表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/246

お兄様編 警告

 ミルヴィアが真剣な顔で来たから、何の事かと思えば。

 意外と、心配しなくても大丈夫だ。伯爵家、しかもアリファナ嬢は問題を起こす事で有名だから声を上げたところで誰も相手にはしない。


 僕は普段着で街を歩く。視線は集めるけど、それはちょうどいい。

 公爵家の僕が伯爵家へ行く。

 その事実だけで、騒がれるのは間違いないからね。

 それに、僕が一人でいて襲おうなんて企む輩も居ない。一応、魔法使いとしては一流だからね。


 ミルヴィアと違って魔力量はそう多くないけど、細かく魔力配分するのは得意なんだ。

 僕が威圧すれば、結構逃げ出すんだよ?ミルヴィアはあまり分かってないみたいだけどね。


 周りの反応を楽しみながら歩いていると、意外と早く伯爵家に着いた。

 大きい門をガシャッと揺らすと、中から人が出て来る。

 あの人……あぁ、ユウティ伯爵。まさか直々に出て来るとは……窓から見ていたのか?


 僕が窓の方を見上げると、こちらを見下す女性が目に入った。

 二分の一の確率。黒い服が見えた事からして、推測は出来るけど。


「か、カーティス様、今日はどうされたので?」

「いえ、外で話すのは」

「……どうぞお入りください」


 失礼します、と言って中に入る。

 相変わらず凝った装飾にかなり飾っている部屋だな。まあ、僕がとやかく言う立場ではないのだけれど。

 娘と奥さんが、この家庭では強いと聞いてる。ありがちと言えばありがちだけどね。


 通されたのは応接間。ソファが二つに小さなテーブルが一つ。お茶も運ばれてきた。

 うちにも応接間はあるんだけどね。ミルヴィアがお客さんを三百四号室に呼んじゃうだけで。応接間よりも三百四号室の方が広いと言えば広い。

 皆あそこが応接間だと思ってるんじゃないか?


