表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
226/246

183 遠足の日が雨だと行く気が無くなる


「のう、神楽。嫌な音がしとるけどどうするんじゃ」

「んむ……?」


 ザー…ザー…


 嘘でしょ!?

 聞こえてきた音に思いきり飛び起きる。レーヴィはかなり気まずそうにしていた。

 靴も履かずに裸足で窓際に駆け寄ると、勢いよくカーテンを開ける。窓には水滴が無数についていて、庭まで見る事は出来なかった。

 …………。

 雨。大雨。むしろ嵐。


「弟子に天気の確認をしておけばよかったのう」

「……」

「神楽?かーぐーらー?」

「しょ、少年来てない?」

「は?」

「起こしに来てない?」

「来とらんぞ。というかこの雨じゃ延期じゃないのか?」

「少年だったら雨天決行って言うよ……」


 どうしよう、まずは騎士に相談かなあ。

 いつ来るんだろう。この雨で来れるかな?レインコートも持ってないと思うし来れないかもしれない。迎えに行こうかな。

 エリアスはどうだろう。ちゃんと付いて来てくれるといいんだけど……。

 そう思いながら、窓の外に遮音結界を張る。聞こえづらかった声がはっきりと聞き取れるようになった。やっぱり結界って便利だわ。


 コンコン


「はいっ」

「お姉ちゃん」


 ゆっくり開いた扉からちっちゃな金色の頭が見えた。アルトは裸足がこちらまで歩いて来る。ぺたぺたと足音が響いた。

 私のところまで来ると、私の手を握って来る。


「お姉ちゃん、どうする……?」

「まあ他の人達と相談だな。集合場所はここだったから、待っていれば来るだろう」

「……行くの?」

「ああ。嫌か?」

「……お姉ちゃんが行くなら、どこにでも、行く」


 可愛い子と言うなあ、アルトは。本当に可愛いなあ。

 私は笑って、アルトの頭をくしゃっと撫でてやる。しばらくベッドで三人並んで雑談していると(ちなみに右からレーヴィ、アルト、私の順)、控え目にドアがノックされる。

 いや、雨の音で控え目に聞こえただけかも知らんけど。


「はい」

「僕だよ」


 うおう、お兄様か。驚いた。

 待っててもお兄様が入ってこなかったので、私はベッドから下りると、てくてく歩いて行ってドアを開けた。多分、レーヴィが居るから入れなかったんだろうな。


「どうしたんですか?」

「こんな大雨だけど、人族領に行くのはまだ決定してるのかな?」

「分かりません。多分、そうだと思います。ただ、騎士も狐ちゃん達も、エリアスも来てないのでもしかしたら中止になるかも――」

「待てっ!」


 力強い制止の声が聞こえて、思わず振り向く。窓際には、びしょ濡れになった少年と狐ちゃんが居た。こんな大雨だって言うのに窓から入って来たらしい。少年の服は濡れて肌に張り付いていて、狐ちゃんのふわふわの尻尾はかなり細くなっていた。

 ……馬鹿なの?こういう時くらい玄関から入って来なよ。


「中止とか言うな、俺らは行く気満々だからな!」

「あーあー、もう、ちょっと待ってよ。風邪ひくじゃん……乾風」


 魔法で乾かしてやると、二人がプルプルと頭を振る。獣っぽい。むしろカッコイイ。狐ちゃんのふわふわの尻尾が元に戻っている。眼福!

 私は狐ちゃんの髪の毛を手櫛で整え、少年の胸にあるリボンタイをまっすぐに直す。

 よし、完璧。


「お前は俺らの母ちゃんかよ、面倒見すぎ」

「少年と狐ちゃんのお母さんか、勘弁してほしいわ」

「そうなの。私達のお母さんになったりしたら、きっと問題児の母親より大変なの」


 自覚あるんだ。

 若干引き攣った笑いを浮かべて、私は頷く。

 あっ、お兄様の事忘れてた。

 私はお兄様の方を向くと、二人を手で示す。


「というわけで、この二人が行くって言ってるので、行ってきます。大丈夫ですよ、騎士も居ますし――」


 私はこの前エリアスに言われた事を思い出して、


「エリアスも居ます。もちろん、私も居ますから」


 戦力に加えられなかった狐ちゃんと少年は不満そうだったけど、全力でそれを無視する。しょうがないじゃん、お兄様二人の事別に信頼してないだろうし。

 お兄様は苦く笑って、私達を順々に見詰める。


「知ってるよ、ミルヴィアはそうと決めたら聞かないから。僕だって、ミルヴィアの保護者として結構大変な思いしてるんだよ?そこらの問題児の親と比べ物にならないくらいね」

