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161 深夜一時

 ……寝れん。

 えー、なんでだろう。私寝るのだけは得意なのになあ。寝付けない。

 もっと言うと、こう、そわそわするっていうか、色んな心配事ばっかり考えちゃうっていう。全部考えて、まあいいやって放り出したうえで眠れない。

 嫌なんだよね、こういういつもと違うって感じ。何がどうなってもいつも通りに進んでほしい。

 まあ寝れんものは寝れないので、私は起き上がって三百四号室に行った。なんでって?あそこが一番落ち着くんだもん。


 私は本も開かず、ソファの上で横になって力を抜く。もうすごく遅いからか、直接月の光が入ってきたりはしない。ただ淡い光だけで、周りが見える状況だ。『視界良好』をオンにしていれば恐らく、もっとよく見えるんだろうけど。

 嫌だしね。もう二度とあれは使わない。それに、今はゆっくりしたいからよく見えても困る。

 明日からはお兄様と、雑談しつつの書類整理かあ。ユアンが出て行くまでは、ずっとそんなのになるなあ。操作魔法やりたい。魔導具作りたい。ビサと訓練したい。


 ふと、ビサと訓練しても、私とビサだけだと気付く。

 訓練メニュー、かなり変わるよ。ユアンの指導も何もかもなくなるわけだし……私一人で大丈夫かな。あれ、というか、訓練はするんだよね?軍曹になったら無しかな?

 それに魔導具、ユアンが居なくなったらアドバイスもらえないんじゃ……。

 私は全部考え切った後、溜息を吐いた。力のない笑みまで零れる。


 こりゃ不安で寝れなくもなるよ。いつもは気にしないのが気になって仕方ないもん。

 いや、寝なきゃいけないんだけどさあ。


「寝たくない……」

「あ?なんで?」


 私は聞きなれた声に飛び起きた。少年が窓からこちらを見ている。

 なんで、少年はいっつも私が夜更かししてる時に来るかなあ。なんなの?少年は千里眼でも持ってんの?

 私はソファから降りて、少年の前まで行く。少年はニヤニヤと笑って、尻尾を丸めたり伸ばしたり振ったりして遊んでる。


「お前なんで寝たくないの?」

「いや、なんでって」

「あれだろ、どうせ剣の一族が居なくて不安なんだろ。そりゃそうだよなあ。夢魔も天智も呪いの部族も狼男の兄さんも、全員剣の一族じゃねえ。お前は護衛が居ないから不安なわけじゃないんだろ?」


