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160 早朝

 私はレーヴィが寝た後に、手紙を開いた。暗い蝋燭の明かりだけで、奇麗な文字で書かれた手紙を読んだ。


『わたくし、ユアン様と会いましたわ。あなたはとてもひどい態度で追い出したそうですわね。安心してくださいませ、わたくしはそんなことはしません。

 あなたはせいぜい最底辺の方を雇うといいですわ。ユアン様のような方は、下品なあなたに似合いませんわ。

 それでは、お幸せに。

 追伸――』


 私は手紙を引き出しにしまった。ああ、なんかムカつくなあ。酷い態度で追い出したっていうのは、否定はしないけどさ。

 すぐに布団にもぐり、目を瞑る。なんだか今日は寝れなさそう。きっと初めての仕事で疲れちゃってるからだ。でも明日はアイルズのところに行って、情報もらわないと。

 大丈夫、アイルズだって良識はあるんだからどうにかなる。襲われそうになっても、短剣で斬り付ければいい。

 ふと、一人で歩いてる時の周りの視線を思い出して怖くなる。私はそっと、アルトからもらった石を握りしめた。石はお守りのように袋に入れて持ち歩いているから、何かあってもどうにかなるはずだよ。この前効力を見たしね。

 だから大丈夫。

 私はスイッチを切って、眠りについた。



 目を覚ますと、私はレーヴィを起こさないようにすぐ衣装室へ行って、軽い服装に着替えた。今日はレーヴィは連れて行かない。一人で行こうと思うんだ。

 周囲の目を気にしてる私を見てる人が居ない方が気楽だと思って。安直過ぎるけど、時には安直なのがちょうどいいんだよ。

 私は最後に上着に手を通すと、少し早いけれど家を出た。ゆっくり歩けばちょうどいいくらいでしょ。予告ないけど、まあ、うん……気にしない!


 外に出ると、まだ早いっていうのに城下町は動き始めていた。市場は開店の準備を進め、裏の方にあるお店は店仕舞い。忙しいみたいで、誰も私の事なんて気にしてなかった。

 あー、心地いいなあ。これから用事があるときは早朝か夜中にしよう。そうしよう。レーヴィは付いて来れないだろうけど……別に大丈夫だろうし、空飛んでおけば基本的に誰も手出しできない。誰かが連れ去られそうになってるのを助けに行かない限りは。

 今考えてみたら、飛んでいけばよかったな。目立つけど、少なくとも地上は見なくて済む。宮廷までの道は覚えているうえ、その方が早い。やっぱりいつもユアンにだめって言われてたから、その選択はなかったなー。これからは考えなくていいのか。


 段々町中が落ち着いて来ると、周りの事が気になって来る。人がこちらを向いた時とか、こっち側に歩いてきてる時とか。

 自意識過剰だからってのは分かってんだけど、なんか怖いんだよね。

 私は『視界良好』をオフにして、足元を見て歩く。足元を見ててもぶつかるかどうかはある程度気配とかで分かるから、大丈夫。ぶつかったりはしない。


 頑張って周りの視線を気にしないで歩いていくと、宮廷が見えた。

 番兵にお辞儀して、黒髪を見せる。それだけで通れるとか、すごくないか。よっぽどこの世界で、髪の色と目の色っていうのは重要なんだなあと思うね。


「アイルズは居るか?」

「はい。執務室に居るかと」

「分かった。ご苦労」


 短くやり取りしてから、中に入る。宮廷の中は見慣れてるので緊張しない。かなり落ち着いた。

 てゆうか、アイルズこんな時間から執務室?言ってなかったけど、今まだ六時だよ?大丈夫?労働時間内なの?契約した時明記されてた?そうじゃなかったら厚生労働省が黙ってないよ?

 私は無駄に心配しながら(上司だから無駄ではないけど)、アイルズの執務室に行く。

 執務室の扉をノックする。中から返事が聞こえたので遠慮せず中へ。私が入ると、アイルズはかなり驚いて立ち上がってた。

 ユアンと言いアイルズと言い、なんで私がいきなり来ると立ち上がるのかな?


