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178 三人三色


「だめだ。護衛が居るとしても許せない」


 とはお兄様の台詞。

 手始めにお兄様、と思った矢先にこれだよ。そりゃあね、すぐ許してくれるとは思ってなかったけどさ。

 その後、私の猛烈な説得が始まった。それを全部やり取りとして言ってしまうと、全体的に物凄いボリュームになってしまうので、省く。具体的に言って原稿用紙十枚くらいに及ぶ攻防が続いてしまう事ですし。

 言い過ぎじゃないよ?


 まあ例えば、

 エリアスも居ますよー、とか。

 私も強くなってますし、とか。

 一緒に行く全員の戦闘力を合わせたら楽勝です、とか。

 そんな風に、ずーっと言っていた。ちなみにエリアスが居るって言うのが一番効いたっぽい。

 アルトの要素を伝えられないって言うのが、辛かった。何より安心できる理由が言えないって、説得しづらいよ。隠し事があるって言う、引け目も感じちゃう。


 対するお兄様は、

 人族領は危険すぎる、とか。

 魔族と人族は違いすぎるから、とか。

 親切にしてもらえるなんてことは一切ない、とか。

 怖い事ばっかり言ってきてた。親切にしてもらえるなんてことは一切ないって、まさかそんな……ねえ?違うよね?怖がらせるために言っただけだよね?ね!?


 それでも粘っていると、お兄様が溜息を吐いた。

 私は行けたか!?と前のめりになる。


「ねえミルヴィア?何よりユアンを連れて行くっていう事が、僕は心配だよ。チーム間の事が崩れるんじゃないのかな」


 うっ!

 それは、それは私が一番危惧していた事ではないですか。


「私が居るんですから大丈夫です。騎士には、発言を自粛するように命じてます。それに、私はユアンの事も、エリアスの事も、少年の事も狐ちゃんの事も、(アルトの事も)信じています。何よりも私は私を信じています。何が在ろうと解決できるって思ってます」

「……それはそれで、危険だけれどね。過信し過ぎは良くないよ」


 実際は起こる前に対処できるんだけどね。アルトが居るし。

 でも、何が起きても解決できるよ。私はそう信じている、否、確信している。


「僕は賛成しないよ」


 吐息多めに言われた、お兄様からの台詞。

 私は唇を噛む。やっぱり、だめか。だめかな。


「僕は絶対に賛成しない。だけど、それでもミルヴィアが行きたいというのなら、僕は少しだけなら手伝ってあげよう」

「!」


 私はぱあっと顔色を明るくして笑う。お兄様はもう一度溜息を吐いて、背もたれに体重を全部預けた。

 あー、やっぱ、賛成はしてもらえないみたいだけどね。


「僕は賛成しないし許さない、それを分かったうえで行くんなら、良いだろう。君は兄の忠告を聞かずに飛び出した、って設定になるけどいい?」


 お兄様、確実に罪悪感を煽りに来ている。その罪悪感すら押し切って行くって言うなら止めないって言いたいんだろう。

 だがしかし、私の答えは決まっているのだ。

 私はしっかりお兄様の目を見た。


「私は、行きます。お兄様の反対を押し切ります!」

「そう。分かった。じゃあ、少し手伝ってあげよう」


 よし。


「ただ、約束してほしいのはね、王子とは会おうとしないでほしいんだ」

「つまり、勇者と会わないでって意味ですか?私も、会いたいとは思いませんけど……」

「ならいいんだ。君には失望してほしくないからね」


 え。

 なに?どういう意味かな?失望してほしくない?それはつまり王子が、はたまた勇者が、失望するような人だってこと?

 随分前にトィートラッセでイメージ崩れてたけど、お兄様が心配するほどなの?

