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153 意地悪

 家に帰ると、レーヴィとアルトがアルトの部屋で寝ていた。

 なんか、絵本の読み聞かせの途中で二人とも寝ちゃったらしい。絵本を手に持ってて、幸せそうに寝ていた。そっと毛布を掛けておいたけど、まだ夕方なんだよ?

 ほんと、二人とも子供だよねー。レーヴィとか、三百歳のはずなんだよね。


 んー、どうしよっかなあ。アルトが起きてたら同席させようと思ってた。

 三百四号室でもいい……どーしよっかなあ。


「どうしますか?三百四号室で話しましょうか」

「うんにゃ、私の部屋で話そっか」

「はい」


 私の部屋まで移動すると、燭台の蝋燭を付ける。もっと明るく出来るんだけど、これだけでいっか。

 ユアンは立ち、私はベッドに座る。出来ればこのまま寝転がりたかった。

 いやはや、それにしても疲れたなあ。まさかああなるとは。後半油断してたのが明らかに間違いだったよね。

 警戒を解いたうえ、油断してたらもう目も当てられない。


 ってか、頭に手ぇ置かれんのはほんと無理だな。

 抱き着かれたり、そう言うのよりもなんていうかこう……カアッとなる。

 あーっ、ほんっとに疲れた。もう寝たいなあ。ユアンが居るから無理だけどさ。


「それで?どうしたの?」

「アイルズ様の前で警戒を解くのは止めて下さい。何かされたでしょう」

「何もされてないよ。安心してって」


 諭すように言う。

 いや、ほら、頭に手ぇ置かれただけだし、その後の私の反撃の方がえぐかったっていうか。

 『魅惑』をオンにするだけで、普通の人なら耐えきれないくらいの衝動に駆られるんだけどね。よくもまああそこまで我慢したものだよ。


「何かは、されたでしょう。どうやって反撃したのですか?中途半端ではありませんでしたか?」

「中途半端って?」

「腕を切り落としたとか、足を斬ったとか」

「それを中途半端と呼ぶお前が恐ろしいよ……」


 どっちかっていうとやりすぎ。

 ユアンはじいっとこちらを見てた。いつもの笑顔もない。それだけで、ちょっと不安になってくる。

 私は顎を引いて、じっとユアンを観察した。


「どうやって反撃したのですか?」

「どうやってって……やってあげよっか?こんなだけど」


 まあ、あれがどれだけえぐいかっていうのは、実際に受けるのが一番だと思う。決して意地悪したかったわけじゃないよー。いつもの引っ付き虫のお返しとか思ってないよー。

 私は『魅惑』をオンにした。ユアンが眉を寄せて目を細め、拳を握りしめて唇を軽く噛む。

 多分今ユアンは、私が前にお兄様から受けた感覚を味わっているはず。


「どうかなあ」


 私の声が耳から入って、脳を侵していく感覚。一応精神に影響のない程度に留めておいてるけど、それでも心臓が鳴り止まないはず。

 例えるなら、好きな人とくっついている時みたいな?多分、そんな感じなんじゃないかな。

 私は彼氏居た事無いから知らないけどね!


 ともかく、そんな感じなわけですよ。ってか、私の『魅惑』がユアンに効くとは思わなかったなあ。

 根性で耐えそうだったんだけど、やっぱり本物の夢魔の血ぃ吸ったら強化されたのか?

 今はどっちでもいいか!この状況を楽しもう!


「ユアン、聞いてるの?」


 首を傾げてそう言う。口元が笑ってんのはさすがに隠せないけど、なるべく悪戯っぽさは隠してるよ。

 ユアンは息を吸って、吐いて、を繰り返してようやく言葉を口にする。


「分かりました。ですから……」

「ですから?どうしたの?」

「っ」


 止めて下さいって言いたいんでしょ?ん?言わないの?

 さっきかなりアイルズに屈辱を味わわされたからね、ちょっと八つ当たりっぽいけどやりたいんだもん。

 そしてしばらく、じいっとその状況を楽しんでいると。

 ユアンが私を睨んできた。


 ちょっと予想外で、私は目を見開く。

 あのユアンが、私を睨んでくるとは思わなかったし。

 なんか申し訳なくなってきちゃって、少しずつ『魅惑』を弱めて行った。いきなりパチッと切ると、長時間受けてた場合体が驚いちゃうかもしれないからね。

 これは私独自の理論だけど。


「えと……まあ、こんな感じでやり返したの」

「……そうですか。もうやらないでくださいね」

「え?」


 またまた予想外で、私は間の抜けた声を上げた。

 だって今のは、完全に相手を封じ切れる手段。動けなくなっちゃうし、何より何かをやろうって言う気力が削がれる。

 だからこそ、叱ろうとしているユアンに対してやったってのもあるんだけど。

 私が驚いていると、ユアンがいつもの笑顔に戻った。


 いや、いつものっていうか。

 なんかしようとしてる時の笑顔だよ、これ。


「もう一度、やっていただけますか?」

「断りたいなあと思ってたり」

「……」

「やります」


 ユアンの無言の迫力に押し切られて、『魅惑』をオンにする。

 その途端、ユアンが私の肩をトンっと押した。私の体がベッドに向かって倒れる。

 やば!?

 さすがに、前にやられた事には敏感な私。後ろに手をついて、そのまま後転をして、ユアンから距離を取った。

 ユアンはそんなに驚いた様子もなく、にっこりと笑ってた。


 こいつ……!

 久々にユアンに対して腹が立つ。


「こう言った事も有り得ますので、気を付けて使用してくださいね」

「本当にやる馬鹿があるか!」


 一瞬で距離を詰めて、蹴りを放つ。易々と躱されて、舌打ちした。

 かなり久しぶりに無駄な戦いを挑んだ気がする。くっそ、今のは当てたかった!

 ユアンはまだにこにこしながら、続ける。


「ですが本当に気を付けてください。『魅惑』は使いどころを間違えればすぐに襲われてしまいますよ?アイルズ様は今回は我慢したようですが、同じ手は使えません。次からは実力行使と言う事で」

「……分かったよ」


 なんか、納得いかない。だって『魅惑』をしてからの実力行使っていう流れが私の中では最強なんだもん。

 あー、『魅惑』を使われて我を忘れてる人を、傷付けないようにして取り押さえるってのがむずいのか。

 面倒だな。


「それに、外で使っているところを見られたら何と言われるか分かりませんよ?」

「どゆこと?」

「『魅惑』は夢魔しか持っていない固有魔法(ユニークマジック)ですからね。魔王が持っているのは良いのですが、印象はあまりよくないでしょう」

「なるほどねえ」


 カディスの事があるのか。

 確かに、建前ってのはあるからね。お兄様が活躍してくれてるとは言え伯爵令嬢とも揉めてるわけだし、あんまり波風立てるのもなあ。

 最近は人付き合いでのトラブルが起きすぎでしょう。


 伯爵令嬢とは、またぶつかる気ぃするし。


「それでなのですがミルヴィア様」

「ん?」

「お説教はまだ終わっては居ませんからね?」

「……」


 それからアルトが目を覚まして私の部屋に来るまで、延々とお説教をされてた。

閲覧ありがとうございます。

ミルヴィアとユアンのこういう絡みは久しぶりな気がします。楽しい。

次回、伯爵令嬢。

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