執事編 呼び出し
執務室で書類を整理しながら、じっと待つ。
それより、魔王様は何を考えてるのだろうか。いや、分かるには分かるのだ。魔王様は優しい。だから捨てられた騎士を見捨てられないのも分かる。だが、さすがに裏切った騎士をもう一度拾うというのはさすがに……。
私としても世間体がある。まあ世間体など魔王様の前では塵同然だが。
はあ。
私が奪おうとも思っていたのだけど。
まあそれは、あいつが居ようと居まいと同じ事か。気にしなくていい事だろう。ただ、魔王様がちらちらとあいつの事を気にするのが癪に障るな。
名前を呼んでいないようだった。それに二人の関係がぎくしゃくしてるのを見ているのは若干、やりにくい。
この先色々な弊害があるだろうことは、考えるまでもなかった。
コンコン
遅かったな。
返事をすると、昼の騎士服のまま何も変わっていないユアンが、中に入って来た。薄暗い室内で、青い髪の毛が妙に映えている。私は微笑みを浮かべながら、机上の書類を整理する。
ユアンがドアを閉めるのと同時に、口を開く。
「遅かったですね。もう少し早く来ると思ってました」
「そちらから誘って来たんですから、そちらから訪ねてくる物だと思ってたのですが?」
「裏切者が、偉そうな口を利かないでください」
少しだけ棘のある私の言葉に、ユアンが目を細める。
揺らいだ蝋燭の光で、ユアンが笑っていないのが分かった。普通の笑みを絶やさないこいつにしては珍しい。
「裏切者、ですか。否定はしませんが、裏切ったつもりはありませんよ」
「魔王様の周りにいる人たちは、魔王様が傷付けばそれは裏切りと見做しますよ?それだけで敵意を抱けますしね」
心から、慕っている。しかしそれは崇拝とは違う。
魔王様がピンチの時、誰も命を投げ捨てようとはしないだろう。余裕だろと笑い、ただただ手助けするだけだ。
その忠誠が、本当にすごいと思う。
「それで、呼び出した用は何ですか?何もないのなら休みたいのですが」
「どうして追い出されたのです?」
もったいぶらずに聞く。笑みを浮かべたまま。
相手も、もったいぶらなかった。
「公爵家への謝罪と、魔王様への謝罪。自ら爵位を返上する事を勧めたら追い出されました」
「……なるほど」
「そうすれば魔王様は少し手を緩めると、そうすれば周りからの目を気にしなくていいと言っただけですよ」
ふむ。それだけか。どうせ追い詰められたユウティ伯爵が、自分に対する侮辱だと思っただ。くだらない理由にもほどがある。
もし追い出された理由が何か問題を起こしたからだとしたらと思ったけど。
はあ、杞憂だったか。
「それだけですか?案外短かったですね。では失礼します」
「それだけだと思ってるんですか?」
後ろを向いたユアンが、またこちらを向く。これ以上この場に居たくないと言うように、顔をしかめて。
「魔王様に謝りましたか?」
「……」
「まさか、まだだと?いくらでもチャンスはあったでしょうに。謝ってないのですか?伯爵に謝罪を勧める前に、自分が謝っては如何です?」
ユアンが不機嫌そうにこちらを見る。
でも合っているはずだ。魔王様が傷付いたのも怒ったのに違いはない。
「経緯もしっかりと説明してくださいね」
「……それはつまり、私に謝れと言っているのですね?」
「ええ、極々当たり前の事を言っています」
「分かりました。それだけですね?」
「ええ」
頷く。ユアンが扉を開けて、こちらを振り返った。
「では、失礼します」
「ええ、ごゆっくり」
思っても居ない事を言った後、扉が閉められる。
まあ。
別に、あいつが悪夢に魘され苦しもうと、私は構いませんけれどね。
ただ、魔王様の安眠だけを願いますよ。
閲覧ありがとうございます。
多分ユアンはただ単に執務室に行くのを渋って、遅くなったんだと思います。
次回、ミルヴィアが少年に説明します。




