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184 雨天決行

 全員、お兄様から渡されたレインコートに身を包む。トレンチコートみたいな形をしてて、結構おしゃれ。いいなー、私普通にこれ欲しい。前世だったら買ってた。

 ちなみに、この世界のお洒落なレインコートって滅茶苦茶高いです。そこは前世と同じだね。

 私もレインコートに袖を通して、ボタンを締める――お?

 やばい。ボタン、固い……くっ、締められない。

 こなくそー!


「……貸せ」

「ん、あ、ありがと」

「お前、腕力はあるのに握力弱いんだな」


 うっ!

 だ、だってね、短剣振るうにしても握力は鍛えられないししょうがない。

 少年がどんどんボタンを締めていってくれる。騎士がじーっと見てるけど気にしない。あの、少し恥ずかしいのであまり見ないでほしいのですが。

 少年がボタンを締め終えると、よし、と頷いた。


「おお、完璧」

「完璧じゃないボタンの締め方ってあんの?」

「……一個ズレてるとか、かな?」

「お似合いですよ、魔王様」

「レインコートが似合ってると言われてもさほど嬉しくないな」


 トレンチコートが似合ってるって言うんだったら嬉しいけどね。

 私はちらっと騎士を見る。騎士にトレンチコート……滅茶苦茶似合ってる。剣を下げてるのが、またファンタジーの世界っぽくて好き。


「どうかしましたか?」

「何でもない」


 素直に似合ってると褒めるのも癪だったので、そんな風に返す。

 何だろう、この騎士に関してはしょうもない意地みたいなのが働くんだよなあ……。


「全員着たなら、行くぞ――そんなに時間の余裕があるわけじゃない」


 そうだね、と頷いて、部屋を出ようとすると、


「ああ、待ってエリアス」


 とお兄様が声をかけた。

 お兄様はエリアスを引き留めて、ぼそぼそと耳元で何かを囁いた。エリアスはしかめっ面でお兄様を見る。

 え、なになに。気になる。


「いや、そんな事を言われても」

「いいから。刺激としては良いだろう?」

「……お前性格悪いな」

「君に言われたくはない」


 お兄様に性格が悪いって言うのは、妹として看過できないんだけど……迂闊に口を挟めない空気が、二人の間に流れてる。

 こういうのけ者感嫌いなんだよね……前世ではぼっちだったけどさ。

 あれはのけ者っていうか馴染めなかったってだけだし。


「分かった、もしそうなったら尽力する」

「よろしく」


 お兄様はそう言うと、また一定の距離を取る。

 ……お兄様とエリアスと騎士って、微妙な距離があるよね。どうしてなのかは知らないけど。


「神楽の知らぬこともこの世にはあると言う事よ」

「何を偉そうに……言っとくけど、レーヴィ、私が不在の間、変な事したら許さないからね」

「分かっておるよ、しばらくは森の均衡を保つために動くから安心せい。まったく、心配しすぎじゃ」


 だって夢魔だし……私の眷属だからって食欲が抑えられるとは思えないし。


「ではの。儂はここで見送る。あんまり別れるまでの時間が長いと、寂しくなるからのう」

「ははっ、レーヴィらしい。分かった。じゃあね」

「じゃあの」


 レーヴィが手を挙げて来たので、不意打ちでハイタッチしてやる。レーヴィが驚いてよろけたのが面白かった。

 しばらく会えないのかー、そう思うと寂しいなあ。

 惜しむような目でレーヴィを見ると、苦笑された。こういう心情もお見通しってか?


「じゃあ、行くぞ」

「分かったの」

「よし」

「おっけー」

「……」


 各々が返事して、部屋の外に出る。ぞろぞろと廊下を歩く面々が、なんというか特徴的過ぎて、すれ違うメイドさんとかに驚かれてた。

 廊下を歩きながら、誰も何も話さない。かと言って気まずい空気じゃなくて、皆それなりにリラックスしている感じだった。


 う、うわ、また妙に緊張してきた。エリアスに拭ってもらった不安がまた……。

 だ、大丈夫大丈夫、大雨だからってどうにもならないって。

 結界張ればいいし、山の中でもどうにかなるよ、きっと。


「ミルヴィア!」

「っ!?」


 大声で名前を呼ばれて足が止まる。後ろを見ると、全速力で走って来てるコナー君が見えた。

 あっちゃー、やってしまったかな?

