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1 三百四号室での教え

 私は三百四号室に連れて行かれていた。壁一面本棚。ものすごい量の本がある。

 いやー、読書家としては、そそられますなあ。

 オヤジっぽい事を考えていたら、お兄様が手を引いて本棚の前まで連れて行ってくれた。部屋の真ん中に高級そうな二人掛けの椅子と一人掛けの椅子が二つが、向かい合うように並んでいた。その間には木製の机。カッコイイ。

 お兄様は一冊本を手に取ると、歩いて行って二人掛けの方のソファに座る。その本は大きくて、木製の机に広げておいたとき私の胴体くらいの大きさになった。


「魔法読本だよ。文字は読める?」


 いやいやいや。


「分かりません」


 生まれたばっかというか、日本語慣れした私に魔法読本なるものを読めと言われても無理な話だ。


「人族は魔法詠唱というものを使うんだ」

「へえ」

「人族は言葉によって魔力を操る。だから、微調整は不可能だけど誰でも簡単にできる。反対に、魔族は人族より器用だから、イメージだけで魔力が操れる」

「凄いんですね」

「逆に欠点もある。イメージできない物は使えないし。だから普通、詠唱を憶えて感覚を掴んでからイメージに移る。詠唱しか出来なければ、激しく鍛えられるしね」

「そうなんですか」


 お兄様の話を聞いたり本を読んだりしているうちに、あいうえおみたいな文字なら読めるようになった。文字は一般的に魔法文字が使われてるらしい。でも、難しい言葉で書かれてるのは『魔女文字』という太古の文字なんだって。

 詠唱は大体覚えた。楽しかった。今使うのはやめておこうかなーと思うけど。何故って? 怖いからだよ。何故に怖いのに使わなきゃならんのじゃ。


 一番驚いたのが、今の魔族に関してのお兄様の言葉だった。


「魔族では窃盗も滅多に起きないよ」


 だそうだ。

 有り得ん。めちゃくちゃ平和だった日本でも、窃盗くらい良くある(は、言いすぎにしても、珍しくない状態)だったんだから。

 魔族には一家に一つ。家宝と言うべき魔石がある。私の赤い魔石もその一つ。私は一代限りの最強魔石だけどね! 誇らしい!

 私の魔石は赤魔石という。最強なのです。それでも勇者が勝てる事があるのは、私を倒す時に使う剣のおかげらしい。

 

 強さはレベルで表される――わけでもない。〇〇級とかで表すらしい。私は生まれた時から魔王級。あら、なんてまあ優遇されてるんでしょう。これで勇者からの討伐が無かったら最高なんだけどな。そこまで都合よく行ったらむしろ怖い。

 魔王級の上は神王級。つまり、神。待って待って。私って生まれた時から神様の一歩手前?とか思ってたけど、神王級には魔王級が十人束になっても瞬殺されるらしい。神様への道のりは遠い…。


 お兄様は、それ以外にも色々な事を教えてくれた。

 私としては、イケメンお兄様に教えてもらって嬉しい限りです。


 魔族の勢力図。一番に魔王が来て、次に大公。政務を請け負っているのが大公。公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。王族ってのはない。魔王は代々大きい魔石を胸に持った人がなるものだから。ただし、魔王の家族はそれなりに偉そうな顔をするものらしい。お兄様にはそんな感じしないんだけど、実は腹黒説が捨てきれない。私は前世は本の虫だったのだ。オタクとまでは行かないかもだけど、こういうお兄様って腹黒ってのが王道でしょ?


 まあ、王道は置いとくとして。ついでに私の事も置いといて。


 この家としては、ここに魔王が生まれてくれて願ったりかなったりらしい。聞けば、私の(今の)父母は公爵で、偉そうで、周りからは大層嫌われているらしい。窃盗とか大がかりなのはまったくないけど、実は陰口とか言われていたりいなかったり。


「まあ、父さんと母さんは権力を振りかざしたりしてるからね、しょうがない部分もあると思うよ」

「…お母様、嫌われているんですね」


 実の子としてそれは避けたい。なるべく家名を汚してほしくはないな。後々面倒だし、あの家の子が魔王!? ってなったら反発も多そう。魔王として、それは避けたい。だって、一応魔王として八十年? くらい暮らすんでしょ。


「言っておくと、魔王の寿命は尽きないよ」

「はい!?」

「勇者に倒されるまで、死なないね。というより、勇者の持つ神剣じゃないと死ねない」

「神剣……」


 やっぱそう言うのあるんだ。本能的に怖い。殺されそう。魔法の訓練がんばろ。


「神剣は、この世界の神様、万智鶴(まちづる)様の神剣だ。でも、おかしいんだよねえ」

「はい?」

「万智鶴様は、魔王の味方だったはずなんだ。それなのに、その神剣は魔王を焼き殺す力を持つ。おかしいでしょ?」

「……味方の刃が一番痛い」

「ミルヴィアはいい子だね。やるべき事、すべき事がちゃんと分かっている。本当に生まれたばかりなのかな?」


 どき。

 そうですよー。私は生まれたばっかりですよー。決して、精神年齢十八歳ではありませんよー。

 

