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176 だめ?


「ぼくも行く」


 少年が去って、さあアルトに会うぞと意気揚々と部屋に入った私は、入った途端放たれた言葉に足を止める。後ろで騎士も足を止めたのが分かった。

 ギギギと音がしそうなほどぎこちない動作でレーヴィを見ると、レーヴィがさっとそっぽを向く。ぐっ、こいつの差し金か!?

 私が恨めしくレーヴィを睨んでいると、眠そうな何も映さない瞳でアルトがこちらを見た。


「ぼくも行くよ、お姉ちゃん」

「い、いや、どこに行くんだ?あれか?三百四号室に付いて来るって意味か?」

「お姉ちゃん、人族領、行くんでしょ……?だったら、ぼくも、行くよ」

「あ、いや……危険だし、それに……あー、うん。とりあえず、だめだ」


 危険だし、それに、何より呪いの部族を連れて行くわけにはいかない。何よりもそれが理由だった。そもそも魔王と無種族と霊魂族と剣の一族の団体に呪いの部族とか本当、警戒されるどころじゃない。

 下手すれば戦争になりかねない。しかも勝てそうというのが何より問題だね。

 アルトは不服そうにこちらを見てくる。なんだか、無表情なのに感情が分かるって不思議だね。


「だって……ぼくがいたら、戦わなくて済むよ……?」


 おっ?

 静かにアルトと目を合わせる。アルトは目を逸らさず、じいっとこちらを見ていた。

 戦わずに済む。

 それはつまり戦意を失わせるという事であり、不満があれば逃げ出してもらうというのも可能って事だ。騎士殺しの能力だよね、それ。

 かなり有利になる。それにプラスして騎士の腕前を合わせれば、保険に保険を重ねた状態で人族領に乗り込める。すごい。すごい事だよ。


「……」

「どう……?」

「ふむ」


 顎に手を当てる。こうなるなら少年にもう少し残ってもらえばよかった。相談できたのになー。

 仕方なしに、私は後ろを向く。

 呪いに関しては、詳しそうな人に聞くのが一番でしょ。


「どう思う」

「発言してよろしいのですか?」

「許す、意見を言え」


 ってか、さっき思いっきり人族領行くことに反対してたじゃないか君。今さら過ぎる。

 私が答えを待っていると、騎士はいかにも渋々といった感じで口を開いた。


「……癪ですが、アルト様に賛成です。連れて行った方がよろしいかと。そうすれば、私が剣を振るうという事態にはなりませんし、何より安全性が保障されます――招福もありますしね」

「あ」


 そうだ、招福。

 招福があれば、どんな事態に成り得ようとも安心なんじゃないか?例えば、遭難しないように招福してもらうとか。例えばだけどね。

 なるほど、そんな考え方もあるわけか。

 じっと、アルトは私の答えを待っている。


「んー、だけどなあ」


 騎士にまで意見を聞いておいてあれだけど、やっぱり抵抗がある。

 だって、ラアナフォーリだよ?

 呪いの部族だよ?


 下手すれば狙われる。利益を何よりも考えている、お金の事しか考えてない貴族だって、人族領には居るのだ。魔族領では、居ないと断言できるけど。

 こんな事考えたくはないけど、売ったら相当の値段になるだろうし、子供だったら狙われる。問題は、勝てるか負けるかじゃない。勝つのは確定しているし。

 狙われて(・・・・)私達の存在が知れ渡る(・・・・・・・・・・)、っていう点だ。

 自由に行動できない。


「やっぱり、だめだ」

「……お姉ちゃん」

「悲しそうな顔をしたって、だめだ。連れて行けない。危険すぎる」


 まあ表情は変わっていないんだけども。

 すると、アルトはすっと澄んだ目で、こちらに焦点を合わせて近付いてきた。

 自然と警戒態勢に入ってしまう。後ろで騎士も体を固くしたのが分かった。


「お姉ちゃん」

「な、何だ?」

「いい子にしてます。襲われなかったら呪いは掛けません。感情に手出ししません。つまみ食い(・・・・・)しません」

「……」


 眉を顰める。アルトは淡々と、約束の事項を述べていく。


「招福で、どこに行くにも安全にします。狙われにくくします。お姉ちゃんの側から離れません。お姉ちゃんのいう事なら何でも聞きます。お姉ちゃんの安全のためなら、何でもします――だから、連れて行ってください。お願いします」

「……」

「お姉ちゃん」


 アルトが真剣にこっちを見る。

 ああ。

 アルトはただ寂しいからじゃなくて、心配してくれてるんだなあ。優しい。優しい子だね。

 さすが私の――――弟だね。


「あー、もう。ただでさえアルトには弱いのに、そこまで言われたら、断ろうにも断れないだろう」

「……じゃあ」

「ああ。連れて行ってやろう」

「っ!」


 アルトが、目を見開いて両手を握る。確実に嬉しがっている。確実に感情が高ぶっている。

 アルトにしてはすごく珍しい。感情が高ぶる事なんて、滅多にないのに。


「ただし」

「……なに?」


 あ、戻った。

 勿体ないな~。いつでもそうやって感情をあらわにしとけばいいのになあ。


「絶対に側を離れるなよ。側に居て、私を守ってくれ」

「……分かった」

「魔王様を守るのは、騎士の特権なんですがね……」

「守るどころか裏切った奴が何を言うか」


 的確過ぎる突っ込みを入れてから、アルトの手を握る。


「約束だ。私は約束は破らない。絶対にだ」

「……分かったよ。ぼく、お姉ちゃんの事、守るね……大丈夫」


 アルトの目が、いつもの焦点が合わない目ではなく、怒りと呪いを込めたような鋭く光る眼に変化する。手を握っているこっちがぞくっとした。


「お姉ちゃんの事を傷付ける奴なんて、絶対、全員、呪うから」


 アルトはさり気なく、そっと私の後ろを見遣る。うん、なるほど、騎士も例外ではないと。

 っていうか、この子ほんとに怖い。私の事殺そうとした奴が現れたら、容赦しないんじゃないか?もはや勇者すらも呪いそうで怖いんだけど。

 多分、お父様の事を呪った時みたいに、何でもなさそうに呪うんだろうな。

 まあ、とりあえず。


「ありがとう、安心して動けるよ」


 後半部分は嘘ですごめんなさい。

閲覧ありがとうございます。

アルトは万能と言って差し支えないほど優秀ですが、やはり子供のアルトでは呪いと招福を掛けるのに限度上がるため、頼り切りにはなれません。

次回、謝ります。

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