 今日出発するって事はコナー君には内緒にしてたんだけど……バレたか。

 どうしてかって聞いたら、そりゃ、コナー君が早起きだからっていう理由なんでしょうね。

 こんな早朝に皆が集まってたらバレるわな。


「もう行くの?」


 悲しそうに、荒く息を吐きながら私を見てくる。

 何この子。可愛い。


「うん」

「どうして行ってくれなかったの。お見送りしたかったのに」

「寂しくなっちゃうから……ごめんね」


 不満そうなコナー君を宥めながら、ちらっと少年達を見る。

 あんまり思うところは無さそうだったからよかったけど、そういえば少年と狐ちゃんってコナー君と会うの初めてだっけ?


「雨なのに、行くの?危なくない?」

「大丈夫だよ、私も居るし、騎士も――」


 そこでやめた。コナー君が恨めしそうに騎士を見てるのに気づいたから。

 敵意……騎士ってホントに、私以外から好かれてないんじゃないか?

 騎士の事を詳しく知らない女性達は別として。


「……ミルヴィアの事、今度こそ守ってくださいよ。そうじゃないと許しませんから」

「心得ております、必ず護りますよ」

「そんな言葉、信用できません」


 騎士が困ったように笑う。

 確かにね、あんまり信用できないけども。

 コナー君からしてみれば、私が攫われた時と騎士が一度離れた時、両方裏切られてるわけだしね。

 しょうがないし、その事で騎士を庇うつもりは一ミリもない。


「コナー君、安心して。ほら、エリアスも居るし」

「……そっか、そうだね」


 エリアスさんが居るなら安心だね、とコナー君が無邪気に笑う。

 いやあ、もう純粋過ぎて逆に心配だわ。


「さあ、まだ朝早いし、まだ寝てなよ、今日はお庭の手入れお休みでしょ?ちょっとは休日も必要だよ」

「え、でも」

「いいですよね?お兄様」


 私にしては珍しく、甘えるようにお兄様を見る。お兄様はうーん、と唸って、


「いつもよく働いてくれてるからね。いいよ、今日はお休みだ」

「……いいんですか?」

「うん、ゆっくりしなさい」


 お兄様が大人なところを見せてくれた。

 やったね。


「ありがとうございます」


 コナー君は嬉しそうに笑った。そりゃ、子供が毎朝早起きってきついよ。

 いくら夜は仕事がなくなるとはいえ、コナー君って意外と仕事人だし、休みの日も仕事の事とか考えてそう……そう考えると公爵家ってブラック?


「じゃあ、ここで別れよう」

「気を付けてね、本当に。怪我とかして帰って来ないでよ?」

「コナー君、私は魔王なんだから、怪我なんてして帰ってくるはずないよ」


 そう言って笑って見せると、コナー君は幾らか安心したみたいだった。

 後ろでエリアスが笑ったのが分かったけど、気にしない。エリアスの受け売りだとばれるのはちょっと嫌だった。


「ばいばい、帰って来たらまた遊ぼうね」

「うん、約束」


 私はそう言って、コナー君とハイタッチした。息ぴったり。気持ちいいねー。


 コナー君と別れると、あっという間に玄関に着いた。そういえば、少し緊張が和らいだ気がする。コナー君パワーだな、恐るべし。

 そう思っていると、エリアスが扉を開けてくれる。外はバケツをひっくり返したような大雨だった。

 行く気が削がれる。


「じゃあね、ミルヴィア。くれぐれも気を付けるんだよ」

「分かりました、お兄様」

「……ユアン、僕からも言っておく。ミルヴィアに何かあったらただじゃおかないからね。その場合、僕含めた全員が敵に回ると思っておいて」


 なにそれ恐怖でしかないんですけど。

 ……それって、ユアン殺されるんじゃ。


「肝に銘じておきます」


 いつも通りの笑みを浮かべて応える騎士。動じないってのがすごいなあ。

 実際、お兄様とユアンが本気で対立したらどうなるんだろう。肉弾戦なら確実にお兄様が勝つだろうけれど、剣と魔法で張り合うんだったら互角かな?