 うわ、言い当てに来てる。

 私はなんか悔しくなって、負け惜しみのように言ってやる。


「なんだかんだ言って、少年、見透かしてるよねえ」


 暗い中できらりと光る大きな目は、夜でもよく見えてるんだろう。

 私の顔をしっかり捉えて、逃がすまいとしてるのが分かる。

 かく言う私も、他人よりは夜目が利く方だよ――ほら、吸血鬼だから。


「見透かすのは好きだからな」

「趣味が悪いから一刻も早くやめる事を推奨するよ」

「なんだよ、分かってほしいんじゃねえの?」


 分かってほしい……そうじゃないんだよね。私の場合、ただ単に不安なだけっていうか。

 それを少年に伝えたら、心底呆れた表情をされた。何故に。


「お前さ、今まで不安な時どうしてたんだよ」

「一人で解決してたけど」

「悩みは?」

「一人で」

「……人に言った方が早く解決すんだよ。そっちの方がいいの。てかそんなんも知らねえの?六歳のくせに?」

「六歳のくせにって、六歳って案外何も知らないよ?」

「撤回、お前のくせに」

「お前のくせにって何」


 人に言っても、前世じゃ解決しなかったからな。むしろ言い触らされて恥かいた思い出がある。あ、今更あいつ絞めたくなってきた。

 具体的に言えば、友達に相談してるところを聞かれたんだよね。どうでもいいか。

 少年は大げさに溜息を吐いた。


「別に相談しろって強制するつもりもねえけど、言った方が楽になるんだぞ?」

「人それぞれだと思う」

「魔王は相談した方がいいって。相談相手なら滅茶苦茶居るだろ?」

「んー、まあ、ね」


 相談役に適した人なら一人しかいないけどね。

 でも頼り過ぎるのもあれだし、この間当たっちゃったから行きづらいというかなんというか。あんまり頼りたくないんだよ。

 人に頼ると、自分で解決できなくなっちゃうような気がして……と言いつつしょっちゅう相談してるよね、うん。


「そんで?何で悩んでんの?」

「え?なんでそんな事聞いて来るの?」

「は?いや、だからなんつーか、えーっと」


 少年は唇をかんで、少し顔を背ける。口元に手を当てて、視線をさ迷わせていた。


「なんで?」

「だから……………相談に乗ってやるって言ってんの」


 少年は若干顔を赤らめながら言う。私は自分の口角がどんどん上がっていくのが分かった。

 へー、相談乗ってくれるんだ?へー?案外優しいんだねー?


「ありがとね~」

「お前、俺が真剣に言ってんのにッ!」

「分かってるよ。ありがと」


 けど、そんな大げさな事じゃないんだ。


「いつも居る人が居ないのが不自然だなって、それだけ」

「それ、すっごく重要な事だと思うぜ」


 少年が眉を寄せて言う。少年は大事な人を失っているはずだから、知ってるんだろう。

 だけど他にたくさん大事な人が居て、居ないけれど生きている。少年の時とは状況が違う。

 ていうか、割り切っちゃえばいつでも会えるんだよね、伯爵家の警備手薄だし。


「俺は剣の一族が嫌いだ」

「え?あ、うん」

「魔王の事も、嫌いだった。けど今は好きだし、だからこそ、剣の一族とは関わらないでほしい」

「……」


 えーと、好きっていうのはライクだし、少年も気にしてないみたいだから突っ込まないよ?

 いいね?


「関わらないでほしい?」

「なんか、俺の時みたいな事が起きるんじゃねえかなって……思ってさ」

「ふーん」


 魔王と剣の一族が関わり合いになればそうなるんじゃないかなと。

 そう考えてるわけね。

 私は少年に一歩近づくと、かなり鋭く睨みつけた。魔力開放、少年が警戒態勢に入る。


「私の事信頼できないの?そんな事すると思う?少年と友達なのに、狐ちゃんと友達なのに、潰された種族を知っているのに、そんな事が出来ると思うの?」

「やりかねないと思った」

「どうして?私ってそんなに信用無いの?」

「例えば猫族の生き残りが居たとして……そいつが庭師を攫ったら、お前は容赦なく叩き潰す」

「そりゃそうだよ。それはだめなの?殺さないよ?叩き潰すだけ」

「そうか。なら構わないけど」

「ってゆうか」


 私は一気に緊張を解いて魔力を仕舞う。少年が一気に戸惑ったのが分かった。


「ユアンが居ても居なくても同じだよ。ユアンが居ても、コナー君が攫われたらぶっ潰す。ユアンが居なくても、同じ」

「ま、そうだよな。そう言う奴だし」

「逆に少年が何かされてもぶっ潰すから安心してよ」

「しなくていい」


 いや、するよ?全力でやりますよ?

 たぶん、仲間の誰かが殺されようものなら、私は全力で殺しに掛かるんじゃないかな?たぶんっていうか、高確率でやる。

 私ってそういう人だもん。


「じゃあ、明後日も来るから」

「は?いつ?」

「お前が居る時に来る」

「居るかどうか分からないでしょ」

「お前さあ、狐族の固有魔法(ユニークマジック)知らないわけじゃないだろ?じゃーな」


 そう言って、少年は窓から飛び降りた。

 狐族の固有魔法(ユニークマジック)……?ってなんだっけ?

 とりあえず、ここは本の多い三百四号室。固有魔法(ユニークマジック)辞典に手を伸ばして、狐族で調べる。古めの書物だったから、滅んだはずの狐族の固有魔法(ユニークマジック)も載ってた。

 前は無かったはずの本。本と本の間に詰め込まれたようにした本だ。

 この前少年に本を貸して、少年が適当に本棚に詰めてた。その時、一冊多く入れてたのを見逃していたわけじゃない。

 その本確認した瞬間、なんとなく私は笑みを浮かべた。


 なるほどね。

 千里眼を持ってるのは少年じゃなかったって、それだけか。

閲覧ありがとうございます。

真夜中なのに迷いなく三百四号室に行けるのは、注意する人が居ないからでしょう。

次回、数日後の朝。ユアンが行きます。

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