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146 ガラスペン

 地民の日、私は山で私は少年が来るのを待っていた。当然、ユアンも一緒に。

 家で待ってたら、少年が顔を出して「山に行ってろ。裏山な」とだけ言って出てったんだよ。

 なのに。


「あいついつ来るの!?」

「ミルヴィア様お静かに。鳥が飛び立っておりますよ」

「だって!もう四十分だよ!虫刺されで何回回復魔法使ったか!」


 もったいないっていうのは分かってるんだけど、痒いんだよ。

 それに結構寒い。いつもなら火魔法を使って暖まるんだけども、当然森の中で火を点ければ山火事になる事間違いない。

 しかもユアンと話す話題も特にないし。暇だし。


「来たぜ」

「おー、来たかー。じゃあ早いところ済ませて帰ろうよー」


 少年が来ても反応が薄いのは、反応する余裕がないの。凍えちゃってるんだよね。

 ユアンは平然として立ってるけど、私としてはホッカイロでも入れてるんじゃないかと。前にクラスで、一人だけ体育の時ホッカイロ持って来てて平然としてる子が居たんだよね。

 あいつ許さない。


「あ、待て。これ」

「?なにこれ」


 少年から渡されたのは、銀色の指輪だった。

 なにこれ。薬指にでも付けろと?


「いいから付けてみろ」

「んー、まあ、いいけど」


 人差し指に付けてみる。すると、指先からポカポカしてきて、体全体に暖かいものが広がって行った。

 あ、これ、任意発動じゃなくて強制発動の魔導具じゃん。ホッカイロ的な使い方かな?……熱っ!?

 熱い、熱い熱い熱い!これは熱い!


 勢いよく指輪を外して、水魔法で包みつつ手も冷やす。いや、一回暖かくなったから、うん……。

 指輪が冷えて、魔力供給も切れたので、少年に返す。少年は頭を掻きながら舌打ちした。


「あー、やっぱり失敗か。なあ、任意発動にするのってどうすればいいんだ?」

「そんな事も知らないで魔導具造りしようとしてたの?あれだよ、書きはじめを肌に接する面に書かなきゃいけないんだよ」

「それで外側にどうやって回すんだ?」

「内側に書きゃいいじゃん。それかちょっと見かけは悪くなるけど、内側からぐるっと線を書けばいい。そんなことも知らないで……あー、火傷した」


 氷で冷やしておく。何が悲しくてこの極寒の中氷に手を付けなきゃいけないんだよ。

 っていうか私で実験すんな。勉強できる本がないのは分かるけどさあ。私の家で勉強しようよ。


「悪ぃ悪ぃ。いや、さっきは全然平気だったんだけどな」

「猫族って肉球あるのかな?」


 だから平気だったとか?