「本当、いつもお世話になってます……」


 バツが悪くなって頭を下げる。本当にお兄様には迷惑かけてると思うよ。うん。まあお父様とお母様も結構迷惑を被っているとは思うんだけどね。

 そこに関しては申し訳ない。

 お兄様がははは、と笑った。


「良いんだよ、僕はミルヴィアが可愛いからやってあげてる事だし。僕が言いに来たのはね、その二人がレインコートなんて持っていないだろうから貸そうかって言いに来たんだ」

「お兄様!」


 天使だ、神様だ!……神様は無いな。うん、無しだ。

 とにかく、お兄様がお優しいって事に変わりはない。


「ね、二人とも、借りるよね?」

「癪だが、そうしようする」

「お願いするのー」


 少年のはツンデレだから気にせず、私はにこにこと笑ってお兄様に駆け寄る。


「よろしくお願いしますね、お兄様!」

「うん。ただ、絶対に無理はしないと約束できる?あと、勇者、王子に会いたいなんて思っちゃダメだよ。あっちから声をかけてこない限り、無視するんだ。いいね?出来るだけ城に視線を向けるのも止めなさい」

「そこまでしなくてもいいんじゃないですか?」

「あちらでは、城を直接見る事でさえ不敬罪に当たる可能性があるんだよ」

「ええ……」


 我ながらかなり引いた声が出たと思う。マジか、そこまでか。

 ちょっと残念だなあ。城とか、魔王城とどっちが大きいんだろうって張り合いたかったのに。いや、くだらなくないよ。重要だよ。

 私の城は一番だとは思ってるけどね!

 なんたって魔王城ですもん。ドワーフとかの技術者はこちら側の人間ですよ?

 ……なんか、ここまで行くと人族が不利に聞こえるよね。人族は人族で上手くやってってるし、個人の能力にそれほど差は無いのかもしれない。

 部族によってのアドバンテージも、人族にはないわけだし…‥‥。

 そう考えると、軍隊とかは人族の方が強いのかも――


「ミルヴィア、何を考えてるのかな?」

「あ、すみません。大丈夫です。えっと、じゃあ、ユアンとエリアスが来て少ししたら、出発します」

「そう……気を付けてね」


 また、不安そうに顔を曇らせるお兄様。私は明るい笑みを浮かべて、お兄様を見る。

 この前の事で、大丈夫だって思えたからね。

 エリアスに感謝感謝。


「おはようございます、魔王様、カーティス様、レーヴィ様、そしてそちらのお二人も」


 聞こえたのは、騎士の声。お兄様の後ろに、いつもの笑みを浮かべて立っていた。お兄様は、あいさつの代わりに敵意一杯の視線を投げやった。


「俺らの呼称に困るからってひとくくりにすんじゃねぇよ」

「おはようなの」


 二人が驚くほど普通に挨拶をする。おい、種族の誇りと種族を滅ぼされた憎しみはどこ行った。

 滅茶苦茶普通に突っ込みいれてたし。


「おはようじゃ、騎士殿」


 騎士は全員に向かって微笑みかけて、最後に私を見て来た。私は腰に手を当てて、少しかっこつけた風に言う。


「お早う、騎士。今日も私のために働いてもらおうか」

「仰せのままに、魔王様」


 胸に手を当て、にっこりとほほ笑む騎士。

 その後エリアスが来て、私達は雨が酷くなる前に出発する事になった。

 私に構ってもらえなくて少し拗ねてたアルトも、もちろん、一緒。

閲覧ありがとうございます。

一か月近く開いてしまいました。申し訳ありません。展開に悩んでいたのもありますが、何より登場人物一人一人の動きを見直していると止まらなくなりまして……。

今後とも本作をよろしくお願いします。

次回、出発です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