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護衛編 話し合いと確認

 三百四号室よりもはるかに狭いこの部屋で、私とエリアス様、猫族の少年は向かい合って座っていた。私だけはエリアス様の後ろで立っていたけれど、それはいつもの事だと誰も気にしなかった。

 

 それよりも、周りが人族領へ行くのを了承したのが信じられませんね。

 私からしてみれば、ミルヴィア様があんなにも周りをあっさりと言いくるめてしまったのが意外に思えた。特にアイルズ様、私はアイルズ様と一戦する覚悟で居たのですが……無駄でしたね。

 ミルヴィア様の強みは、その言葉の使い方に在るのかもしれない、とふと思った。


 ミルヴィア様の金髪は、予想以上に綺麗だった。いつもの闇夜のような雰囲気と打って変わって、輝き照らす陽光。出来れば青髪にしてくだされば嬉しかったのですが、そこまでうまくは行きませんね。

 何より金髪という、兄と同じ色というチョイスがあの方らしい。お兄様と呼んで慕っていますから。


「で、どうして分かれたんだ?別に同じ部屋で話しても良かっただろう」


 エリアス様が最初に口を開き、訝しげに猫族の少年へと視線を向ける。そこは私も気になっていたところなので、笑顔のまま猫族の少年を見遣る。

 猫族の少年は、大人に取り囲まれていると言ってもいいような状況で、にやにやと余裕の笑みを浮かべていた。私の知る人物誰とも違う、嘗め切ったような笑み。それに少し苛立ちつつも、視線で話すように促す。


「今、向こうでは妹が魔王に血を飲ませてるだろうよ。そのために分かれた。あいつはそういう、平等な事をしないと気が済まねぇから」

「他にも理由はあるだろう」


 そんな事はどうでもいいというように、エリアス様がきっぱりと言った。猫族の少年は腕を頭の後ろに組み、足を組んでにやりと笑う。

 どうでもいい事ですが、ミルヴィア様の周りには魔王らしい人が多すぎる気がします。態度が尊大な人ばかりだからですかね?


「まー落ち着けよ、霊魂族。そんなせかせかしてたら人生短く終わっちまうぜ?もーっとのんびり生きればいいんだよ」

「茶化すな、早く先を言え」


 あくまで先を促すエリアス様に呆れたようにしつつ、猫族の少年はにやにやとした悪戯っぽい笑顔を崩さない。

 私が言うのもなんですが、自然な笑顔のままというのはかなり難しいのによくやりますね。

 ミルヴィア様も、いつだって作り笑顔ではなく自然体の笑顔ですが。


「皆、大人と子供に分かれたって思ったかもしんねえけど、違ぇんだよなぁ」

「じゃあなんだ」

「女と男に分かれた――呪いの部族は、あれは魔王サイドでいいって思ったけど」


 そっと、私とエリアス様は視線を合わせ、すぐに外した。予想外と言ってよかった。というか、この面子だと、男と女に分かれるメリットというのはあまりないような気がする。私とエリアス様が子供と大人に分かれたと勘違いしたように、まだ子供なのだから。

 その考えは見え透いていると言うように、猫族の少年は笑みを深めた。


「馬鹿だな、お前。だって部屋割りと着替えの話だぜ、一緒に話したら気まずくなるだろうが」

「部屋割りと着替え?」


 私は思わず声に出してしまった。一瞬笑顔を崩してしまい、すぐに戻したものの、猫族の少年は満足げだった。


「ああ。宿に行くとき、二つ部屋を取るのか、それとも全員同じ部屋で雑魚寝か。一室だけ取る場合は着替えはどうするのか、だ」

「くだらない」

「くだらない?女心とか考えねえのかよ、霊魂族ってのは」


 エリアス様は先ほどの警戒した雰囲気から一変、面倒くさそうに息を吐いて猫族の少年の方を見る。


「部屋は一つでいい。着替えなら寝てる間に済ませばいいだろう」

「マジか、お前……」


 猫族の少年が、本気で引いたような声を出す。エリアス様は首を傾げた。まあ、エリアス様からしてみれば子供の集団ですからね。どこで着替えようとあまり関係ないのでしょう。


