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140 責任

 お兄様からたくさん血をもらった後、少年と三百四号室に行った。レーヴィとアルトはお留守番。

 そして予想通り、扉を開けた途端、少年には目もくれずに私のところへユアンが走り寄って来た。ちょっとは少年にも触れてやれよ。

 と思ったけど、三百四号室に入って来たのか。じゃあ知ってるのか。

 

「ミルヴィア様!どうされたのですか、心配しましたよ」

「んー、ごめん。お兄様に血貰ってきた」

「……そうですか、それは、申し訳ない事をしました」

「いいっていいって。昨日はありがとね」


 これだけで全部察するとは、さすがユアン。察しが良いね~。

 少年はつかつかと中に入って、ソファーに腰掛けた。どさっと。すごい音がしたよ。

 私も少年の向かいに座る。少年が偉そうに足を組んでリラックスして座っていた。ここ公爵家なんだけど、よくそんなにゆっくり出来るな。

 少年、肝が据わってるって言うか。


 さて、少年が私のところに来た理由は分かってる。

 アルトの事だ。まあ言っちゃえばレーヴィが来たときのエリアスみたいな立場かな?依頼者って言えば依頼者だし。仲介人だけどね。


「で?上手く懐柔してるみたいだけど、何やったんだ?」

「ご飯をあげた」


 そう言うと、少年は不敵に笑った。


「ははっ、なるほど。そりゃあ感情が無くても懐くだろうな。お前も良い手を使うよなあ」

「お腹空いてたみたいだからあげただけなんだけどね」

「悲しくても怒ってても嬉しくっても、感情が無くっても腹は減るからな」


 まあね、確かに。言っちゃえば、餓えてる人にご飯をあげれば、その人は自分を恩人だって思うわけだし。

 今回はそのパターンに近んだよねー。何だか弱みに付け込んだ感じがするけど、いいのかなあ。


「お前はお前で情であげたんだろ?だったらいいんじゃねーの」

「適当っぽいよ?」

「なあ、魔王。野良猫っているだろ?」


 何、急に。

 居るけど。


「あれに人間が夕飯を渡したとする。としたらもうその猫は野生じゃ生きていけないわけ。けど、その猫に餌をやった奴は餌が無いって言ったら、引き取るか?」

「……私だったら、引き取らないけど」

「どうして?」

「野生じゃなくしたのはその人だ。その猫が死んでしまって悲しむのは、その人。一時の情でご飯をあげたなら、その責任は取らなくちゃいけない」

「酷だな」

「責任って重要だよ。その人がその人の立場にあるが故に取らなきゃいけない責任も、その人がその人の行動によってとらなければいけない責任もあるんだから」


 責任を負ってる人はたくさん見た。ほら、夢でね。神様と会ったでしょ。

 あー、こういうシリアスなの苦手。切り替えようっと。


「で、その猫をアルトに置き換えろと」

「じゃあお前は育てられんだな?」

「うん。責任は取るから安心して。それにあの子は、野に放つには危険だしね」

「ああ」


 例えばアルトが、一匹の狼の闘争心という感情と言えば感情のものを奪ったとしましょう。

 その狼は一日も持たずに死ぬ。だって争えないんだから。

 アルトが動物の感情を奪えば、肉体はそのままだけど殺した事と同じになっちゃう。しかもあの子知能は高いしね。


 怖っ。一日にして森中の魔獣居なくなるわそんなん。


「で、狐ちゃん元気?今週敢え無かったからさー。気になって」

「元気だぜ?走り回ってるよ」

「何故に」

「寒いから」

「コート買ってあげなさい」


 あの子一年中白いノースリーブなんだから。尻尾であったまってるんじゃないの?

 あ、想像したら結構暖かそう。あの子の尻尾めちゃふさふさだし……いや、やっぱ寒いよ。絶対。


「少年はなんでそんな服着てられんの?」


 少年が今来てるのは、チェックの長袖に赤い蝶ネクタイ、黒い袖なしのジャケット、真っ黒のズボン。

 お洒落ー。どこで拾ってきたのそれ。

 盗んだんじゃないでしょうね。


「前の仕事の報酬だよ。あいつの分もあるんだぜ?なのにあいつ、着ようとしないから」

「?なんで」

「狐族時代の服はあれしかないから、あれがいいんだと」

「あー、納得」


 昔のやつしか着たくないって事ね。なるほど。

 狐ちゃんの家族で生きてる人っているのかなあ……いや、多分居ないだろうな。

 探すとか、そういう事を言っちゃいけない。きっと生きてるよとか、酷だから。少なくとも狐ちゃんに関してはね。

 ずっと会えなかったんだし、そうだと考えるべきでしょ。


「なあ、今度魔女文字教えてくれよ」

「は?なんで?少年魔導具に興味あるの?」

「ちょっと魔導具を造ってみたいと思ってるから、お前に助言がもらいたい」

「どんな魔導具なの?ね、教えて」


 少年が造りそうな魔導具かー。

 なんだろう、不言魔法じゃないだろうし。魔力を通したら魔法が使える魔導具があるから、それの固有魔法(ユニークマジック)バージョンとか?

 ありそう。


「『ζ』『И』『ゞ』『々』を駆使したやつ。考えてみろよ、これ以外につかうやつないから」

「それだけで何かできる……?」


 えーっと、回路は何とかなるけど、繰り返しのが二つあるって事は……。

 まさか、無限魔力回路に挑もうっての?

 いや、そうと決まったわけじゃない。けど、『ζ』は魔力の流れを良好にする文字。『И』は確か、魔力の枯渇を防ぐ文字。記載が難しすぎるんだけどね。


 無限魔力回路っていうのは、魔力が無限に増え続けるっていうもの。

 言葉にしちゃえばシンプルだけど、今までどれだけの人が失敗してきたか。そしてどれだけの失敗作が生まれた事か。

 軽く兆は超えると私は思うね。


「出来たら魔王にやるよ。俺はただ実験がしたいだけだからさ。そういやあの庭師、元気か?」

「あ、うん。攫われた事は知ってるんだね。元気だよ。まだ仕事は休んでてもらってるけど、遊びに行ってるし。髪の毛を今度切りに行こうって話してたとこ」

「ふうん、髪の毛ねえ」


 少年はにやっと笑うと、唐突に立ち上がった。そして、一回ジャンプしただけで窓枠に飛び乗る。

 結構距離あるんだけどなあ。猫の跳躍力って舐められないわ。まあ普通の猫は無理だろうけども。


「じゃあな魔王。結構楽しかったぜ」

「楽しんでもらえたなら何より。そんじゃ、またね。いつでも来なよ、遊んであげるから」

「ははっ、サンキュー。それじゃーまた来る」


 そう言って少年は窓から飛び降りた。

 私がそれを見守っていると、今まで沈黙を守っていたユアンが、


「あの少年と狐族の少女がよくあそこから飛び降りていますが……だからミルヴィア様も飛び降りたのでしょうか?」

「あ、そうかも」

「……真似しないでくださいね」


 三階だからねー。もうしないよ。

 軽く笑って、午後の操作魔法の授業のため勉強を始めた。

閲覧ありがとうございます。

ちなみにミスの責任を取ったセプス、今はすっかり治って仕事してます。

次回、ビサの昇進試験の話。

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