「魔王様、どうされましたか?」

「少し、伯爵家の現状について知りたいんだ」

「ああ」


 アイルズは納得したように頷いてから、私を部屋に招き入れた。丁寧に、ドアは閉めてくれた。私は気にせず、執務室にある一つの椅子に座った。突然の来客に応えられるように置いてあるんだと思う。

 にしてもさ、魔王様が来たのに応接間に案内しないってのがすごいよね。いや、いいんだよ?気にしてないよ?いいんだけどさ?


「魔王様が噂を広めるなと仰いましたので、噂は広まっておりません。何故か噂に敏感な兵士も路地裏の方々も知らないようです。病院でも広まっていないようですね」

「ほう」


 つまりビサと狐ちゃん&少年、それにエリアスの活躍でしょう?貴族の事はお兄様、宮廷、城での事はアイルズに任せてあるし……。

 逆に広まる余地なくない?貴族とかから漏れる情報で一般の人も噂するんだよ。

 私の知り合いって人脈がすごい。


「一番人望があるのは魔王様だと思います」

「そうだろうか。王として当然ではないか?」

「ご自分の年齢は、知っているでしょう?」

「自覚があれば、何歳からでもやる事だとは思わないか。自覚が芽生えれば、誰だってやるさ」


 それっぽく言ってるけど、転生者だからだよ。六歳の子にここまで求めちゃだめだよ。

 アイルズはにっこりと微笑むと、細く目を開ける。煽情的で誘惑的な雰囲気が漂い始めた。まずっ。


「魔王様だからこそ……だと思いますよ」

「そうか。なら有難く言葉だけ(・・・・)受け取っておく。行為は要らない」


 アイルズはクスクス笑って、私の目をまっすぐに見る。


「ユアンの事、気になりますか?」

「別に」

「『別に』、ですか。私にはとても気にしていらっしゃるように見えて仕方がないのです。本当に気にしていないなら、隣室を見るのを止めてもらえますか?」

「え?」


 嘘、見てた?いや、見てないよ。だって気にしてないんだし――。

 私の動揺を感じたのか、アイルズはまたにこりと笑った。こいつ……こんな時でも腹立つものなんだね!


「まあ、本当に、気にしていないなら、よかったです。ところで魔王様、本当に彼を引き渡すんですか?」

「あ、ああ、そのつもりだ」

「後悔、しませんか?」

「大丈夫だろう」

「いつでも取り戻せる等と思っているのでしたら……」

「大間違いか?」


 本当に間違ってる?

 アイルズは私の問いに首を振った。そりゃそうだ、もし魔王の権力とか諸々を使えば、いつでも取り戻せるんだから。そうだとしても。

 そうだとしても、無理やり連れ戻したりなんてしない。


「傷付いたのでしょう?彼に言われて、傷付いて、突き放した。違いますか?」

「違わないな」


 肯定はしたくない。だけど違わないんだから嘘は吐かない。

 嘘吐いたところで、ばればれでしょ。


「酷いと思いませんか?だって、あなたじゃなく伯爵令嬢を選ぶと言ったわけでしょう」


 傷を抉って来るなあ。きついぞー。


「まあ、その通りだな」

「悔しいですか?」

「悔しくはない。ただ、悲しいだけだ」


 おっ、と?

 やばいぞ、今初めて悲しいと口に出した気ぃするぞ。い、いいか。アイルズの前でかっこつけてもしょうがないしね……。

 アイルズはそれを聞くと、一瞬顔をしかめてからまた笑った。


「そうですか」

「ああ」


 それだけ?

 私は怒らせてないか少し不安になってアイルズの方を伺った。するとすぐにアイルズは立ち上がって、私が立ち上がるのを手助けしてくる。

 何?もう帰れと?そういう事?

 軽く睨むと、アイルズは困ったように視線をさ迷わせる。


「カーティス様も心配するでしょう」

「ああ……そう、だな」


 もう少し話聞きたかったけどなあ。伯爵家の事何も聞けてないぞ。

 私はお辞儀して部屋を出て行った。出るときに、


「私はいつでもお待ちしておりますよ」


 と言われたので、しょっちゅう来ようと思う。日本と違って社交辞令ではないだろうし。社交辞令だとしてもそれに気づかないふりして行くし。

 日本だったら嫌われそうだけどね。

 私は少し笑ってから、行きの反省を生かして飛んで帰った。

閲覧ありがとうございます。

歩くより飛んだ方が何倍も速いと考えたミルヴィアです。

次回、真夜中に少年とお話。

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