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16 調べ物

 馬車は何事もなく家に帰り、私はお兄様に強制お姫様抱っこされて家の中に入った。


「お兄様、大丈夫だって言われたんですから、下ろしてください」

「だめ」

「だって、重いですよね?」

「五歳の女の子を抱えて重いって言うほど、か弱い男に見える?」

「見えませんけど…恥ずかしいですし」


 何とか下ろしてもらおうと訴えても、当たり前だと言うようにニッコリと笑いかけられる。本当に恥ずかしいんだけど…すれ違うメイドさんとかが「まあっ」という表情で口元を押さえて走って行く様子をみる限り、十分後には屋敷全体に伝わってしまうだろうなぁと思う。面倒だというよりかは、恥ずかしい。私だって感情はあるんだから。

 しかもイケメンと至近距離で、私心臓ばくばくなんですが。お兄様とはいえ、金髪碧眼のイケメンですよ?我慢出来ますか!出来るけど、ギリギリ無理なんですが!

 

「大丈夫。何ならもっと目立っても僕は構わないよ」

「お兄様!」


 何言ってんのこのイケメンは!


「ほら、特別室に着いたよ」


 やっと下りれる、と出かけた言葉を飲み込み、特別室のベッドに静かに下ろされる。こう言っちゃなんだけど、このベッド、深すぎて寝にくい。普通のマットレスの方が寝やすい。だけど、たまには悪くないかな、と思えるほど包まれるような心地がする。ただ、起き上がりにくいけど。


「あのー、お兄様、私三百四号室に行きたいんですが…」

「だめだよ」


 お兄様は驚いたような顔で言った。

 うん、分かるよ?私一応病人だもんね。でもさーあ、本こそ薬って言葉聞いた事ない?あ、ないか。私もない。


「大丈夫だと言われたからといって、十日も目が覚めなかったんだ。まだ心配だよ」

「…そうかもしれないですけど」

「ほら、寝ててね。外は衛兵がいるから抜け出せないよ」

「むぅ」


 ちょっとくらい自由にさせてくれたっていいのにさ。そもそも大丈夫だって言われたんだから。心配しちゃう気持ちは分からなくもないけど。


 お兄様が出て行った後、私はベッドでゴロゴロしながら調べるべき情報をまとめていた。

 巨人の件は「ディダースの事件」。バードラゴンはバードラゴン。魔石は魔石…あ、あとドラゴン・スカルも余裕があったら調べたいな。こう考えると意外と多い。資料を探す時間もあるだろうし、抜け出しても見つかるのは時間の問題だと思う。


 どうしよっかなぁ。衛兵が居るのもあるけど、それ以前にユアンに見つかったら怖い。さっきのあの覇気のあるユアンを見ちゃうと、目を合わせただけで斬られそう。それはないだろうけど、そう思わせるほど、ユアンの目には命が浮かんでいなかった気がする。なんていうか、あのまま斬らせても、そのまま剣を仕舞いそうな…院長ごとき居なくてもいい、みたいな。


 考えが逸れたので、軌道修正。えっと、ユアンの事も気になるから、時間があれば剣の一族についても調べてみよう。ユアンの種族だったしね。いつかは血を吸っただけで種族が分かるようになれればいいんだけど、さすがにそこまでのチート機能は無いよね。……無いと言いつつ期待しますが。


 窓の外を見ると、もう日が傾いてる。病院まではそこそこ距離があった。もしかして、公爵家だけどその領地って立地が悪かったりして。立地が悪ければすごく嬉しいんだけどな。あの人達が無能だと証明されるようなものだし。そうだったらどんなに嬉しいか。そうだ、ついでに魔王についても調べてみようかな。

 マズイ。考えてると調べ物がどんどん増える。最初は三つだったのが六つになってる。考えを止めよう。


 …あ、でも権力のピラミッドも見ておきたい。魔王が頂点だとして、次は?副官?副官かぁ、副官の仕事も把握しときたい。それと魔王の仕事って何なんだろう。そこらへんも調べるとして…あと貴族になる基準と、魔王の赤魔石の特性、は魔石を調べる時に一緒に調べよう。あと魔法事典、滅茶苦茶分厚いやつがあったから読もう。あと…