 火傷が治ったみたいだったので、氷を粉々に割る。いつもながら割れた瞬間は光を浴びて綺麗だな。

 しかも騒いだからか、寒いのなくなったし。結果オーライでいいんだけど。


「で、なんで裏山?家でいいじゃん」

「こっちばっか出向くんじゃメンドイだろ」

「一回家に来てから裏山行くのもめんどくない?」


 めっちゃ遠回りじゃん。

 私の抗議を完全に無視して、少年はそこらへんの石を集め始めた。指先が汚れるのもお構いなしだ。

 何してんの。


「お前も集めろ」

「用途は」

「これに魔女文字を彫って、魔力が流れるかどうかだけ見る」

「あー、なるほど、石だから大した効果は出ないけど、魔力が流れる回路だけためしに書いてみると。へえ、それなら金属アレルギーで死んだりはしないね」

「誰の話だそれ」


 私も大き目の石を集め始める。だから裏山だったわけね。

 うーっ。石が冷たい。石を焼いて熱くしてほしい。今なら持てる気がする。

 数十分後、いつの間にかユアンも集めてたみたいで、数十個の石が溜まった。さてと。

 これに魔女文字を彫るのか。ナイフで。


「滅茶苦茶嫌だ。感触味わいたくない」

「安心しろ。これ、トィートラッセで買ってきた」

「それも魔導具って事ね。どれ」


 少年が取り出したのは、綺麗な装飾が施されたガラスペン。ナイフじゃない。

 ふむ……魔女文字が見えないのは、ガラスに直接彫ってあるから、かな?見えづらいっていう。

 綺麗だね。けどペンでしょ。字を書くための物でしょ。


「これ、なにか使えるの?」

「それ、魔力を流さなければ普通に使えるけど、魔力を流したら石でも綺麗に彫れるんだと。トィートラッセのおばさんが言ってたから間違いない」

「へえー、これで彫るわけか。お金は?どうしたの?」

「これは一生物らしいから、貯めてた金使って買った」

「……生活は?」

「そんぐらいの貯蓄はある」


 まさか放浪者みたいなものの少年が、私よりお金持ちだったとは。

 いや、私は働いてないんだから当然なんだけどね。ついでに言うと六歳児はそこまでお金持ってないけどね。

 少年はそれを使って石を彫った。ガリガリっていう不快な音もせず、すうっと石に魔女文字が彫られていく。少年がとりあえず掘ったのは、『々』だった。

 

 そこに少年が魔力を流す。それと同時に私は、目に送る魔力量をちょくちょく変えて行った。6、5、1、3、8、13、14、あっ!

 一瞬、すうっと紫色の光が通ったのが分かった。つまり、魔力の可視化をするのに必要な魔力は13~14の間って事だ。


 ふう……なるほどね。これからの微調整がものすごく大変なんだけどね。加えて言うと、ちょくちょく変えて行った中に色々見えたから、それについても調べよう。


「よし、石でも魔力は通るな。ほら、手伝え」

「あ、うん。えーっと、ユアン、ナイフ持ってる?」

「お前のはコレ」

「は?」


 少年から渡されたのは、黒い装飾がついたガラスペンだった。

 ま、まさか……!?


「買った」

「嘘でしょ!?」


 やばい!借金した!

 そう思って、渡されたガラスペンを取り落すところだった。

 怖い!なんで!?これいくら!?


「意外と安いぞ。小銀貨八枚

「高い!八万円!」

「は?」

「い、いや……待って、まだ返せないから」

「いや、金取ろうなんて思ってねえよ。お前にはこれからずっと手伝ってもらうんだし、投資」

「いやいやいや!これは悪いよ!」


 言っちゃあれだけど私公爵家の人間だから!

 一応お兄様に言えば貸してもらえ……無いかもだけど、これはだめ!絶対!八万円は高い!


「いいじゃねえか。俺の仕事じゃ、これくらいの金一回で貯まるんだよ。余ってんの」

「え、いや」

「お前は自分は魔王だからとか言ってそうだけど、お前働いてないんだから」

「うぐっ」

魔導具造り(これ)は俺がやりたいから巻き込んだだけだ。それにこれがないと作業効率が下がる。何よりもう買っちまったんだから素直にもらっておけ」


 私はありがとう、と呟いて頭を下げた。恐れ多い……魔導具とか本当造るの大変なのに……。

 その後、私はひたすら石に魔女文字を刻み続けた。途中で少年が疲れたと言って根を上げても。

 後からなんでだろうって考えてみたんだけど、私は魔力が多いからどれだけ魔導具を使っても疲れないんだよね。


 魔導具造りに置いて、少年が私を重宝する理由が、実感できた気がする。

 結局その日は、山の中で一時間半過ごして帰った。石を置いて。

 つまりまた来なきゃならない。


 嫌だよー。夏まで待とうよー。

閲覧ありがとうございます。

少年の仕事は一回だけでも大変な物ばかりなので、割といい生活してます。頑張れば家も借りられますが、魔族領に居付きたくないので路上生活。

次回、ビサの昇進試験。

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