 それは……どうなんだろうか。


「約束できる?」

「会おうとしません」

「よし、じゃあいいよ。僕の可愛い妹が、快適な旅をできるように準備をしてあげよう」


 仕事が終わってからですよ、と、私が注釈を付けくわえた。





「あ、そうなのですね。ふうむ、私が付いていけないのは残念ですが、師匠やエリアス殿なら大丈夫でしょう」


 とは、ビサの台詞――って、おい。

 訓練場、もはや私が来ると雰囲気が引き締まって訓練がはかどるようになったビサの部下の前で、私はビサに話していた。


「あのさ、ビサ、少しくらい心配とか無いの?」

「心配ですか?全然ありませんよ。私が軍曹になる瞬間に立ち会っていただけないのは残念ですが、師匠ならば大丈夫です!」


 マジカー。

 説得すらしてもらえないとは。テンションどうすればいいんだろう。


「それに、癪ですが……」


 ちらっ、とビサが私の後ろに目をやって、寂しげに笑った。


「ユアン殿が居るのでしたら、何があっても大丈夫だと思います。むしろ、何かあったら今度こそ許しませんぞ」

「と、言われているが?」

「無論、命に代えても守らせていただきます」


 胸に手を当てて、恭しくお辞儀する騎士。

 よく言うわ……その台詞が真実味を帯びるのはもっと先だと思っときなさい。


「それでは師匠、訓練がありますので失礼いたします!」

「はいはい。じゃあね。また今度、訓練の時を楽しみにしてるよー?強くなってるんだよねえ?」

「もちろんです」


 自信満々に言うビサ。

 私はにこりと笑って、訓練場を出た。

 さて、次は、下手したら原稿用紙三十枚に及ぶ攻防になるぞ……上手く行ったら二枚だけど。






「私もついて行きます」


 とは、アイルズの台詞である。

 鬼気迫る様子で放たれたその台詞に、私は若干たじたじになる。


「いや、宮廷の仕事があるだろう。お前は誰よりも連れて行けない奴だ」

「……ユアンを連れて行くのに、私はだめなのですか」

「あー、いや、ユアンはほら、護衛だからな。お前は執事だろう?私の()を守っておくのが執事の仕事ではないか」


 私は苦笑いしながら言う。ちなみに、騎士は笑顔を浮かべたまま、アイルズを監視するように見ていた。口は笑っているのに目は笑っていない。もう慣れたね。

 私この世界に来てから色々失っている気がするんだ。私向こうに居たときはもう少し人間っぽかったと思うの。ボッチを嘆く普通のニンゲンだったと思うの。

 万智鶴さんに庇われたばっかりにこの世界に来ちゃってさあ……。


 おのれ万智鶴許すまじ。


 ……やめとこう。天罰が下る。


「魔王様をユアンなどに任せられません」

「エリアスも居るぞ?」

「エリアス様だけでは不安です。もう二人、お荷物が居るようですし」


 私は目つきを鋭くする。

 顔から笑みも消した。私は笑顔で威嚇は滅多にしないからね。


「私の友達を荷物とか言うんじゃない。大事な友人であり、大事な国民だ」

「ああ、失礼いたしました。少し言いすぎましたかね」


 にっこりと笑って、アイルズが言う。軽薄だ。珍しく苛立っているのかもしれない。

 少年と狐ちゃんは大事な戦力でもあるわけだしね……。

 っていうか、アルトの事はアイルズには言わない方がいいのかな?どうなんだろうね?


「アイルズ、一応言っておくと、私が行くのは決定事項だからな。私はもうお兄様に許可を取ってある。アイルズには、授業を休むと言いに来ただけだ」


 アイルズはすっと目を閉じ、目を開けた。心の整理がついたようだった。

 ん、おっけーだね。


「分かりました。魔王様が行くと言うのなら、私に止める権利はありませんし止めるつもりもありません。でしたら、私から一つ、魔王様に教えたい事があります」

「お、なんだ?」


 わくわくしながら、言葉を待つ。と、アイルズは艶やかに笑った。


「操作魔法の実践編ですね――今からで良ければ、教えて差し上げます」

閲覧ありがとうございます。

随分久々の更新となってしまいました。本当に申し訳ありません。

次回、狐ちゃん達と話し合いです。エリアスも居ます。

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