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夢魔編 心配

 庭師と話して、少しだけ神楽が明るくなったような気がする。

 アイルズとやらに会いに行く道すがら、儂はそんなことを考えておった。

 あのユアンとやらも、何を考えているんだか。神楽が悲しまないとでも思ったのかのう。 

 だとしたらとんだ愚か者じゃが、そうではないのじゃろ。多分、神楽が悲しんでも、その選択の方がよいと思っただけじゃ。


 儂からしてみれば、馬鹿な選択じゃ。自分に素直になって逃避行でもすればいいものを。

 あのでかい屋敷であの狭い部屋を与えられ、そこで今何を考えておるのじゃろうな?神楽のいなく、外に出ない生活は寂しく暗かろうに。

 その中で反省せずにこのまま突っ走るというのであれば、儂が神楽の護衛役になってやる、安心せい。

 まあ神楽はいちいち黒髪か赤魔石を見せなくてはいけなくなるが、そこは我慢してほしいところじゃな。


 神楽の親しいもの全員が務められる護衛をお主に任せておった理由、ちょっとは考えてから結論を出すべきじゃったなあ。

 儂は諭したりもせぬ。ただ見守り、神楽の心をできるだけ守るだけじゃ。

 だったら諭せと言われるかもしれぬが、魔獣の私には理解できぬ事柄もあるのじゃよ。

 それも理解してほしいのう。


「今から会いに行くのは執事なんだけど、絶対に『魅惑』とか使っちゃだめだからね。『魅惑』を使っちゃうと、やばいことになりそうだから」

「…‥?ああ、分かった」

「ほんとかなあ」


 神楽はクスクス笑って、歩く。その動作も、何か居心地が悪いのか周りを気にしながら歩いていた。

 ユアンの安心感は半端じゃないのじゃな。そりゃあ、いつも守ってくれてる者がいなくなればそわそわするじゃろう。

 ますます彼奴に苛立ちが募って来た。甘やかしたり厳しくした挙句、放置か。

 ハッ、御都合主義じゃなあ?

 そりゃあそうじゃ、神楽の気持ちなんざなんも考えておらんのじゃから。寂しかろう、悲しかろうに、誰にも言わぬ気持ちも分からぬのじゃろ?


 弱音を吐かぬ神楽は、周りの印象があり自分のプライドがあり、弱音が吐けなくなってるのも、彼奴は分かっていると思っておった。

 とんだ買い被りだったようじゃ。彼奴にも彼奴の考えがあり、公爵家の面子を保つにはそっちの方がいいとはいえ、儂は彼奴を守ろうとしている神楽の気持ちを考えてほしかったと思って居る。

 誰だってそう思うじゃろ、今回の彼奴の選択に賛成するものなど、居らぬのではないか?


「アイルズ、ユアンが居なくなったって言ったら喜ぶかなあ」

「は?」

「アイルズはユアンの事が桁外れに大嫌いだから、喜ぶかも。怒らないでね」

「いや、儂は怒らぬが」

「私も怒らないから」


 か、神楽がしんなりしておる……。

 いつもの元気がまるでない。さっきまで黙っとったから分からんかったが……。

 こ、これは本当に落ち込んでおる。


 とはいえ励ます言葉が思い浮かばず、儂は頷いただけじゃった。

 ぐっ、こういう時に実力行使をしてきた儂は言葉の使い方が難しいと痛感するのじゃ!

 魔族の言葉は難しいぞ!

 我が眷属にはまだ言葉を喋る奴が居らんかったから、よくしゃべるようになったのは最近なのじゃ。

 神楽にはお喋りだと言われるが、しゃべる相手が居て嬉しいからなのじゃよ。

 そして神楽もお喋りなのじゃが、その神楽が周りを見てびくびくしながら歩いておるなんて……!


 信じられん、ユアンの影響力恐るべしじゃ。

 儂が若干慄きつつ、神楽は周りを気にしながら歩いておると、前に人影が立ちはだかる。儂は迷わず神楽の前に立った。彼から見れば、姉を守ろうとする妹に見れたかもしれぬが。

 男は背が高く、犬耳が生えていた。犬人ではないな、ただの獣族じゃ。それに、その表情から悪意は見えぬ。逆に心配しておった。儂は徐々に警戒のレベルを下げていく。


「嬢ちゃん、いつもの騎士さんは居ねえのか?」

「え?あ、ああ、居ない」


 神楽ははっとして答える。

 おお……大丈夫なのか?何だか儂よりずっと警戒して居る気がするんじゃが……ユアンの安心感ってそんなじゃったか?


「そうか。俺らは町の巡回をしてる市民団体なんだが、俺らはいいんだ、嬢ちゃんの顔を知ってるから守ってやれる。けど嬢ちゃん、よく裏道を利用してるだろ?騎士さんが居ねえんだったら、通らない方がいいぜ」

「あ、いや裏は狐ちゃ――」


 そこまで言って、神楽は止めた。黒い光を湛えた目で男を見上げ、にこりと笑う。


「分かった、そうする。警告、感謝だ」

「お、あ、ああ」


 男は少し驚いたように一歩下がった。

 それはまあ六歳児があんな大人っぽい表情をしたら、驚くじゃろう。神楽は慣れたものというように一礼して歩き始めた。儂もその後をついていく。

 その後も神楽は、ずっとずっと周囲を警戒していた。それはもう精神を摩耗するのではないかというほど、おびえてたと思う。


「神楽、そんなに警戒せずともギルドの職員が居るし、儂も居るんじゃから平気じゃよ?」

「……え?あ、そうだね、うん、ごめん」

「いや」


 まずい。これは、本当にまずい。

 なんなんじゃ?ユアンに依存しておるというわけではあるまい、だって個人行動も好きなのじゃから。やはりあれか、普段と違うから違和感を覚えておるのか?

 いや、もう結構歩いている。そろそろ少し慣れてもおかしくはなかろう。

 なんなのじゃ、彼奴の存在がそこまで大きかったと?

 くっ、分からん。分からん上に苛立ってきた。神楽は何も言わなさすぎる。言ってくれれば話を聞くものを……。

 いやこれもさっき儂が言った通り、神楽は弱音を吐けぬ。

 怒りの矛先は彼奴に向けておくのが良策じゃろう。


「着いたよ、レーヴィ」

「ん?……おお、まさに宮廷じゃな」

「でしょ?えーっと……失礼」

 

 その後神楽が赤魔石を見せて、中に入る。衛兵がブルブル震えてたが、まあ。頑張れという事で。

 神楽は二階に上がると、扉を叩いた。中から、白髪の少年が出てくる。儂を見て驚いた後いつもの姿がないことを確認し、神楽の表情を見て。


 神楽の怯えた表情を見て、目を細める。


 この少年も、中々強そうじゃ。

 儂はそう判断して、少しだけ警戒しておくことにする。この少年が本当に神楽を好いているのなら、こんな表情を見て襲おうなどとは思わぬだろうが。


 神楽は細く息をして、顎を引いて上目遣いで少年を見、自分の腕を押えていた。


 どこからどう見ても怯えているし、どこからどう見ても震えている。

 少年は緩やかに微笑み、儂らを招き入れた。

 神楽の言ってるほど、悪い印象はないんじゃが。

閲覧ありがとうございます。

警戒度が上がるミルヴィア。

次回、執事編。何気に初めてです。

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