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エリアス編 気掛かり

 魔王が病院に来たときから嫌な予感はしていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。

 長時間空に居るだけで酔ったというのに、手加減はせずに全速力だったからな。あれで不届き者を捕まえられたなら良かったと取ろう。


 帰り、魔王はかなりゆっくり飛んでくれた。助かったと言えば助かったが、その分霊魂を呼び出す魔力を消費する事になった。

 明日は休みを取らないといけないな。

 というか、人は魔王とは違い無尽蔵に魔力があるわけじゃないんだからちょっとは気を使ってほしい。


 そして翌日、家で休んでいた俺は、昨日の事が気になって本を開いた。

 病院で診た庭師は、内臓が傷付いていたり破裂していたりがなかった。本当にかなり危険な状態だったと言うのに、生きていた。

 

 私は『隔離者』を見た事がない。だからあれが『隔離者』故なのか、それともあの庭師故なのかは定かではない。当然、本を開いて見てもエルフの『隔離者』の症例はない。

 ああ、気になる。魔王のところへ行くか。


 俺はコートを取ると、羽織って外に出た。雨が降っていたが、断水仕様なので問題ない。

 魔王の屋敷は、いつもに増して静かだった。多分雨のせいで屋敷中のカーテンが閉められているからだとは思うが、やはりこんな大きな屋敷が静まり返っていると不気味だ。


 俺は無断で裏口から錠を開けて入ると、まずはカーティスのところへ行った。

 タフィツトの執務室の扉をノックする。


「はい」

「俺だ。入ってもいいか?」

「……忙しいんだけどね」

 

 だめとは言ってないからいいだろう。

 中に入ると、かなりすっきりした部屋でカーティスが書類に向かっていた。顔色も良いし、どうやら規則正しい生活を送っているらしい。


「何の用かな」

「庭師の事だ」

 

 そう言うと、カーティスは厳しく俺を見た。殺気さえも漏れている。

 ああ、日が悪かったか。


「その事なんだけど、僕、君を許してないからね。ミルヴィアを止めるべきだった。ミルヴィアも叱ったけど、僕が一番怒ってるのは君に対してだよ」


 相変わらず妹第一に考えてるな。

 だからこそ今、ちゃんとした生活が後れてるのだから文句が言えない。

 ったく魔王は、束ねておけよ?こいつらが暴走したら国だって抑えられるか分からないぞ。結果的に抑えられたとしても、何人の兵士が死にゆくか分かった物じゃない。


「あの場でミルヴィアを止めて、僕に引き渡して、それから総動員で捜せばよかったんだ」

「それを言うなら、最初に止められなかったお前もだろう?」

「そうだね、僕は反省してる。だから君も反省してほしいって言ってるんだ」

「分かった、反省はする。だから話を聞いてくれ」

「……嫌だね。僕はユアンとエリアスの話だけは聞きたくない」


 あー、こいつが一番若いんだから。

 我がままも程々にしてほしい。近頃の若い者はとか言うつもりはないが、こいつは俺とユアンだけには敵意と殺意を向けてくる。

 ユアンは良いとして、俺が殺意を向けられる理由はイマイチ分からないんだが。


「あの庭師、どうにも異常だ。一度ミルヴィアから話を聞きたい」

「なるほど?僕に無断でミルヴィアと会うと僕が怒るから、まずここに来たわけだ。悪いけどミルヴィアならコナーに付きっきりだよ。会わない方が良いんじゃない?」

「診察に来たと言うから」

「……じゃあ勝手にすればいいさ」


 まったく、ミルヴィアやユアンの前では大人ぶっているくせに。


「どこに居るのかも知りたい」

「コナーの自室。西側」

「……西側のどこだ」

「一階の端。名札が掛かってる」


 俺が聞き直した後、一瞬こちらを見たのを見逃さない。

 あんな鋭い方向感覚持ってるのは魔王だけだからな?俺や他の人にはちゃんと説明しろよ?