 途方もなく調べる数が多くなったと気付くのは、夕食が運ばれてきたときだった。


「こちら、お薬です。ちゃんと飲んでくださいね」


 エレナさんから渡された瓶を見てみると、澄んだ緑色の液が入っていた。緑色の液体っていうとなんとなく気持ち悪そうに見えるけど、これはエメラルド色と言った方がしっくりくる。綺麗で、眺めていたい。ただ、種みたいなのが入ってるけど。


「種は飲まなくていいですからね」


 え、これ種なの?一気に飲みたくなくなったんだけど。飲んだ瞬間苦しくなるとか眠くなるとかないよね?いやだよ?私毒も兼ねた薬なんて飲みたくないよ?精神的に死ぬ。

 そう思いながらすうっと瓶をあおって喉に流し込む。美味しい!サイダーみたい!


「このお薬、何の薬なんですか?」

「多分ミーツの葉の薬じゃないでしょうか?魔力循環を絶妙にコントロールする効力があります」

「へえ、ミーツですか。美味しいですね」

「はい、ミーツはしゅわしゅわしていて、薬の中では飲みやすいと評判なのですよ」

 

 やっぱりエレナさんって物知りだな。薬についても少し調べたい…あぁーっ!増ーえーた―!

 突っ込みながら、差し出された料理を見る。ベッドの隣に机があり、そこに料理が置かれた。


「今日のお夕飯はこれになります」


 出された料理は全部美味しそうだった。

 インゲンに似た野菜を炒めたり煮たりした料理とか、透明で水みたいなスープとか、柔らかそうな白パンとか。この白パン、アルプスの少女がどこかのお屋敷で食べるパンに似てる。一口齧ると、ほんのり甘いパンで美味しかった。


「ご馳走様でした」

「はい。…その挨拶、誰かが教えたんですか?」

「へっ?」

「私が教えるはずだったのですが…」

「あ、あー、本!本にね、書いてあったの!」

「…そうですか」


 分かった事がある。私が転生者だとばれるとしたら、多分エレナさんが一番だ。だって鋭いもん。怖いくらい。さすが三百四十歳!


「では、失礼しますね」


 全部を食べ終わると、エレナさんはお盆に全部乗せて部屋を出て行った。

 うーん、暇。暇すぎる。あ、でも、眠い…かも…。

 

 そして、私はゆっくり眠りについた。

 

 

「…ん?あれ?私、寝てた?」


 誰も居ない部屋で独り言を漏らす。暗い!光、光…って無いか。


「我が手に灯せ、白き光。白光」


 ポウ、と右手に白い光が灯る。それで辺りを照らしてみれば、シーンというような音が響く。

 っあー、寝ちゃったか。あの薬、睡眠作用でもあったの?うわっ、月があんなに高い。こりゃ十一時は越えてんな。最悪。調べ物したかったのに。

 

