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173 アパート探し

 城下町を堂々と歩く。この謎の安心感ね……悔しいけどこの安心感は何にも代えられないわ。

 いやぁ、ほんと、護衛が本職の人が居ると安心する。注目を浴びるのは全然変わらないけど。どっちかって言うと、護衛が居る方が注目を浴びるという不思議。貴族は普通、馬車とかで移動するから珍しいんだろうねー。

 宮廷の方に真っ直ぐと大通りを一階も曲がらずに歩いているっていうのもあるか。

 にしても、アイルズなんて言うかなあ。怒るかな。

 それだけが怖い。

 怯えながら歩いていると、すぐに宮廷に着いた。こういう、なるべく先延ばしにしたいところに行くときって早く感じるよね。


「さてと」


 宮廷の番兵の前に立つと、無言で退かれた。どちらも無言という、なんとも奇妙な光景。一応「さてと」とは言ったけどさあ。

 やっぱり護衛が居ると違う。一瞬で魔王だと思ってもらえる。

 だからこそ目立つんだけどね!

 アイルズの執務室に移動する間、何度か欠伸をする。昨日中々眠れなかったなあ。誰かのせいで。夜中入って来た誰かのせいで。ちらっと騎士の方を見ると目が合って、にっこりと笑われた。魔王を子ども扱いしやがって。

 執務室の扉をノックする。すぐに返事があり、中に入った。


 アイルズはまず私を目に入れて、次に騎士を見て目を細める。明らかに機嫌を悪くしたようだった。騎士の方を見ると、笑ってこそいるものの、やっぱり敵意丸出しだった。

 仲良くしてよ。最近アイルズの株上がってんだからさー。

 それにここで喧嘩されたら私が困るっての。二人の主(しかも魔王)として、喧嘩したら収めるの私なんだよ?喧嘩中の二人はマジで怖いからねー。なるべく関わりたくないって言うか。

 私がそんな風に考えていると、アイルズが薄く微笑みを浮かべたまま口を開く。


「魔王様、これは、どういう事ですか?」

「こいつは伯爵家から追い出された可哀想な騎士だ。腕は良さそうなので魔王の護衛とする。それで、安いアパートか何かを探してるんだが」

「そういう意味ではありませんよ。どうしてこいつがここに居るんです?宮廷に入る許可は出した覚えはありませんね」


 殺意を剥いて騎士の方を見る。やばい、これビサとかコナー君もこんな感じなのかなあ。だとしたら大変だな。申し訳なくなってくる。

 先の事を憂うより、今は目の前のアイルズだけどね。


「私が許可した。だからいいだろう?」

「宮廷に入るのは許可しても、私の執務室に入る許可は私が出しますよ。それくらいの権限は与えられていますか?」

「ん、まあ、そうだが、本人の意向も聞きたいだろう。お前が嫌なら、外で待ってもらっていても」

「それは」

「今は、お前は黙っておけ」


 今あんたが口挟むとこじゃないよねー。出来る限り黙っててね。

 とりあえず今の筋書きは、「伯爵家から追い出された騎士が何故だか腕が立つので魔王の護衛にした。安いアパートはないか探している」ってとこかな。周りにはこれで説明しよう。


「いえいえ構いません、魔王様のお気の向くままに。ですが、喋らぬよう命令してくださいますか?」

「喋らないように、か?」

「ええ。それと、決して剣を振るわないようにと。あとなるべく動かないようにと」


 禁止事項多いな!

 仕方ないし、守らせる。後ろを振り向いて、確認する。


「……だ、そうだ。出来るな?これは私からの命令だぞ」

「仰せのままに……」


 かなり不機嫌そうに、騎士が言う。そりゃあそうだ、だって行動のほとんどを禁止されたような物だもんね。

 少しだけ申し訳なく思いながら、アイルズの方を向く。


「それで、思いつくものはあるのか?」

「ええ、いくつか。ですが魔王様の護衛を、安いアパートと言うのは如何なものでしょうか。高い家とは言わないまでも、城か宮廷か、公爵家に部屋を一つというのが一番だと思いますが」

「公爵家はだめだ。あそこはお兄様の家だから、使えない」


 公爵の家なんだけどね。お兄様公爵じゃないし。皆そこらへん忘れるよね。


「では城か、宮廷はどうでしょう?宮廷に住むとなると、私と出来る限り離れた部屋になりますが」

「城は私が把握できていないし、宮廷には預けられない。お前と争うのが目に見えている。だからアパートが最適だろう。それにどんなに防犯が出来ていない家でも、こいつなら大丈夫だろうしな」

「そうですか。いえ、確認しただけです。お気になさらず」


 そもそも魔族領は家に鍵を掛けて外出する一般の人って言うのは中々居ない。窃盗や強盗もないけど、空き巣さえないところなのだ。

 だから結局のところ、安いアパートって言うものの不便なところは便利な店から遠いとか、木造とか、埃が溜まってるとかそこらへんの事でしかない。あんまり、思いっきり不便!って事はないのだ。特にこいつなんかは気にしないでしょ。決めつけだけど。


「公爵家に通う事になるのでしょうか?」

「まあ、そうなるか」


 待てよ、そうなったらお兄様と鉢合わせる確率上がらない?