「それで、何のご用でしょう?」


 僕は一口お茶を飲んでから、言った。


「率直に申し上げましょう。アリファナ嬢ですが、まだ管理下に置いた方がいいのではありませんか?」

「そ、それは……公爵様に、何か失礼をしたと……?」


 魔王に失礼をしたんですよ、なんて言ったら震えあがるので、にこりと笑って曖昧にしておく。

 それでも相当な恐怖だったようで、ユウティ伯爵は青い顔をしてぶるぶると震えていた。

 そこまで怯えなくともいいのに。


「で、ですが娘ももうそろそろ大人になる頃です。そんなに管理を徹底するというのは」

「そうですね。でも、色恋沙汰でこちらに迷惑をかけるのは、止めて頂きたい」

「色恋……沙汰?」

「はい。うちの騎士の勧誘に来ました」

「なっ、それは!」


 騎士の勧誘をするならば下の地位の者から。

 ご法度だ。伯爵家令嬢が公爵家令嬢の騎士を勧誘するなどあり得ない。実際魔王の騎士なのだから、勧誘できる者は居ないんだけどね。

 本当、あの子から何かを奪える人なんて居るのだろうか。


 居るとしたら、僕だけれど。地位的には下だとしても、現時点でミルヴィアの信頼を一番得ているのは僕だし、兄と言う立場的には上だ。

 だけど、本当に大切な物は、あの子は誰にも譲らないだろう。


 そう考えると、少し楽しくなってきた。

 自分の妹がそういった存在であると言うだけで、楽しさが込み上げてくる。


「すみません……よく言いつけます」


 考えごとをしていたら、怒りと焦りと恐怖がごちゃまぜになったような、青紫色の顔色をしたユウティ伯爵が居た。

 ああ。


「そうですね。言いつけておいて下さい。それと、誰彼構わず求婚するというのも、伯爵家の品格を落とすのでは?」

「申し訳ありません。ですがそれは、娘の自由ですので……いずれ嫁に出て行くわけですし……」


 ふむ。

 なるほど、それに関与する気はないと。

 僕がそれを分かると、伯爵にも伝わったらしい。わたわたしながら付け加えてきた。


「で、ですが!ちゃんと注意はします!」

「そうですか。良かった。それでは、僕はこれで失礼します」


 僕の発言に、ユウティ伯爵はぽかんとした。

 そんなに驚く事かな?用が済んだら帰る。雑談が好きな貴族もいるけれど、僕は忙しいから。

 この後のごたごたもすぐに終わらせたいしね。


「え?もうですか?」

「はい、そのつもりですが、何か?」

「い、いえ!えー、ご足労頂き誠に申し訳ありませんでした」

「いいんですよ。ああ、お見送りも結構です」

「はい!」


 この部屋から出たらどうなるのか、僕にも若干分かっていた。

 危険予知能力は高くないとはいえ、以前僕に同じような事をしてきたアリファナ嬢だ。

 執事を連れて報復に来る。ああ、あながちあり得ない話ではないだろう。


 ユウティ伯爵と別れると、ザッ、と音を立てて僕の前に金色の髪色をした女性と、燕尾服の男が立ちはだかった。

 ……。

 面倒臭い。


「久しぶりですね、アリファナ嬢」

「ええ、お久しぶりですわ、カーティス様。一体何年振りになるでしょう」

「舞踏会でお見かけしましたよ」

「あら、声を掛けてくれたら良かったのに」

「男性と踊っていらしたので……邪魔するわけにはいきませんからね」


 本当、いつ見ても派手な格好をしているな。何処へ行くにもドレスだと言うし。

 空気を読んで行動してほしいと切に願う。


「ところでカーティス様、あの後女の方と歩いているところをお見かけしましたわ。あれはどなた?」

「……?妹の事でしょうか」

「いいえ!メイド服を着ていましたわ!」


 は?

 ああ、エレナの事か。ますます面倒になったな。エレナは姉のようなものだと言うのに。

 疲れる。一瞬で捩じ伏せてやりたい。


「ならメイドですよ。買い出しのチェックでしょう」

「本当かしら。信用できませんわ」

「信用してもらう気はさらさらないのでいいのですがね」


 僕が思わずそう言うと、アリファナ嬢は笑みを浮かべたまま体を震わせた。口元は笑っているけれど、目元は怒っている。

 凄まれても怖くないのは何故だろう。

 あれだな。


 僕の周りには、こう露骨に怒ると言う人が居ないんだ。

 大体殺気を放つ。

 ユアンも、エリアスも、ミルヴィアも――僕も。


「いいですわ。お庭に行きましょう。そこでアーズと対決してくださいませ」


 僕は一瞬、執事を見た。

 細身だけれどかなりいい体格。動きにくそうな格好だけれど、四六時中あの格好で居れば慣れてあれが一番動きやすくなる。

 鋭い眼光。いかにも「お嬢様に逆らうな」と言いそうだ。

 かなり強そうではある。


 狼男としての闘争心がくすぐられる――が。


「お断りします。生憎そんな暇はありません」

「暇、って!わたくしに構うというのが、暇を持て余さないといけないと言うの!?」


 ああ、いい加減にしてほしい。

 僕は目を細め、怒りを抑えつつゆっくりと言う。

 自然とあたりの温度が下がって行く。ミルヴィアはこれを察知するとすぐ警戒モードに入るのだが、アリファナ嬢は硬直し、執事はよく分からないと言うように目を細めていた。


「こちらはあなたがうちの騎士に手出しをしたせいで、わざわざ出向かなくて行けなくなった。その結果、溜まっている仕事の処理が追いつかないのですがね」

「そ、そんなの知った事じゃないわ!」

「なら知ってください。貴族間での暗黙の了解さえ知らない令嬢は、後々苦労しますよ」


 そこで、何故か執事が襲い掛かって来た。

 これ以上は危険だと見たのか、それとも「お嬢様」を気遣っての事か。

 どちらにしろ、執事の持っていた短剣は、僕の魔法で止められた。氷の刃が、僕の手の中にはある。

 

 まあ……ミルヴィアが魔法は一番得意だけれど、僕の方が精密さと発動までの時間短縮は出来ているかな。


「帰ります。……憶えておいてくださいね」


 この様子だと、ミルヴィアにも手出しした可能性が有る。

 お嬢様びいきは一向に構わない。こちらに迷惑が掛からないのであれば。

 

 ミルヴィアが傷付かないのであれば。

閲覧ありがとうございます。

伯爵家は功績を挙げてはいるのですが、どれも大したことではなく、小さい事の積み重ねで爵位を保っているといった感じですね。


ここでお知らせなのですが、学校の行事でしばらく投稿が出来なくなります。申し訳ありません。

次の投稿は土曜日を予定しています。お待たせしますが、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