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181 千里眼

 少年が作戦会議と銘打って、エリアスと騎士を連れてどっかに行ってしまった。多分、少年にあげてる部屋に行ったんじゃないかと思う。騎士は連れて行かれる時にかなり抵抗してたけど、少年の「いいから!」で押し通されてしまっていた。

 私も行くって言ったんだけど、男女で別れるって言われちゃった。でもアルトを私に任せてくれる当たり、優しいなと思う。

 んー、でも騎士を連れて行かれたのは予想外だったかも。大丈夫かなー、変な事言ってなきゃいいけど。


 三百四号室に取り残された私と狐ちゃんは、なんとなく気まずく向かい合っていた。

 私がアルトに握られた手を握り返すと、狐ちゃんがアルトを一瞬見てからこっちを見た。それをずっと繰り返す。

 あ、ちなみに金髪の金色の目で今は固定してるよ。消費魔力が馬鹿みたいに少ないから、やりやすい。無意識に魔力を供給するのは、可視化で慣れてるからやりやすいし。


「魔王が金髪って、もう別人なの」

「そうかなあ」

「魔王のあいでんてぃてぃが台無しなの!」


 そ、そこまで言うか……ちょっとショックだよ。金髪も結構いいと思うんだけどなあ。

 糸みたいに細くて、太陽みたいに輝く金髪。良い出来栄えだと思う。ちなみに、魔力を送る量によって細やかな色の調整も可能。私の今送ってる魔力量が一番だと思うんだよね。お兄様に似てて、私はお気に入り。


「でも目が青くないの……」

「そこまで細かい事は出来ないからしょうがないじゃん」

「あの狼男のお兄ちゃんは目が青いのが特徴なの。むしろ金髪がおまけなのっ!」


 マジか。私は金髪の方が目立つと思うんだけどな~。ま、そこはいいとして。

 私は狐ちゃんの目を見る。すると狐ちゃんは、びくっと震えて何も喋らなくなった。お、結構金色の目も威圧出来るね。十分十分。


「それで、お話があるんだよね?多分」


 多分、と言いつつ私はほぼ確信していた。狐ちゃんがピクリと小さく震え、目を逸らす。浮きかけていた腰も椅子に落ち着く。

 うむ、正直だね。


「何の事なの?話がさっぱり分からないの……」


 そう言いつつ語尾が消え入るように細くなっていく。分かりやすいなあ。狐ちゃんはもうちょっと嘘を憶えた方がいいと思う。


「だって、わざわざ『大人組』と『子供組』に分けたんだから、それぞれお話があるって思った方が自然でしょ?私からしてみれば、少年も子供なんだけどね~」


 そこは子供らしい、大人になりたいっていう意思だと受け取っておきましょう。

 図星らしく、狐ちゃんは口を閉ざして俯いた。ん?そんなに重要なお話じゃないでしょ?軽く種明かししただけのつもりだったんだけど……?

 私が困惑していると、狐ちゃんが私の目をまっすぐに見て来た。

 狐みたいに吊り上げた、きりっとした目で。

 お……カッコイー……。


「魔王、私の固有魔法(ユニークマジック)は『千里眼』なの」

「うん、知ってるよ」

「――お兄ちゃんは魔王に部族の象徴である固有魔法(ユニークマジック)を分けた。だったら私も分けないと、平等じゃないの」


 狐ちゃんは覚悟を決めた様子で、自分の首筋を撫でながら力強く言って来た。なるほどね、お兄ちゃんには渡せって言ったけど自分は嫌だ、なんていうのは違う……狐ちゃん、意外と律儀だからなあ。

 私は無意識に狐ちゃんの首筋を見ながら、自分の八重歯を舌でなぞっていた。狐ちゃんが完全に怯えているのが分かって、慌てて止める。


 私の周りの人達とは違って、狐ちゃんは繊細だ。乱雑に見えるけど、その実一番臆病だし怖がり。誘拐される時だって、私が居なかったらずっと泣いてたんじゃないかって思う。それに何より、狐ちゃんは何でも見える。

 何でも見えるがゆえに、私が狐ちゃんと少年に好意を抱いているって事、それとは逆に私がどれくらい血に飢えているかが見えてしまう。

 見えるがゆえに辛い、っていうのもあるのかなあ、って思ったりして。


「魔王は私達の事を良く思ってくれてるの。でも剣の一族は、そうじゃない。なんとも思ってない、だから信用できないの」

「なるほどねぇ」

「私も魔王は好きなの。だから――血だって、あげていいって思ってるの」


 あわよくばこの辛さを共有してほしい。

 狐ちゃんはそう言ってる気がした。本当に、なんとなくだけど。私はアルトの方をちらりと見る。自分の心情一つで呪いが起こるって、どんな気持ちなんだろうと思って。


 この世界では種族意識が半端じゃなく強い。同じ種族でまとまって行動するし、種族同士で幸せな事も、辛い事も共有する。


 なのに私の周りの人達は、皆それが出来ない。


 呪いの部族然り、剣の一族然り――猫族、それに狐族も。

 共有できるはずのことが共有できなくて、分かってももらえない。いくら魔族の人達が優しいって言ったって、辛さを分かってもらえるわけじゃない。


 まあ、今は多少なりとも私が力に成れてるかもしんないし、考えなくていい事かな。


「じゃあ、私に『千里眼』くれるんだ」

「あげるの」

「……じゃあ狐ちゃん、手出して」


 狐ちゃんは訳が分からないまま手を出して来る。私は狐ちゃんの真っ白の手を握って、指先を見詰める。狐ちゃんが首を傾げる。

 アルトが興味深そうに見てたけど、私はあえて無視して狐ちゃんの手に顔を近づけて、上目づかいで狐ちゃんを見る。


「ちくっとするよ」

「え?――ッ!」


 私は狐ちゃんの指先に牙を埋めた。狐ちゃんの身が強張って、狐ちゃんが歯を食いしばる。私は二、三回軽く吸うと牙を抜いて、舐めて傷口を治す。

 うん、少ない量を三口だし、コピーも若干薄いけど、十分っちゃ十分だね。まあ可視化が楽になる程度かな。


「魔王、いきなりは怖いの!」

「あ、ごめんごめん。でも指先に力入ると余計痛いし」

「……」

「痛かった?」

「思ってたより痛くなかったの……」

「ならよかった」


 まあ、ホントにチクっとしただけだろうからねー、不意打ちで飲んじゃったけどそれほど痛くしなかった自信がある。

 せいぜい、待ち針が手に引っかかった時くらいの痛みだったんじゃないかと思う。……そう思うとそこそこ痛いな。


「じゃあ、魔王、これから本来のお話をするの」

「うん?」

「子供と大人、それぞれで話す――それがお兄ちゃんと私の間のお話だったの」


 へえ、そうだったんだ。どうして大人と子供で別れたかって言うのは……後で聞こうかな。

 狐ちゃんが真面目な顔つきになって、こっちを見る。


「魔王、私達が話し合うべきは二つなの」

「うむ」


 狐ちゃんはきゅっと唇を引き結んだ後、覚悟を決めたように口を開いた。


「お金の工面、それと――宿のお部屋をどうするか、なの」

閲覧ありがとうございます。

狐ちゃんは「公平じゃないと嫌」という精神があります。

次回、ユアン編です。

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