 お兄様が不快な気持ちになるなら、私が通うってのでもいいけど。


「カーティス様ならタフィツトからあまり出ないでしょうし、大丈夫ですよ」

「そうか?じゃあ、タフィツトへの立ち入りは禁止だな」


 横目で騎士を見ながら言う。騎士は小さく頭を下げた。喋っちゃだめだからね。

 そしていつものごとく心を読まれることに関しては、もう突っ込まない。


「では公爵家から少し近い、ここはどうでしょうか?」


 机に紙が差し出される。私は数歩近づいた。騎士も来ようとしたみたいだったけれど、命令が邪魔して動けない。ちょっと悪いことしたかもしれない。

 渡されたのは住所の書かれた紙と、ある程度の間取りだった。ただ□があってトイレ、とか書かれてるだけの簡素な間取り図だけど。

 ふーん、まあまあ広そう、かな。向こうの世界で言ったらそこそこ綺麗なアパートに分類されるくらいの。分かりにくいかな。まあ、とにかく少し広めの木造アパートを想像していただければ。


「でも家賃が少し高くないか?」

「魔王様、お言葉ですがどれだけ倹約なさってるのですか?これの四倍の月収は出しますよ」

「そんなにか!?」

「当たり前じゃありませんか。魔王様の護衛ですよ?それも腕が立つとなれば」


 最後に付け加えた言葉に、自分でしまったと言うように眉をしかめるアイルズ。うん、騎士が強い事認めちゃったね。

 良いじゃん。仲良くしてこうよ。


「部屋に空きはあるんだな?よし、じゃあここで。契約までどれくらいかかる?」

「大急ぎでやって明日ですね。それまでは公爵家で大丈夫ですか?」


 あ。

 お兄様に今日までって言っちゃってる。それでオーケーしてくれたし、どうしよう。

 悩む私を見て取って、アイルズが提案してくれる。


「では宮廷に一泊と言うのはどうでしょう?空き部屋がいくつかありますので、一つ貸し出しましょう」

「……アイルズ、今日はどうしたんだ?やけに寛大だな」


 いつもならこいつと一緒なんてとんでもありません魔王様、みたいな事言ってくるのに。

 騎士は嫌そうだよ。これが通常運転じゃん。どうしたのさ、らしくない事ばっかり言っちゃって。なんかあったのかな。


「別に、そんなことはありませんよ。ただ、魔王様が困っていれば手を差し伸べるのは執事の役目。そうでしょう?」


 芝居がかった口調でアイルズが言う。

 絶対に裏がある。百%。神に誓っても、というとニフテリザとかになりそうだから、えーと、コナー君に誓ってもいい。絶対的に裏がある。寝首を掻かれても不思議じゃない。

 でもまあこいつならなんとなるだろというノリで、了承した。

 明日の夕方ここに来るという約束をして、最後に今日騎士が泊まる部屋の場所を教えてもらうと、私は踵を返して騎士の方に戻ろうとした。


「ああ、お待ちください」

「ん?」


 待てと言われたので、素直に止まって振り返る。いつの間にか机を越えてこちらに来たアイルズが、小さく腰を折っていた。

 何してるんだろう。


「失礼」


 アイルズは流れるような動作で私の手を取ると、手の甲に優しく口付けをした。

 ………あ!

 かなり長い間やられてなかったので、一瞬反応が遅れた。びっくりして、アイルズを見る。


「今一度、表明しておこうと思いまして……」


 ちらっとアイルズが私の後ろを見たので、全てが読めた。

 あー、うん。なるほどね、見せつけか。

 趣味悪いなー。こんなんじゃ一生仲良く出来そうにない。本当勘弁してほしいわ。後始末するの私なんだからね。

 あ、でも今日は宮廷に泊まるのか。じゃあ私関係ないね。


「それでは魔王様、また明日お会いしましょう」

「そうだな。じゃあ、失礼した」


 私は騎士を連れて、軽く挨拶をしてから執務室を出た。そして近くに居た小姓さんに騎士を部屋まで案内するよう頼むと、じゃあ、と手を振って帰る。


「待ってください」


 ん!?

 なんだ君らは!待ってもらってばっかか!

 そう思いつつも、待てと言われたのだから止まって振り向く。騎士が、心配そうに眉を寄せた。


「一人で帰って大丈夫ですか?」

「ああ、全然平気だ。これまでは一人で来ていたしな」


 後半の部分、かなり反応したけど無視する。

 悪戯心は、私にも少なからずある。恨み言もかなり我慢している方だからね?

 魔王とは関係もなかったけど腕が立つからって理由だけで雇った騎士。その設定を(せめて表面だけでも)保つには言いたいことを我慢しなくちゃいけない。

 あー、本当は思いっきり蹴りを放って大声で説教したいんだけどなあー。


「では青髪の騎士、また明日、会おうか」

「はい。魔王様、今日はありがとうございました」


 そんな会話を交わして、私は宮廷を出た。

 宮廷を出てすぐに、羽を生やして飛んでいく。なんだか疲れて、アルトに癒されたい気分だった。

閲覧ありがとうございます。

公爵家の近くとは言っても、歩いて四十分だったりします。ユアンだったら走って十分ですかね。

次回、執事編です。当然のように裏があるので、それに関して。

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