「おい、さっさと行くぞ。雨足が強くなったらどーすんだ」

「これ以上強くなる事ってあんの?」


 少年に袖を引っ張られて、扉の方に寄る。

 エリアスと少年と狐ちゃんと騎士は、もう外に出ていた。雨の中、立っている。

 私はお兄様に行って来ますを言おうと、振り返った。と、お兄様の表情に、驚く。


「ミルヴィアの事は信じているから、安心出来るよ」


 笑って、そういうお兄様。


「あー……半分嘘だ、ごめん。取り消す」


 お兄様は、私の頭を撫でた。寂しそうな、悲しそうな、切なそうな目で。

 慈しむように、私の頭をやさしく何度も撫でる。


「心配だよ、すごく……でも、ミルヴィアはそうと決めたら曲げないから。それにこの経験は、『魔王』にとってとてもいい物になるはずだ」

「……」

「だから、行ってらっしゃい。ミルヴィアが帰って来た時に安心出来るように、しっかり部屋は掃除するように命じておくから」


 こっちまで悲しくなって来た……泣いちゃダメだ。

 私はぐっと堪えて、笑顔を浮かべる。


「はい――行ってきます」


 そう言って、逃げるように外に出る。フードを被って。

 強い雨も、レインコートに身を包んでいれば関係なかった。雨に打たれて痛いって事もない。

 もう一度振り返って、手を振る。お兄様も、寂しげに笑ったまま、手を振ってくれた。


「……あのさ」


 少年が、呟くような小さな声で言う。


「俺、妹には甘えろって滅茶苦茶言ってるんだけど」


 少年の方を見ると、少年は、頼りになるお兄さんみたいな笑顔で、私を見ていた。


「お前だって甘えて良いんだぜ。子供なんだから」

「――少年だって子供のくせに、生意気」

「そうかよ」


 精一杯の反論も、流される。いつもは私と対等なくせに、こういう時だけ年上っぽい事しちゃってさ。

 なんか悔しいんだけど。

 そんな事を思っていると、玄関の扉が閉まる。名残惜しく思って、扉を見つめた。

 しばらく帰らないんだ、この家に。

 ……寂しいかも。


「……お姉ちゃん、あのさ、ぼく、寂しい」

「ああっ!ごめん!」


 本気で謝った。私の隣には、私の手を握って、不服そうにするアルトが居た。

 厳密にはずっといたんだけども。

 お兄様の前だから構ってあげられなかったの、ごめん!

 本当に申し訳ない。さっき私はのけ者が嫌だって言ったけど、アルトの方がよっぽどのけ者にされてた。


 ちなみに、アルトは防水の招福を掛けてるよ。すごい便利だよね。

 一人分で精一杯らしいけど。


「これからは構ってやれるからなっ」

「……うん」


 ぴっとりと私に寄り添ってくるアルトを撫でる。撫でまくる。


「そういえば、狐ちゃんってアルトの事見えるの?」

「愚問なの。この銀狐様に見えないモノが在るはずないの」


 胸を張って、誇り高そうに言う狐ちゃん。

 その銀狐様、尻尾濡れてるけどね……。でも確かに、千里眼があるんだから見えるか。


「じゃあ、行くぞ。そいつの言った通り、雨足がこれ以上強くなったら敵わない」


 エリアスの一言で、私達は歩き始めた。

 さて、では人族領にいっちょ行きますかぁ。

閲覧ありがとうございます。

またまた久々の投稿になってしまいました……何度も書き直したので、変なところがあったらすみません。


ユアンなのですが、ミルヴィア以外の誰からも好かれてない気がします。

ちょっと勿体ないですね、作者お気に入りのキャラなので……読者の皆様が好いてくださると嬉しいです。

次回、雪山です。

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