 とりあえず、西側の使用人室に向かう。

 西側、一階の端。




 ここか。

 三十分近くさ迷ってようやく着いた。これを、魔王だったら十分で着くんだろうか。

 訳が分からないな。

 ノックしてから中に入る。魔王が、寝ている庭師の手を握って座っていた。

 傍から見れば、ただの子供なんだけどな……。


「エリアス、話があるなら他の部屋でしよう」

「……ああ」


 驚かないってどういう事だ。

 とりあえず部屋を出る。そう言えばユアンも居ないな。珍しい。それにあの男子……アルトとか言ったか?あいつも居ないな、どうしたんだ。

 部屋を出て隣の部屋に移った。カーティスは端と言っていたが、両端の部屋は空室らしい。理由は良く分からないが、とにかくその空室に入って話をする。

 魔王はベッドに座り、俺は立っていた。


 ……だから、男の前でベッドに座るとまたユアンに怒鳴られるぞ。

 俺に年下趣味はないが。


「あのね、私コナー君に手握っててって言われたんだ。なるべく早く済ませてほしいな」

「じゃあ単刀直入に聞くが、あの庭師、招福でも受けているのか?」

「……え?なんで?」


 魔王が目を丸くする。この反応からして、受けていないらしい。

 あのラアナフォーリなら可能かもしれないと思ったんだが、違うか。確かに招福を受けていたとしても、あそこまでの事は出来ないかもしれない。


「ねえ、なんで?ちょっと、聞いてる?」

「内臓に傷が一切なく、急所に怪我があっても生きていて、あれだけの拷問をされたのに気絶で済んで後遺症もない。だから招福か、はたまた祝福かと思ったんだが」

「えーっと、アルトの事を言ってるんだったら違うよ。あの子とコナー君会った事さえないから」

「そうか」

「……それって相当珍しい?怪奇現象?摩訶不思議?」

「まあな」

「……あー、なるほどそういう事か」


 魔王が満足げに笑った。黒い目を細めて、窓から見える空を見上げている。

 何なんだ、こいつ。こいつもかなり不気味だぞ。


「ちゃーんとサポートはしてたのか」

「何言ってるんだ?心当たりがあるなら、医者として聞いておきたい」

「んー?なんもないよ?うん、何にも。言ったってエリアス信じないよ」

「もし理由があるんだったら――」

「無いね。コナー君の日ごろの行いが良いんだよ、きっと」


 魔王は一人でクスクス笑うと、ベッドに寝転がった。

 下手すると寝そうだ。こいつも、カーティスの面倒を見た後のこの事件だから相当疲れているだろうし。

 魔王、死因が過労死だなんて笑えない。


「魔王、起きろ。寝るなら部屋のベッドで寝てくれ」

「ん……そだね……」

「おい?ユアンに見つかったら怒られるぞ」

「っと」


 いきなり飛び起きて、立ち上がって伸びをする魔王。

 これは昨日相当怒られたな。お仕置きの一つや二つされていてもおかしくない。

 なんとなく、魔王の頭に手を置いた。

 魔王が驚いたようにこちらを見上げる。両手をぐっと握っていた。耐えてるらしい。


「何、ご褒美?」

「まあな。カーティスの事は礼を言わなきゃならないし、あの二人組。今まで種族の風習に口出しは出来なかったが、さすがに城下町で事を起こされたらたまらないからな」

「いや別にお兄様の事は私が問題視しただけだし、コナー君が友達だからやっただけだし……」

「じゃあ庭師が他の『隔離者』だったら助けなかったのか?」

「まさか。助けたよ。命を懸けてでも……けど……コナー君じゃなきゃ、間に合わなかった」


 エルフに『隔離者』なんて、滅多にないんだけどな。

 というか、その言い方だとまるで庭師が特別みたいに聞こえるんだが?魔王の友達だし、何もないと言うことはないと思うが。


「っていうか、エリアス、手、退けてくれないかな」

「どうしてだ?」

「いや、ほんと、限界って言うか、その」


 魔王が手を震わせながら俯く。自然と俺の口元に笑みが浮かぶ。

 なるほど。


「弱点だな。憶えておこう」

「違うから!ただ恥ずかしいだけだから!からかわないでくれる!?」

「悪い悪い」


 笑いながら手を離した。魔王が手櫛で髪を整える。

 それから俺の顔を見て、かなり深い溜息を吐いた。呆れてるのか、諦めてるのか。


「……エリアス、あのね、こういう時だけ笑うのはもったいないと思うの。笑った方がかっこいいし」

「かっこよさは求めていないからな」

「ふうん。じゃあ私、コナー君の面倒見てるから。あ、診てってくれる?」

「ああ、診てってやる」

「ありがとね」


 俺は隣室に移って、診察を始めた。

 安定していて、恐らくこの後に支障はないだろう。

閲覧ありがとうございます。

アルトは寝てます。ユアンはミルヴィアがかなり強めに追い出しました。

次回、ミルヴィアが神様のところへ行きます。……こんな気軽に行けていいんでしょうか。

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