137 子どもと遊ぶ
「お姉ちゃん、遊ぼ」
起きて三百四号室に行くと、アルトが私の手を握りながらそう言った。
しゃがんで視線を合わせて、笑いかける。
最近はすっかり、メンバー(私・アルト・ユアン・レーヴィ。レーヴィは今日はまだ寝てる)が三百四号室で集まるのが当たり前になって来たなあ。こんなんじゃ、二年後魔王城に移動したときどこに集まるんだろ?
やっぱ書斎?
「いいぞ、何したいんだ?」
「……積木」
「ああ、分かった。積木の数は足りてるか?大きいのを作るから足りてないんじゃないか?」
「うん。造って、くれる?」
「土魔法になってしまうけれど、いいかな?何の形が良い?」
「……四角」
「分かった」
積木好きだなあ。しかもめちゃ上手なんだよね。四角いのだけ使ってお城みたいなの造ってた時は、すごいって感情より揺らしちゃいけないっていうのが先に来た。
だって階段とかもしっかり作ってあるし。屋根なんかちゃんと三角になってたんだよ?
空間把握能力高すぎ……試行錯誤しないで一発で造っちゃうんだから。
ラアナフォーリの才能なの?それともアルトがすごいだけ?
そうこう考えてる間に、四角いピースがいくつか出来ていた。やば、無意識。
はい、と言ってアルトに渡す。重さを比べているみたいだったけど、しばらくするとじっとこちらを見だした。
ん、何……?
「重さがいっしょ。どうやったの?」
「えーとだな……専門的な話になるから、さすがに難しいよ。また今度な」
話が長くなっちゃうからねー。操作魔法の応用も組み込んでるなんてユアンの前で言ったら、なんて言われる事やら。
使うのはいけないのでは?って冷ややかな目で言われそう。それはちょっと嫌だ。
軽く説明しておくと、成分の置き換えで形を作ってから中身を『空気』に変えるっていうのがあったの。
膨大な魔力で焼き消すって感じだけどね。それを使った。
試してみたかった事だし、いい機会だからやってみた。爆発の危険性0の珍しい物質変換だったし。危険なところは魔力枯渇だけど、私はそれが無い。
「お姉ちゃんはすごいね。皆より、ずっとたくさん頑張ってるなって、思うよ」
「ありがとう」
アルトが褒めてくれるって言うのは、素直に嬉しい。
いやあ、やっぱり努力してて嬉しがってもらえるっていうのはこっちも嬉しいものよ。
「ミルヴィア様、今日のご予定は?」
「んー、そうだな、どうしよう。操作魔法の勉強するつもりだったんだけど、今日はアルトと遊ぼうかな」
「そうですか。分かりました」
「お姉ちゃん、やろ」
「はいはい」
元々あった積木と新しく作った積木で、お城みたいなのを作ったり、形を整えたり、順番に積んで行ってどっちが高く積めるかって言うのをやった。
アルトの方が高く積めてた。私、右手で摘んでたんだけど、バランス崩して積木のタワーにダイブしちゃったから。
ぐっ、無念!
「やった」
「アルトはすごいな」
「力加減は、得意だよ。呪いも、力加減だから」
「呪いの方は、抑え込めるかじゃないか?」
呪いの強弱は、本来調節出来ないからねー。だからこそラアナフォーリは、感情が無いとも言えるのか。
私も、呪おうと思えば呪えるのかも……。いや、真読魔法を使って負の感情だけを高める事が出来るんだから、人にやらせるのも可能じゃあ。
久々にゾクッとした。何それ、人に呪わせるって。完全犯罪、じゃん。
歴代そんな魔王が居なかったとも限らない。
周りが善人だからって、魔王もそうなるだなんて決まってないんだから。
っ、あー、やめやめ。昔の事で悩んだってどうしようもない。私がしそうになったら、止めてくれる人なんてたくさん居るんだから。
明らかに、ニフテリザが許さないしね。
「……どっちかって言うと、招福の方が、難しいよ……お姉ちゃんにあげた石も、ちょっと大変だった」
「え?あの石?」
「うん……お姉ちゃんが危ないときに、お姉ちゃんを襲ってるやつを、倒す招福……『撃退魔術』」
「……それ、もう使ったかもしれない」
「え?」
エルフの柱みたい蔦、あれが迫って来たときのバリア、そうだよね?
蔦が完全に切れてたし、私もエリアスもやってないし。何より内容がピッタリ合ってる。
「そうかも、しれないね」
「だとしたら、すごく助かった。ありがとう」
「ううん。役に立ってたなら、良かった……」
うーん。
マジかー、エリアスだけじゃなくアルトにまで守られてたとは。アルトも結構優しいからなあ。
私何人に守られてんだろーなー。自衛出来るとか言っときながらあんまりやってない気ぃするし。
「お姉ちゃん、つぎ、また積むのやろう」
「分かったよ」
平和って良いなあ。
けど、もうちょっとでビサの昇進試験だし。ちょっと気になるなあ、なんて。
閲覧ありがとうございます。
アルトの積木の才能はアルト特有です。
次回、ミルヴィアピンチ。