゃん」


 いい子だいい子だ。

 行くときの条件として、私の言う事をちゃんと聞くっていうのが出来てるみたいだね。

 私は満足して頷き、アルトの手を離してジャンプ。それと同時に羽を広げ、雨の影響が無いように腕を伸ばして頭上に断水バリアを張る。

 じゃあレインコートとか要らないだろって思うかもしれないけど、魔力消費は極力避けたいからね。

 まあ、何よりの理由はずっと腕上げて歩いてると疲れるからなんだけど。

 んーっと、『ツハシ』はどこかなー。


 ……見えないし……。

 そりゃそうだよね、空飛んだところで見えるはずないよねぇ。どーしよっかなあ、今下りて「何も見えなかった!」じゃ格好付かん。

 あっ、そうだ。ここは色々と使ってみるをところなんじゃないか?

 新しく貰った奴もある事だし。

 

 『視界良好』、オン。

 『千里眼』、オン。

 光の可視化も追加して、明るくしてっと。


 そうしてみると、雨で若干視界が遮られるものの、街は一望できた。私ら以外外出してる気配無いわ。当たり前だけども。

 どこかな、意外と上からじゃ分かりづらいんだよなー……と言ってる側から発見。

 案の定、北に進んでたのに西の方にツハシはあった。やっぱり方向音痴なのでは。


 私はゆっくり降下すると、バリアを解いてエリアスを見た。そしてニヤッと挑発するように笑って見せる。


「あったよ、あっち側」

「……行くぞ」

「はーい」


 今度は私とエリアスが並行して歩いて、何気なーく誘導する。どっちが子供なんだか……私なんだけど。

 前世合わせてもここらの大人には勝てない。

 そう考えると転生のアドバンテージがほぼ無いんだけど。

 子供がちょっと大人っぽいってだけじゃね?


 かなり長い距離歩いていると、やっと弁当屋ツハシが見えて来た。すごい距離を歩いたのに、皆全然息切れしてないし疲れてる様子もない。

 流石です皆さん。

 私は吸血鬼だからって思えるけど、ユアンとかあんまり種族関係ないからね。


 ツハシで長持ちするお弁当を人数分×2買って、店を出る。店主さん、不愛想だけどふりかけみたいなヤツをおまけしてくれたよ。

 魔族に悪い人はいない。

 犯罪率を見れば明らかなんだよね。そう思うと私が今まで過ごして来た平和な世界と裏腹な人族領がどんなもんか不安になって来る。

 みんなが言っているほどひどくないと良いな。


 またしばらく歩いて、少し雨足が弱まって来た……気がする。雨雲が移動したからか私達が移動したからかは定かじゃないけど、とりあえず。

 あと、まだ城下町ではあるんだけど少し田舎っぽくなってきた。

 雰囲気とか木の数とか花の多さとか畑があるところとか……田舎っぽい。

 畑が決定的。


「なあ、そろそろ休もうぜ。そこにベンチがある」

「うん、そうするの」


 少年の提案に、狐ちゃんが一もにもなく乗る。弱音を吐かなかったと言うだけで結構疲れてたらしい。

 狐ちゃん、私との訓練の時もすぐ息上がってたし、結構疲れたとみた。


 ユアンもエリアスも異を唱えなかったので、私達が屋根付きの休憩所まで行った。皆フードを外して一息つく。

 ちょっと熱いんだよね、このフード。

 狐ちゃんと少年がまず座り、残ったスペースにアルトを座らせる。

 と、少年がいきなり立ち上がり、


「座れ」

「え、いいよ、座っときなよ」

「この後お前、何回か飛ばなきゃいけないだろ?座って休んどけ」

「……じゃあ、うん、お言葉に甘えて」


 少年、結構優しいんだよね。さっき休憩を提案したのだって、疲れてた狐ちゃんを慮っての事だろうし。

 狐ちゃんが詰めて、私がアルトの隣に座れるようにしてくれた。二人にお礼を言って、ベンチに座る。

 エリアスとユアンは、まあ、絶対座んなくて平気でしょ。


「あ……お姉ちゃん、トラブルに見舞われない招福……あげる」

「おお、ありがとう。えーっと、全員に掛けると言うのは無理なのか?」

「……一人が掛かってれば、周りの人も影響される、から……」


 アルトは無表情のまま、私を見てくる。


「そうか、じゃあお願いするよ」

「うん」


 そう言って、手を差し出して来た。その手に手を重ねると、ふわりと甘い匂いが漂って来た。

 アルトの目が、しっかり私の手のひらを見ている。

 本に招福によってやり方は色々、って書いてあったな。

 これは、匂いを嗅がせるみたいなやり方なのかな?


「……はい」

「もう終わりか、早いな」

「頑張った」

「そうか、ありがとう」

「終わったんなら出発するか。大丈夫だろ?」

「うん、もう平気なの」


 狐ちゃんに確認を取ってから、フードを被ってまた歩き出す。

 ユアンとエリアスには何も聞かない徹底ぶり……。

 ま、まああの二人なら大丈夫だろうって感じするしね?

 よし、まだしばらく歩かなきゃなんないけど、頑張ろ……。


閲覧ありがとうございます。

雪山まで行くつもりだったのですが、雪山に入る前に招福を掛けておきたかったので変更です。

少年は意外と気が回ります。優しいと言うよりは気遣いのできるタイプですね。

次回、今度こそ雪山です。

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