159 手伝い
翌日。
私はお兄様と向かい合わせになって、新しい私用の机を用意してもらってあった。その机に三つの箱が置いてあって、一番左は重要書類、真ん中は優先、端っこは後回しと言う感じで分けてとい言われてる。
書類整理するだけなんだけど、公爵家に届く書類の量が半端じゃない。お兄様がこれを一人で仕分けてやってたと思うとゾッとする。
私は他の公爵家から届いた書類はほとんど左に入れて、手紙の形をしたものだけ真ん中に入れていく。男爵とかそこらへんの爵位の人から届いた手紙や書類はほとんど端っこに入れていく。『重要』と印があるものは必ず左に入れるけどね。
お兄様はそれらの書類を見て、サインしたり弾いたり返事を書いたりして忙しそう。その間も私は書類の仕分けができるから、かなりバランスはとれてると思われる。
いやー、まあ当たり前なんだけど、ユウティ伯爵からの書類または手紙は一枚もないね。それにしても他の伯爵家はちゃんとやってるってのに、他の人に迷惑が掛かるとか思わなかったのかな。
本当、バカげている。
「ミルヴィア、カルフ男爵からの手紙は中央の箱に入れておいて」
「え?ああ、はい、分かりました。カルフ男爵ですね」
「うん。あの人はよく地方の問題点を指摘してくれるからね、助かるんだよ」
へーえ、爵位が低くてもいい人は居るんだね~。どっかの誰かとは違うや。
おっと、噂をすればカルフ男爵。ん、写真付きだ。まあ特にコメントすることもないかな。普通のおじさんって感じの、だけど威厳のある雰囲気を醸し出した人。
大御所っぽい。
「あ、私用の物は後回しのところに入れておいてね、どんな人から来ても」
「分かりました」
私用の物っていうのは手紙ね。私用っていうか、非公式の話って事だけど。
書類は不都合があっても燃やせないけど、手紙なら燃やせるでしょ?
私は貴族って怖いわー、と考えながら手は休めない。数十分やったところで、私はストップをかけた。決して私が疲れたわけじゃなく、休憩の時間だからだ。一時間に一回の休憩。
「一度休みましょう。この量なら次の休憩までには終わります」
「ミルヴィアが手伝ってくれると早いね。安心できるよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
私はにこりと笑って、机の上に散乱した書類を一か所にまとめる。真ん中の箱に入ってる書類の数と端っこの書類の数が比べ物にならない。
マジかー、こんなに後回しのやつがあるんじゃあんまり仕分けの意味なさそう。だけど三つの箱くらいが単純でいいんだよねー。どうしよっかな。
私が案を考えていると、お兄様が話しかけてくる。
「なんだか全く噂が広まっていないのだけれど、気のせいかな?」
「お兄様の暗躍のおかげだと思いますよ」
「そうかな?聞くところによるとエリアスまで動いてるとか。僕は頼んだ覚え、ないんだけどね」
「エリアスはあれで結構気が利きますから」
一応、はぐらかしておく。なんていうか、ほとんど同情してもらってやってもらってるんだよね。
なんか悔しいなあ。これであっちの伯爵令嬢は勝ち誇ってると思うと、滅茶苦茶悔しい。伯爵の方は、逃亡してる死刑囚みたいな感覚だろうな。捕まったら一瞬で殺られるっていうね。
お兄様はニコニコ笑って私を見ている。白状しろと言わんばかりだ。どうやら私が思っている以上にあの人たちの権力(人脈・人望)はすごいらしい。
「僕は何もしなくていいみたいだよ」
「そんな事ないですよ。お兄様が居てこそです」
「……魔王様に言ってもらってるなら、すごく光栄だけどね」
「言いますよ?いつでも公言します」
「遠慮しておきますよ、魔王様」
お兄様は困ったように笑う。
五分くらい経ったらもう一度始めるんだけど、体感時間だからなんとなくになっちゃう。この部屋にも時計を付けてもらえばいいのに、やっぱり軽々買えるものじゃないのかなあ。
確かにトィートラッセでの時計の値段は尋常じゃなかったけど……。
「そうだ、今度新しい護衛を雇う?」
お兄様の言葉に、瞬時には反応できなかった。えっと、とどもって、次に思い当たる。
ああ。ユアンが居なくなったからか。
「いえ、大丈夫です。レーヴィが居ますし、エリアスも居ます。それにビサも……」
「常時付いて回るのはあの方だろう?確かに切りかかってきたらどうにかなるけど、企てられる事自体避けたいんだ」
「いえ……」
「ミルヴィアがいいと言うなら雇わないけれどね。ミルヴィア自体かなり強いし、それは傍目から見ても分かるはずだ」
「そうですね……?」
過去に何人か、命知らずと戦ったことありますよ?特にエルフとか。
しばらく私も外出は控えないといけないけどね。護衛が騒ぎを起こしたから(全く騒ぎにはなってないけど)当然だね。
あー、でも暇だな。
「今度アイルズのところへ遊びに行ってもいいですか?」
「遊びにじゃないんでしょ?」
「はあ、まあ、最近のユウティ伯爵家の事ですが……こちらは把握出来ていないところも多いかなと」
「確かに、僕は当事者だからね、探ろうにもばれたら厄介だ。そうだね、僕からお願いしていい?」
なんでわざわざお願い?
私が普通に行くだけでいいのに……。
「僕がお願いしたら、もし何かあった時出て行けるだろう」
ああ、自分がお願いしたばっかりにってやつか。
そこまで考える?ほんっとに皆考え過ぎだなあ。長生きできないよ?魔族って長生きしなくて四百年以上だけど。
四百年て……何が出来るの?なんかもう色々やっちゃってそうじゃない?
これから先の長い事を考えると、ゾッとする。けどまあ今を楽しめって事で、全然楽しくない今も楽しもう。うん、無茶だね。
「じゃあミルヴィア、再開しようか」
「はい」
私はその日、一日中お兄様の書類整理の手伝いをした。
中にユウティ伯爵令嬢から私への手紙が混じっていて、盗んだのは、気付かれてないみたい。
閲覧ありがとうございます。
書類整理は割と早めに終わりますが、真ん中の書類のチェックを軽くやっています。
次回、アイルズのところに。