「私は生まれたばかりです。そう感じるだけですから」

「味方の刃が一番痛い、か、その通りだね。僕もそう思うよ。ただ、その顔はやめようか」

「え? 私、変な顔してましたか?」

「目の前を睨んでた」

「ああ…ちょっと」


 顔をほぐす。そんな怖い顔してたかな。気を付けないと。

 だって、悔しいじゃないか。なんで味方の刃にかからにゃならんのだ。絶対、ずっと前に勇者が万智鶴様から神剣を奪ったんだろう。窃盗も滅多にない魔族には分からない。

 頭の中に、銀行強盗の様子が浮かぶ。自然と、また険しい表情になるのが分かった。

 人はもっと残酷に人を傷つけるんだ。


「ミルヴィア」

「ごめんなさい。想像すると、腸が煮えくり返る思いがいたします」


 嘘じゃない。怒りで世界が真っ赤に染まる思いまでする。だけど、そう思ったら負け。何となくそう思うから、抑える。


「ミルヴィア、魔王が死ぬ要因はもう一つある」

「何ですか?」

「神剣で切り裂かれた時に見える景色が恐ろしすぎて、魔石が割れると。魔石が割れるのは、神剣で切られたからではない。その景色を感じ、怒りか悲しみかは分からないが、それが原因で、魔石は割れる」

「魔石が割れるのは、神剣で切り裂かれた時の景色」

「ああ」

「…………」

「向こう、勇者の方では、勇者が勝利して終わる物語ばかりだ。こちらでも、魔王が勝って終わる物語は無い。そもそも、争いの物語自体が無いんだ。どちらが勝つでもなく終わる。そんな物語ばかりでね」

「ならば」


 私はにやりと笑う。人族(そっち)がその気なら、いいよ。


「やってやろうではありませんか。勇者など、取るに足らないと思えるほど訓練します」

「ほう」

「魔王に倒される勇者……ふふっ、想像すると――」


 震えが止まりません、お兄様!

 

 そんな私を見て、お兄様が引きつった笑いを浮かべていたのは、気のせい。


「僕はもう行くよ。ちょっとした政務があるからね」

「ありがとうございます」

「ここでなら、なんでも自由にしてていいよ」


 そう言われても、する事がない。お話を続けようにもお兄様は政務なる物へ行ってしまわれた。


 ……と、いうのは建前で。


 ここに在る本を読み尽くしてやろうじゃありませんか!


 私は本棚の前に立って、一冊、本を手に取ってみた。魔法文字で題名が書かれていた。


『魔法のすべて…簡易詠唱呪文すべてを集録』


 なるほど。座って読み始める。結構面白い。

 

 この本の前書きに書いてあったんだけど、この世界の魔法にはいくつかの種類に分けられるらしい。


 水を操る、水魔法。

 氷を操る、氷魔法。

 火を操る、火魔法。

 風を操る、風魔法。

 土を操る、土魔法。

 物を操る、操作魔法。

 感情を操る、真読魔法。

 治癒能力の、治癒魔法。治癒魔法の上級魔法が聖魔法。教会などに使い手が居て、すごい人は即死なら復活させられるとか。


 これらは、水~感情に行くほど難易度が高くなる。治癒能力は人間が元々備えている魔法を他人に使うだけだから、詠唱を憶えれば誰でも使える。ほら、人間って再生能力あるし。それを強化するから、ある意味能力強化。簡単。治癒魔法が簡単だなんて思わなかったけど、簡単なのはすり傷とか打撲とかを治すものだけで、病気を治したりするにはかなり訓練しないとだめらしい。


 感情を操る真読魔法。これは、代々魔王が受け継いできた秘伝の魔法。人族には使えないらしい。私の読みでは、この魔石に力があるんだと思う。

 でも、私は使うつもりはない。

 人間だから……だった(・・・)からかな?人を操っちゃいけないっていう感じがするんだよね~。まあ、魔王になったからには逆らう人には容赦しないつもりだけど。殺さないで、ちょーっと脅すだけ。ふふふ、『この私に逆らえるものなら逆らいなさい!』みたいなのやってみたかったんだよね~。

 

 聖魔法は使えるようになるまで二十年はかかるらしい。速くても十七年だとか。私は無理だな。やりたいとも思えない。


『大体の持病は治せる。ただし、人狼・ゾンビ等は直せない』


 わあ。

 『治せない』じゃなくて『直せない』のところ、狼男じゃなくなるのを矯正として見ているね。良いんだけどさ。


 この他にも、種族ごとに色々固有魔法(ユニークマジック)がある。人族は思考強化。効果は頭がよくなる、みたいな物だった。あんまり利益が無いように思えるけど、凄い魔法だ。算数で例えるなら、足し算しか出来ない子供が、因数分解まで出来るようになる。ズルくありません? もちろん熟練度にもよるから、普通なら足し算の一の位から十の位ができるようになる、ぐらいなのかな。

 人狼の固有魔法(ユニークマジック)は満月変身。普通だったら思考が無効化されて大暴れするんだけど、制御が可能になる。何とか理性が保てるようになる、って事。能力は狼の時と同じ。ズルくありません?


 え、魔王の固有魔法(ユニークマジック)

 さっきの真読魔法です!


 え、吸血鬼の固有魔法(ユニークマジック)

 血を吸った相手の固有魔法(ユニークマジック)が使えるようになるというもの。


 ……うむ、一番ズルいね。


 つまり、人族の血を吸ったら思考強化が使えるようになるんだよ。

 吸血鬼はもう絶滅してるから、この固有魔法(ユニークマジック)『吸血』を持ってるのは私だけ。

 人狼の血を吸えば、一時的に狼に変身できるようになる。能力も丸写し。


 お兄様の種族は魔族なのかな?


 魔族の固有魔法(ユニークスキル)は、『有言実行』。実はすごい魔法なんだよね。

 一言、例えば「浮遊」に『有言実行』を含ませる。すると、一つの物が浮く。難しい事は出来ない。それに未来を変える事は不可能。どんなに使いこなしても、「勝利」とかには使えない。少なくとも今、現在のちょっとした事にだけ使える。

 使い勝手にもよるけど、結構いい魔法。

 

 

 とりあえず『有言実行』欲しいし、魔族の血吸いたいなあ。 

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