136 お礼
目を覚ますとそこは真紅に染まった花の中だった。
神と通じる神聖な神具は一つで、私以外誰も訪れる事の出来ない秘境……。
何て言うとすごい場所みたいに聞こえるけど、ぶっちゃけここってたまにデカいミスやらかす神様と似非関西弁の神様しかいない。
他の人は業務で忙しくて出て来れないんだってさ。
私が話したいのはたまにデカいミスやらかす人だから別に構わないんだけど。
しかももう片方の神様も、
「よう来たな」
「ニフテリザ……ちょっとは仕事しなよ?私あなたの眷属ですからね?あなたがサボってると影響来ますからね?」
「ほいほい。ほんならセプスと話しとる間、うちは部屋でマン……書類でも読んどこか」
「明らかにマンガって言いかけてたけど」
って言って似非関西弁の神様は退場してった。
丘に移動して、セプスと向き合う。まじまじとセプスの様子を見た途端、びっくりして目を見開いた。
髪の毛がボサボサしていて、肌もいつものハリが無い。何より隈が出来てるし、血色も悪い。なんていうかこう、無力感溢れていた。
うーわー。
神様って精神を具現化して人化してるの。だから精神が傷付けば姿にも表れるってわけだけど……。
こりゃ酷い。お兄様が過労死しそうだった時みたく酷い。
治癒してあげたいけど、生憎神様までは治せないんだよねー。
「セプス、お礼を言いに来たの。ありがとう、コナー君を守ってくれてて」
「いや……自分のミスで、あれが死んでしまうのは悲しい。いずれ死に行く運命だとしても、早すぎる。それに神楽が悲しむだろう。あれも悲しいだろう」
「セプスは蜘蛛より感情の神様向いてると思うなあ」
最近蜘蛛にびくびくしながら生きてるから、こういう皮肉も言いたくなる。
セプスは異空間から机と椅子を取り出すと、私に勧めてきた。
あのセプスが自分で創り出さないなんて……え、そんな苦しい?私絶対帰った方が良いよね?
「いや、帰るな。お前のその、赤魔石から溢れている魔力が私の傷を癒すんだ。ほら」
そう言って、セプスは自分の腕を見せてきた。確かに、血色がよくなってる気がするようなしないような。
まあいいか。ちょっとだけ話して、帰ろう。癒してるんだとしても、話すのには労力使うし。
本当ならすぐ帰った方が良いんだけど、うん、ちょっと話したい。
「今日、エリアスが摩訶不思議な現象ってセプスがサポートしてたからこそ、でしょ?」
「まあ、な。けどお前が来てくれなかったら私の力が尽きていた」
「でもセプスが居なかったらコナー君は助からなかった。……ありがとう」
私が頭を下げると、セプスがははは、と笑う。やっぱりどこか、力が無いように感じられた。
本当に、疲れてるんだなあ……さっさと用件済ませて帰らなくっちゃ。
「はは、なんだ、らしくないな。前ならそれくらい当たり前でしょうと突き返してただろうに」
「今回は、今回の事は、本当に感謝してる。コナー君、疲れ切ってるけど生きてるんだから。ありがとう」
「本当に、大事なんだな」
「うん」
目を細めて笑うセプスに、目いっぱい笑い返した。セプスは目を閉じて、何かを想うようにする。
う、これは……いや、まだそうと決め付けるわけには……そう、もうちょっと様子見てから……。
「お前はきっと、男衆から告白されたら一番コナーの返事に迷うだろう。傷付けないよう考えるだろう。だから忠告しておこう」
き、来たー!シリアスっぽい雰囲気!セプス綺麗だからこういう雰囲気になりやすいんだよ!
しかも今は儚い感じで、めっちゃそれっぽいし!
けど雰囲気をぶち壊す勇気は私にはないので、うん、と頷いておく。
「歪曲した言葉じゃなしに、本当の気持ちを伝えろ。そうすれば、双方納得のいく結果になるだろう」
「分かった。そうするね」
シリアス苦手なんだって……。
そう思いつつ、セプスから言われた言葉を心の中で反芻する。
告白してきたら……ねえ。誰も告白なんてしてこないと思うけど。ラブコメじゃないんだから。
お、もうかなり時間が経っちゃってるね。セプスの調子も悪そうだし、ひと段落付いたし、そろそろ帰ろっかな。
「じゃあ、セプス、またね」
「ああ、もう帰るのか?……って、だよな。あっちじゃもうそろそろ夜明けだ。いつも早起きのお前が遅くまで寝てたら、不自然だろう」
「帰ってからちょっと寝るつもりだけどね」
今回来るのは短かったなあ。
神様のところに来るんだからもっと慎重に話せよって言われそうだけど、いいの。セプスは堅苦しいのを望んでないんだから。
人間、自然体が一番なのさ。人間なんて一人も居ないけど。
そう言って、私は帰るために花の部屋に向かった。
ああ、疲れた。いつも早起きの私だからこそ、こういう時寝坊しても許されるんだよねえ……。
閲覧ありがとうございます。
神様のところに行きました。手軽で気軽すぎる……。
次回、アルトと遊びます。