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150 雑談と言及

 翌日、エリアスが家に来た。私がビサの試験の結果を気にしているだろうって。

 私はユアン、あとアルトがしがみ付いて離れないのでアルトと話を聞くことにした。もちろん、三百四号室で。

 ユアンがお茶を淹れてくれて、私達の前に置いてくれる。アルトにはくれないけど。


 理由があって、お兄様が来たときに一つ余分にカップがあったら不思議に思うでしょ。

 何よりアルトはお茶嫌いだしね。


「んで、結果、知ってるの?」

「まだ分からないが、恐らく大丈夫だろう」

「そっかなあ?」


 私としては、負けたのと同じ気がするんだけどね。

 どっちにしても訓練し直すよ。引き分けなんて無いね。勝つか負けるか、白黒つけないと。


「ところで、なんで長引かせなかったの?」

「昼にまで伸びてしまえば、休む時間が減ってしまうだろう。伍長には明日も仕事がある。それにあれは同格、そうじゃなかったとしても決着が着くのにどれくらいかかったか」

「ふーん。まあ、そうだよね」


 私としては、それとは違うところが気になってたりするんだけど。

 最後に聞こう。今聞いてもはぐらかされそうだし。最後に聞いても同じかなとは思うけどね。エリアスだし。

 エリアスはお茶を啜って、こちらを見た。

 

 せっかくだし、雑談でもしようかな。

 そう思って、私もお茶を飲んだ。ん、美味しい。今日のは一層気合が入ってるんじゃないかな?


「エリアスから見て、ビサの腕はどうだった?中の下?」

「なんでそこまで悲観的なんだ。いや……上の中、って所じゃないか?切り返しも上手かったし、一度も喰らっていなかった。相手にダメージも与えていた。いつもの訓練場だったら勝っていただろう、と言いたいところだが」

「臨機応変じゃなければ意味がない」

「そういう事だ」


 戦場では、足場なんて構っていられないからねー。

 慣れてないからできませんでした、なんていう言い訳って通じないの。むしろ慣れてないところで出来ないと。

 いつもと環境が違うのって、思いのほかやり難かったりはするんだけどね。


 戦場では、それにプラスで緊張感と恐怖心も追加される。焦燥感も、かな。

 んー、悔しい。今度ビサと森で一戦交えようかなあ。魔獣の邪魔もあるし、うん、結構良いかも。


「何を考えてるか知らないが、魔獣が全滅する事態だけは避けろ」

「やだなー、冗談じゃーん」


 怖っ。

 久々にエリアスの読心術見たわー。何を考えてるかは知らないが、って、思いっきり分かっちゃってんじゃん。

 エリアスはまたお茶を飲む。意外と気に入ってるのかな?


「お前は、あの後どうなったんだ?」

「あの後って、エリアスが逃げた後?伯爵令嬢と揉めて今お兄様が絶賛暗躍中ですが何か?」

「ああ……」


 エリアスの反応から見るに、若干罪悪感は感じてるらしい。

 私はにやにや笑って、お茶を一口飲んだ。目を細めて、エリアスを見る。


「いやー、でもまさかエリアス、逃げるなんて思わなかったなあ。そこ、謝ってくれないの?」

「……謝る事でもないだろう」

「そうかな。私結構不安だったんだよ?伯爵令嬢とやり合うなんて。年上だし、怒鳴られたり言い負かされたりしたら尻尾巻いて逃げるしかなかったもん」

「お前が言い負かされる事なんて、無いだろう」

「でも、怖かったんだって」

「……すまなかった」

「ん?もしかして今、謝ったかな?」


 私がからかうように言うと、エリアスがこちらを睨んできたので、ここらへんで止めてあげるけど。

 でも少し本音も混じってるよ?何かあったら第三者が居てくれれば、上手く行けば揉め事は避けられたと思うし。裁判になっても、証人が居れば勝てるしねー。


 まあ、権力的に負けはしないけど。っていうかそのためにお兄様が暗躍中なんだけどね。

 お兄様、大丈夫かなあ。過労みたいだったら、私が出て行こう。あ、公爵家としてじゃないよ?それだとお兄様と同じ立場になっちゃうからね。

 その場合アリファナ嬢が更にヤバイ立場に立たされることになっちゃうけど、仕方ないじゃん?


 魔王として出て行ったら、皆、さすがに引いてくれるでしょ。


「俺はもう帰る」

「あ、うん。怒らせちゃったなら、ごめんね。帰るの?」

「ああ。仕事もあるしな」

「ふうん。ビサは受かるんだね?エリアスはそう見立ててるのね?」

「ああ」

「で、引き分けとしたのは、伍長に次の日仕事があるから」

「そうだな。実力も同格だと判断した」

「へーえ。……で、なんでそれを知ってるのかな?」


 場の空気が一気に変わったのが分かった。今までじいっと私の手を握っていたアルトが、こちらをちらりと見る。

 エリアスは目を細めて、ユアンは相変わらずの笑顔。


 私はにこにこ笑いながら、確実に言質を取った事を言っていく。

 誤魔化されるのも、気分悪いんだよね。隠し事は友達を無くすよ?


「それに、判断した、って、完全に審判側の見解だよ?エリアスは観戦(こっち)じゃないの?」

「……言葉のアヤだろう」

「そうかなあ」


 本当に?

 そう思って、首を傾げる。エリアスは警戒態勢。アルトはぼんやりと机を見つめていた。

 私は更に話そうと口を開く。


「ここからは完全に私の思った事なんだけど、エリアスが逃げた後、ビサと伍長に引き分けを告げて帰ったとしたら、私とビサが鉢合わせたのもタイミング的に納得が行くんだよね。納得が行くと言えば、エリアスが昨日あの訓練場に来てた理由にも説明が付く」

「何と?」

「『審査するため』?分かんないけどね。審査員席に座ってたとしたら、これまでの事も分かって来るし」


 ずーっと前、私がビサを弟子にした時エリアスが駆け付けた理由も分かるしね。

 返答を待っていると、エリアスがにやりと笑った。予想外で、目を見開く。


「まだだな」

「ちぇっ、まだか。残念。これ以上シリアスな雰囲気は私の性質上無理なので、言及はここまでにしとくよ」


 シリアス苦手。

 私は笑って、エリアスを見送った。

 

 にしても、まだ、って。

 いつになったら言ってくれるんだろうなあ。大体の見当は付いてるとは言え、答え合わせ出来ないと、落ち着かないなあ。

 私はそう思いつつ、ビサの試験結果を想像してため息を吐いた。

 

 あー、ビサの訓練が無くなったら暇になるとか言ってたけど、無理だ。

 もっともっと鍛えないとね。

閲覧ありがとうございます。

例によって最後まで言及しないミルヴィアです。シリアスが苦手と言うより、相手から言ってもらわないとしっくり来ない子なんです。

次回、お兄様編。伯爵家にお邪魔します。

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