少年編 家族
路上に一枚大銅貨1枚の滅茶苦茶デカいタオルケットを敷いて、その上に寝そべって一枚小銅貨一枚のタオルを掛ける。
そして夜空を見上げながら、光る星を見て物思いに耽りつつうとうとと眠る。
それが俺達の夜の寝方だった。最近変えたんだけど、これが意外と寝やすい。
本当は妹は魔王みたいなふかふかのベッドで寝てみたいって思ってんのは知ってる。
だから、俺は人族領に行かなきゃいけない。
魔族は何事においても人族より秀でている。それに異論を唱えるのは負けず嫌いの人族ぐらいで、人族の学者なんかはそれを認めてる。
だけど、やっぱり傾向が微妙に違う事もあって簡単に比較できない。分野が別なんじゃないかって思うほど、傾向ややり方、その方法が違うのだ。住んでる場所が違うし、そもそも種族が猫と犬くらいに違うんだから仕方ないけど。
だから俺は、人族領に行かなきゃならない。
魔導具の作り方を取り入れたい。
魔族はちまちまと彫るだけだが、人族は恐らく魔法詠唱も取り入れている……気がする。
難しい話になるけど、魔族の不言魔法の時とは微妙に効力が違うらしいのだ。それに魔女文字の彫り方も違って――あー、説明が面倒くさい。
とにかく、色々違うんだ。
だから無限魔力発生装置を作って、売って、金を稼いでいい家を買いたい。
これまでに稼いだ金は全部貯金してあるから、それは家具とかそういうのに使いたいと思ってる。
普通の一軒家を、城下町より少し離れたところに建てる。それが理想。
それを難しくしてるのが、俺達の種族の問題だ。無種族が普通に家を建てられるとは思えない。魔王なら幇助してくれるかもしれないけど、恐らく無限魔力発生装置をどうするかで揉めるだろうから難しいかもしれない。
家が欲しい。でも仇である魔族の領地に建てると言うのは如何な物だろう。
魔王だって、仇であるはずなのに。
「……起きてるの?」
「ッ!」
驚いて起き上がる。妹の銀色の大きな目が、こちらを見透かすように見ていた。
俺は警戒を緩めた。まだ心音がばくばくうるさい。
驚かせんなよ……寝てると思ってたのに。
「明日は人族領に行くんだ。もう寝ろ」
「お兄ちゃん、私、まだどうして人族領に行くか聞かされてないの」
「……」
俺は落ち着いてきた呼吸をもう一度整えながら、俺は寝そべる。
固い地面が背中に当たって痛い。
「言っただろ、情報収集のためだ」
「だって、お兄ちゃん、現地では別行動って……おかしいの。情報収集なら一緒に行動した方がはるかに安全なはずなの。なのに」
「うるさい、どうだっていいだろ」
「お兄ちゃんが集めたがってる情報って何なの?何も知らされてないなんて、不平等なの」
ああ、全くこの妹は変なところで頑固だ。そこは魔王と似てるな。ていうか魔王に似たんじゃねぇか?
気になったらとことん突き詰めるところとか。
「いいからお前は勇者の情報を集めてとけ。情報の買い取り手が何人か居るんだ。大金が手に入るかも知んねぇしな」
「お兄ちゃん最近お金のお話が多いの。どうしてなの?」
「っあー、うっせえ」
俺が少し苛立って声を上げると、妹は大人しくなった。だけど完全に諦めたと言うわけではなさそうで、不服そうにこちらを見てくる。
だから、止めろって。
どこも見てなさそうなくらい見透かした目で、こっち見んな。
「いつか話す。具体的には、魔王との共同研究が終わったあたりだ」
「……ホントなの?」
「ああ、本当だ。っつーか心配過ぎだ。俺の妹なんだからもっと俺の事信じとけよ」
そう言って、くしゃくしゃと頭を撫でてやる。狐耳がピコピコ動いて、嬉しそうに目を閉じている。
動物みたいだ。
動物なんだけどな。半分。
「お兄ちゃんは、私が妹だって言ってくれて、こうやって撫でてくれるの。すごく嬉しいの」
「ああ」
「魔王は、私を友達だって言ってくれるの。一緒に訓練したり遊んだりしてくれるの。すごく楽しいの」
「ああ」
「私は、お兄ちゃんの事は家族だって思っているし、魔王の事は大親友だと思ってるの」
「ああ」
そこで突然、妹は顎を引いてしまって、前髪で目が見えない。少し息が震えてるように感じて、目を見開く。
「……なのに、私は狐族で」
震えた声。鼻をすする音。
俺は戸惑いながら、続きを聞く。
「お兄ちゃんは猫族で、魔王は魔王なの。どう頑張っても家族にはなれないし、大親友にもなれないの。どう頑張ったところで、この世界に私の家族は、もう作れない――」
「うっせえ、黙れよ」
さすがに聞きかねる。魔王にそんな事言ってみろ、天地ひっくり返る勢いで怒られるぞ。
ここは教育が必要だな。
「いいか、俺とお前は無種族だ。だから家族だ。お前は狐族であいつは吸血鬼だ。だから親友にだってなれる」
「……でもそんなの」
「でもじゃねぇ、いいから自分の都合のいいように解釈しときゃあ良いんだよ」
子供なんだから、大人しく大人に守られとけ。もっとわがままでいーんだよ。
あー、もう。
頭を上げた妹の顔は、涙でくしゃくしゃに濡れていた。袖で乱雑に拭いてやると、溜息を吐く。
どうせ、家族じゃないから話してくれないとか思ってたんだろ。
くだらねぇ、お前が家族じゃなかったら、最初から俺に家族なんて居ねぇんだよ。
昔の家族と同じくらい、お前の事好きで、信じてるんだから。
ただ、まだ上手く行くか分からない事を伝えたくない。それに、魔王に伝わったら魔王は話が違うと怒るはずだ。
そうなったら困る。せめて完成まで持って行ってから話し合いたい。
そうじゃないと魔王に協力してもらえないかもしれない――そうなったら確実に完成は無理だ、俺の魔力量と魔力操作じゃ絶対出来ねぇ。
一人で出来ないのは歯痒いけど、友達と協力するのは意外と楽しかった。
「お兄ちゃん、無理だけは、しないで欲しいの」
少し眠たげなゆったりとした喋り方で、妹が言う。まだ鼻声で、静かに泣いているようだった。
気付かれないようにしてるらしかったから、気付かないふりをする。
俺はハキハキと星空を見ながら話した。
「言われなくても無理するつもりなんて毛頭ねぇよ、俺は無理しない範囲で無茶する」
「それでこそ、お兄ちゃんなの。何かあったら、頼って、欲しいの」
「当たり前だ」
一呼吸おいて、言うか言うまいか迷ってから、恐る恐る口を開く。
「家族なんだからな」
「……ふふっ」
小さく笑ったと思ったら、次の瞬間から小さく小さく寝息が聞こえてくる。
俺は袖でそっと涙をふき取ってやってから、目を瞑った。
明日から人族領に向かって出発する。
さて、変な事が起きなければいいが。
閲覧ありがとうございます。
少年とミルヴィアでやっている魔導具作りは、かなり進んでいます。
次回、出発の早朝のお話です。




