142 魔導具について
ほとんど魔法についての説明回です。
ちょくちょく面倒臭いところがあるかもしれませんがご容赦ください。
地民の日、午後のお茶会を楽しみにしつつ本を読んでいた。読んでる本はお兄様がくれた魔女文字大全。ちなみに本当の題名は長いので私が略称を付けてそう呼んでる。
ふー、疲れたな。ちょっと休もう。
探してたのは少年が造ろうとしていると言う、魔導具のヒント。っていうか手がかり。
今まで一回もそんな事言ってなかったから気付かなかったけど、少年も魔導具に興味あったりするのか……?いや、どうなんだろ。
それに調べてみても一言、『無限魔力の作成は不可能である』としか書いてないし。
困ったなあ……理由が分かんないと改善のしようがないよ。
「ユアン、無限魔力回路って分かる?」
「知りませんが、ミルヴィア様の言動から察するにあの少年の作成しようとしている物でしょう」
「うん、正解。それでね、それの作成が不可能って書いてあるんだけど、どうしてだと思う?」
「私にとっては、それの必要性がいまいち理解できないのですが……」
まあねー、普通ならあんまり必要ないからね。
けど、科学者とかそこらへんの人はすごく助かるんだよこれがあると。
「魔導具の研究をしていると、魔力枯渇が起こりがちじゃない」
「そうですね。必然的に実験が必要になりますから」
「ところが魔力って言うのはすぐには回復しないでしょ?」
「はい」
「けれどもこれがあれば、あら不思議、魔力補給が一瞬で出来る!」
「何故です?」
冷静だなー、もっと驚いてよ。話し甲斐がないじゃん。
「回路を逆にすれば、魔女文字に注いだ魔力を自身に戻す事が可能って言うのは実験済みだから」
「……なるほど。魔力を注ぎ込み、増やしたものを吸収すればいいと言う事ですね?」
「そゆこと」
ものすごく簡単に言えば、コップに溜まった水がいくらやっても減らないっていう。
そのコップから違うコップに水を移したら、水が増えるでしょ?そういうこと。
「どうしても何も……物理的に不可能でしょう」
「うん」
確かに、もう宇宙の理がどうだとか関係なく、物を二つに増やすなんて無理か。
はあ……少年、一体何をしようとしてるんだろう。
「それを今から説明するぜ」
「うおっ!あ、い、いらっしゃい」
悪戯っぽく笑う少年は、窓からひょいっと入って来た。いつも思うけど、その窓鍵掛かってるのにどうやって入って来てんの?
首を傾げながら、中に入れる。
説明してもらえるなら、説明してもらいたいし。私も全然分かってない。
「だって考えてみろよ。何もないところに物を作り出す操作魔法があるんだから、増やすっていうのは魔法で可能って事だろ?それに加えて魔力だ。魔力ってのは水と違って液体じゃねえ。増えてんだか増えてないんだかは分からない。まあとにかくやってみたいなと」
「なるほど、やってみたいなと」
「ああ」
チャレンジ精神旺盛で大変結構。
それに私を巻き込まないでもらいたい……と言いたいところだけど、私としてもすごく気になるところだからね。
手伝ってあげよう!この魔王様が!
「なんかすげえ威張ってねえ?良いけどさ。それで、これが俺の考えてる魔女文字の配置」
「おお、準備が良いね。……ナニコレ?」
「魔女文字の配置」
「お、あ、うん、でも、あれ?これって」
魔導具の最低条件、『魔女文字同士がくっついている事』。
それを滅茶苦茶に無視した、バラバラの配置だった。
これじゃあ魔力が通らないよ?
「俺が言った使いたい魔女文字って憶えてっか?」
「『ζ』『И』『ゞ』『々』、でしょ?憶えてるよ。けど、これ、どうなってるの?」
「俺が思った事その一」
「あ、ハイ」
「くっつけて書かなきゃいけないのは魔力が流れないから。だったら同じところをグルグル回らせたらどうなるんだろう」
「ただただ何の効果もなく魔力が減るだけだね」
私は神妙にうなずいた。時間・労力・魔力の無駄。仕事に必要なこの三つが無駄になる。
やらない方が絶対良いんだけど!
「俺が思った事その二」
「ん」
「魔力を転移させることは出来ないだろうか?」
「無理だね、ワープは魔法でも出来ないんだから」
「そんで次に俺が思ってるのはな――」
それから数十分、少年の話を聞いた。
魔力回路がどうとか、魔力の流れがどうとか。そしてそれを聞いて、私は結論を出した。
「無理。無限魔力回路の作成は諦めた方が賢明だね」
「っ、なんでだよ!」
「少年の理論は無茶苦茶だよ。現実的に出来得ない事ばっか。机上の空論にさえなってない」
理想論でさえもない。小さい子供の宇宙飛行士の夢の方がよっぽど現実的だよ。
神様でも無けりゃ、出来っこない。いくつか可能かもしれないっていうのはあった。けど、何日もかかるようなものばっかりだし。
「……じゃあ、協力はしてくれねえんだな?」
「うん、しないよ。少年としては私の無尽蔵の魔力が必要なんだろうけど、こんなのには付き合えない」
「俺は、お前と試行錯誤すればどうにかなるんじゃないかと思ってるぜ?」
「無理かな。協力しない」
私がばっさり断ると、少年は顔をしかめた。
ごめんね。こればっかりは無理だよ。操作魔法の訓練もあるし。
「なら、お前が協力したくなる事言ってやるよ」
「ふうん、言って見なよ」
私は挑発するように少年を見た。
「――魔力の無限回路。出来れば魔力の補充が可能になる」
「それが?」
「一度魔力を注ぎ込めば何度だって補充が可能だ」
「だから、知ってるって」
少年はトン、と人差し指で机を叩いた。
少年は目を細めて、暗い顔で笑った。
「お前が一度魔力を注げば、庭師へ魔力を移す事だって可能だ」
「……!」
いくつか可能かもしれないって思った物は、あった。
例えば、操作魔法で習った温度で魔力が増えるっていう原理。魔力の流れを良好にして、魔導具内での温度調節が可能になれば。
例えば、魔力の流れを操って枯渇を防ぎ、枯渇を防いだうえでさっきやった事をやれば。
仮定的に言うと、枯渇がしなければ魔力が永続的にそこに存在する事は可能なわけで、永続的に存在する事が出来るならば温度で増やすのは可能じゃないかと。
マジか……。
魔力が無くなると死んでしまうっていうコナー君。魔法が使えないというコナー君。
だけど、それがあれば魔力の補充が出来て死んでしまう事も無ければ魔法が使える。
「ちょっとだけ……考える」
「了解、それじゃあまた来週来るぜ」
そう言って、少年は紙を持って外に出た。
残った私はお茶会の時間まで、延々とそのことについて考えていた。
閲覧ありがとうございます。
要約すると、「出来るかできないかやってみないと分からない」です。
次回、コナー君とお茶会です。