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179 会議

 昨日操作魔法を教えてもらった私は、ほくほくの気分で三百四号室でアルトと一緒に本を読んでいた。子供が二人そろって読書をする様子って、微笑ましいよね。

 まあ私が読んでるのは操作魔法理論っていう論文だから、微笑ましさが少し薄れるんだけど。

 ちなみに、実践はやっぱり簡単。魔力配分は、お兄様に大事だと教わって以降ずっとやってたからね。得意分野というよりもはや専門分野なわけですよ。


 昨日は二時間も授業を受けてから帰ってきてしまったので、若干騎士がお怒りだった。

 無視したけどね。お前には怒る権利すらも与えないって事で。

 それは騎士も重々承知しているみたいで、何も言ってはこなかった。ただし雰囲気的に物凄く怒っていると言うのは伝わってきてたよ。


「お姉ちゃん、人族領って悪い人が居るの?」

「いや?悪い人ばかりって言うわけではないと思うぞ。それなりに平和だしな」


 テロとか連続殺人とか、そういう大規模な犯罪は起こらないしね。

 アメリカとかに近いんじゃないかな、犯罪とかは。だから、ほとんど普通の国だよ。魔族領とは比べ物にならないにしてもね。


「……そっか」

「ああ。心配しなくとも、こっちにはアルトも居るし、大人も二人いる。私の友達も戦力には十分だし、私だってそれなりにやれるはずだぞ」


 そういえば。

 狐ちゃんって戦えなかったような。補助的な魔法が主だったような。


 ………………………………………。


 まあどうにかなるでしょ!私との訓練で、そこそこの攻撃魔法は使えるってのが分かってるしね。あくまでも、そこそこ、だけど。

 狐ちゃんとの訓練で私が得たのは、補助魔法でも使い方によっては色んな使い方があるっていう事だったからねー。攻撃魔法を狐ちゃんが使おうとすると、どうしても威力が弱くなってるの。

 そこら辺、影を象徴する月の銀狐である狐ちゃんだからこそ、なのかなあ。

 ま、影とか月とか、吸血鬼と似通ってるところがあって、私は好き。


 ゴンゴン


 かなり強めに扉が叩かれる。私は驚いて扉の方を見たけれど、騎士の方はすました顔だった。って事は、警戒するほどの人じゃないって事かな?


「はーい」


 軽ーく返事をすると、扉が開いた。大きな扉が壁に当たって大きな音が立つ。和太鼓を思いっきり叩いたみたいな音だった。

 扉の向こうに立ってたのは、エリアス。息を切らして、睨むように窓を見ている。

 ちょっと、アルトがびっくりするかもしれないでしょ。止めてよ。


「どうしたの?何かあった?」

「……」


 んん?なんでそんなに窓の方診てるのかな。

 もしかして、窓からダイナミックに入ってくるあの二人組を警戒しているのかな?


「なんだか凄く失礼な事を考えられているような気がするの」


 突然窓から聞こえてきた声に、もう今さら驚かない。

 来たかー、と粛々と受け止め、ゆっくり窓の方を見る。そこには、窓枠に乗っかった少年と、窓枠にぶら下がってる狐ちゃんが居た。

 それを見て、エリアスが息を吐く。安心したような吐息だった。


「よう、魔王」

「魔王、やっほうなの」

「いらっしゃいませ、少年、狐ちゃん」


 早かったね、と私は言う。会議はもう少し後だと思っていた。

 身辺整理、私は早めに済ませたかったから今はもう終わってるけど、普通だったらまだかかってるんじゃないかなあ。

 ちなみに旅の支度は全くできてない。


「……なに、お兄ちゃんたち……」

「あー、アルトか。久々だな」


 少年がぽんぽんとアルトの頭に手を置いた。アルトが焦点の合わない目で少年の方を見たけど、若干困惑の色が見えた。

 少年、ナチュラルに誑し込むの止めてくんないかな?