「あのなあ、それを聞いたら、魔王は『エリアスって意外と大雑把だよね』とか言うぜ。引き気味で」

「二部屋取るのは金が惜しい。一室でいいだろう」

「じゃー、男はあいつらが寝てる間に着替えるとして、あいつらは?どうすんだ?」

「俺達が部屋の外で待ってればいいだけだろ、気にするな」


 分かってねえなあ、と猫族の少年が困ったように言う。そして、私の方を見た。

 おや。


「お前はどう思うんだ、剣の一族」

「私ですか」

「お前の意見を聞くのは癪だけど、一応聞いておく」


 それは、私の意見は取り入れてもらえないと言う意味では?……別に良いですけれど。


「部屋は一室で、仕切りでも創ればいいのでは?」

「仕切り?」

「ええ、不透明なバリアを張るなどすれば、仕切りは簡単に出来るでしょうし」

「ふーん……」


 猫族の少年は、顎に手を当てて思案顔。エリアス様はその手があったかとすでに納得しているようだった。

 しばらくして猫族の少年は満足したように頷く。


「よし、いいんじゃねぇか?んじゃあ話はまとまったな。後は」


 猫族の少年はふと真剣な顔になり、目線を私にやったまま、口を開く。


「お前がどこまで妹を守ってくれんのか、確認しておきたい」

「おや、守られる覚悟(・・・・・・)があると?」


 それは意外ですね。どうあろうとも自分で何とかすると言いそうでしたのに。

 私が面白くて微笑すると、猫族の少年は不満げに唇を尖らせた。


「何が何でも俺が守る。俺がどうにかするし、俺だけで何でもやる。だけど、それでも俺の手が届かなかった場合、お前は俺の妹を守ってくれるのか?」

「その時の魔王様のご様子で判断いたします」

「魔王は別段ピンチでもない場合は」


 ミルヴィア様が危機に瀕しておらず、かつ狐族の少女を心配するようなそぶりを見せたとしたら。


「守って差し上げましょう。例え王が相手だろうと」

「ちなみに魔王がピンチだった場合は?」

「その場合は、相手が神であろうと立ち向かいますよ。誓ったものですから」


 月に誓った。だから私はミルヴィア様を優先する。あの黒髪も、金髪も、一筋残らず痛めつけないように守って差し上げなくてはいけない。


「……んじゃあ、俺の妹を守るって誓えよ」

「無理です。この剣はミルヴィア様に捧げた物、他の方にまで誓うなど、騎士にとって誓いはそんな生易しい物ではないのですよ」


 目を細めて、少し苛立ちを現してから言うと、猫族の少年は少し縮こまる。先ほどもそうでしたが、この方はそれほど人間が出来ていると言うわけでもないようですね。少し背伸びをしているだけです。

 だからこそ、ミルヴィア様が気に掛けるのでしょうけれど。

 背伸びは足元が不安定になりますからね。


「あー、もう終わりでいいな?戻るぞ」


 エリアス様が立ち上がったので、猫族の少年も倣って立ち上がる。私は向きを変えて、二人が出て行った後に歩を進めた。

 三百四号室に戻ると、ミルヴィア様とは思えないほどの光を湛えた少女がこちらを向く。長い金髪がさらりと垂れて、煽情的だった。


「お帰りー、お三方」


 しかし声はいつもの通り、はきはきとしたミルヴィア様の声で、その違いに少し困惑する。


「で、そちらでの話し合いはどうなったのかなー」


 エリアス様が結果を話す。と、ミルヴィア様は頷いた。


「うん、いいね。ちなみにこっちでは土魔法で仕切るって話だったんだけど、バリアの方が効率も良いし撤去も早いね。いいんじゃないかな。バリアはエリアスがお願いね」

「ああ、分かっ……なんで俺がやらなきゃならないんだ!」


 軽く笑うミルヴィア様。

 小さく心中で、その笑顔を守らなくてはと、今一度誓った。

閲覧ありがとうございます。

ユアンはミルヴィア第一で、それは絶対に揺るがないと思います。

次回、出発前夜です。

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