 そっとベッドを下りて扉まで行き、衛兵を見る。衛兵は槍を持ったまま微動だにせず立っていた。

 しょうがない、この手は使いたくなかったけど…。


「衛兵」

「ん…ああ、お嬢様」


 お、お嬢様!?魔王様とかミルヴィア様じゃなく!?マジか、呼ばれ慣れてないから照れちゃう。


「部屋から出して」

「だめです。カーティス様から出さないよう仰せ付かっておりますので」

「…」


 こりゃ…金貨じゃ動いてくれそうにないなぁ。しょうがない。私は歯を見せるようにしながら、舌で歯列をなぞる。笑顔で。笑顔は恐怖を煽る、というのはユアンから学んだ事。


「種族は?」

「…ま、魔族・魔法種・ビレスです」

「へーえ」


 魔族の中では、魔法種と剣種と劣化種がある。その中でも更に詳しく分類されるんだけど、ビレスはかなり一般的な種族だ。


「まだ、ビレスの血、飲んでない」

「~っ!?」


 衛兵が目を見開いて震え始める。ガタイの良い衛兵さんなのに、可哀想に。でもごめんね、私、好奇心には勝てないんだぁ。


「頂戴」

「…か、カーティス様を、呼びますよ?」

「その瞬間、お前の首筋から血が流れる」

「……っ」

「通してくれれば、見逃してもいい」

「わ、私、はっ」

「どうする」


 衛兵は無言で端に退いた。私は部屋の外に出ると、息を整える。上手くいって良かった。緊張してたし。


「身体強化発動」


 吸血鬼の固有魔法(ユニークマジック)。五感強化の応用版で、身体強化。それを使って体が上手く動くようにする。体中が熱くなったような感覚を覚え、そこからいきなり走り出す。


 うっわ!早い!ちょ、怖い!階段通り過ぎそう!っと、ここ右だっけ?…痛い!


 廊下の曲がり角で、思いっきり壁に激突する。


「…うう…これ加減しないと難しい…」


 何とか制御しながら走り出す。

 よし、上手くいった…やりすぎ、違った遅い、足がもつれそうっ、あ、大丈夫、ああーっとここだったぁ!

 慌てながら走り、何とか三百四号室に着く。


 中で明かりを燭台に移し、十分な明るさになったところで本棚に近付いて書類の方に行く。ええっと、「ディダースの事件」、「ディダースの事件」…あ、ディ、違った。なにそのダイレクトな飛行時代って。ふざけてんの?

 見つからないままイライラしていると、やっと見つけた。端っこの方に、「ディダースの事件」と背表紙に書かれた事件をまとめた本があった。どうやら物語風にまとめたらしい。かなり古かった。


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 ディダースの町に突如現れた巨人は種類が分からないほど腐敗していた。毒を持つ果実が投げ入れられたのが原因と思われる。但し、その毒を持つ果実が何だったのかまでは分からない。謎だらけの事件だが、主な謎はもう一つあった。

 公爵家以外に狩人の一家の息子が生きていた事だ。公爵家の者は兵士の買収の罪によって捕まり、後に金により無罪となった。息子は生きていたのだが、その息子も異様だった。家族が巨人の口に放り投げられ、二度と生きて帰る事はないというのに、騎士の取り調べに笑顔で応じたのだ。取り調べ中、一度も悲しそうな表情はしなかった。それどころか、このような場所は初めて来るので嬉しいですとまで言った。


 巨人は後から能種のレンドレットだと分かったが、それはさして問題にならなかった。それは王国が調査を打ち切ったからである。何故と理由を問われれば色々ある。まず、逃げた公爵家が文句を言った。あの程度の事件に税金をつぎ込むなど何事だと当時の副官に申し立てたのだ。公爵家はかなりの領地を保持しており、尚且つ奴隷市に多大な権力を持っていたので受け入れられた。次に、公爵家以外の生き残りだった息子が消息を絶ったのだ。90038年現在、その息子は見つかっていない。

 これらの状態により、王国による調査は打ち切られた。

(「ディダースの事件」より抜粋)


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 そもそもここが王国だったこと自体驚きだけど、とりあえず、私は本を閉じた。

 後の事をしらべる気力ないなぁ。ユアン、まさか失踪してたとは。というか、予想はしてたけど、やっぱりご両親が亡くなってたのか。というか、ご両親が亡くなったのに、笑顔で対応したとか怖い。

 はあ、もう戻るか。お兄様に見つかったら怒られそうだし。


「調べ物、終わりましたか?」


 背後から聞こえた声に、背筋が凍りつく。

 やばい。逃げないと。どうやって?―――窓から!


 身体強化を一瞬で起動させて走り出す。もう少しで窓、というところで、現れた影にすぐに止まる。


「逃がしませんよ」

「…うゎ…」


 さっきの衛兵さんの気持ちが分かった。


 …笑顔で殺気撒き散らすとか、怖いわあ…。

閲覧ありがとうございます。

護衛の殺気に負ける魔王です。一応、魔王は成長したら一番強くなるので、現段階ではミルヴィアより強い人が居ても不思議ではありません。

次回、ユアンが怖いです。

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