「で、どうしてエリアスの息が切れてるのかの説明はあるの?」

「こいつらに連れて来られたんだが、窓から入るって言って聞かないから、俺は普通に入るって言ったんだ。そしたら……」

「競争しようぜ!って俺が言ったわけ。っつーか、さすが霊魂族。俺らより早く着くとは」

「霊魂族は関係ないよ。エリアスが化け物なの」

「化け物とか言うな」


 いや、十分化け物だって。私の周りにまともな人間がいやしない――ってかそもそも人間が居ないもんね。どうなってんだろうね私の周り。

 ま、もう少しでその人間と会えるわけです。

 楽しみ楽しみ。

 そう考えると、この話し合い(会議?)は早めでもいいかななるべく早く決めておきたいしね。


「んじゃー、座って座って。行く人は全員揃ってるし、ちょうどいいよね」


 狐ちゃんと少年が私の前に座ったので、エリアスは致し方なしと言うようにその後ろに立った。なんか、私とアルトの後ろにはユアンが居るし、保護者みたい。

 でも、そんなこと言ったら怒られそうだね。少年は保護者とか要らないって言いそうだし。

 私がそんなことを考えていると、少年が地図を取り出した。

 その地図には、大雑把に城下町から国境の山へ行く道が描かれていた。しかも山が見切れてる。


「この大きさの地図しかなかったんだよ。マクセン山脈は途中で分かれてっから、どんな地図を探したところでこれ以上の地図はねぇ」

「こっから先は、ただただ東へと突っ走る事になるの。しかも人族領だし、ある程度の襲撃は予想されるの。でも、正直、私とお兄ちゃんが心配しているのは迷子にならないかってところなの」

「ま、そこは魔王が居りゃあ大丈夫だろ。空飛べるし、何より方向感覚なんてずば抜けてる」

「否定はしない、けど」


 大丈夫かなあ。山脈に行くまでの道のりも結構危ういよ?自然現象がって事だけれど。

 アルトの招福も、あまり負担掛けたくないからそんなに期待できないし……。


「お姉ちゃん、ぼく、遭難くらいなら……何とかできる」

「本当か?」

「うん……呪いより、招福の方を、鍛えてた」


 良い事だね。それは。

 遭難くらい、かあ。遭難が防げるってなると、かなり楽だ。気楽でもある。

 私は頷いて、少年たちの方を見た。


「オッケーかな?」

「あー、了解了解。じゃ、こっから先は細かい日程とか、準備の話だな」


 そこから先はエリアスも混じり、かなり細かく日程調整や持ち物も決めた。どれくらい持って行けるかってエリアスから聞かれて、私と少年が軽量化の魔女文字を書くからって言った時はかなり驚かれたけど、滞ったのはそこくらいで。

 あとはスムーズに進み、残すところは私にとっての大問題のみとなった。


「で、なんだけれどね、皆」

「なんだよ」

「何なの?」

「なんだ」


 私は、自慢の黒髪を手櫛で梳かす。全員が、はっと息を呑んだ。


「この髪の毛、どうしよう」

「……」


 大問題。これって、遭難より深刻な問題だったりする。


「魔族領ではむしろ何かあれば一発で対応できる最終手段だったけど、人族領では一発で捕まる最悪な色だよね。あと、目の色も一応そうか」

「……短髪にすればいいんじゃないか?似合いそうだ」

「それもいいんだけれど、それじゃあ根本的な解決にはなってないよ。一応、ポニーテールで帽子に仕舞えばそこはどうにかなるんだし。問題は帽子を取られても大丈夫なようにしないといけないってところ」


 それは、と狐ちゃんとアルト、エリアスが目を見合わせるなか、私は少年をまっすぐに見詰めていた。

 騎士だけはもう分かり切っていることのようで、動揺せずに微笑んでいる。少しイラっと来るね、この笑顔。


「ねぇ、少年」

「なんだ、魔王」


 私はなるべく爽やかな笑顔を心掛けて、引き攣った笑いを浮かべる少年の目を見る。

 こうなるともう皆察したようで、少年に憐みの目を浮かべていた。


「血、飲ませて」

 

閲覧ありがとうございます。

アルトは、呪いの方は使うと疲れたり、行動に支障が出ますが、招福の方はなんら問題ありません。

普通のラアナフォーリならば逆なのですが、「お姉ちゃん」に注意されて以降は招福にばかり専念していたのでこうなりました。

次回、少年が危ういです。

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