132 誕生日<後編>
宮廷に着くと、アイルズが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、魔王様。お待ちしておりました」
「……そのお帰りなさいませというの、止めないか?私の家は、一応あの公爵家だから」
「いえ、いつか本当に私の場所へ帰って来て下さる事を夢見ておりますので」
はあ。
私は首を傾げた。帰って来るって言うか、どっちかって言うと引っ越してくるんだけどなあ。
う、そう考えると寂しい……いやいや!まだ二年後だし!長っ!
「ミルヴィア様がここへ来る時は、当然私もご一緒致します」
「側近は一人で十分だと思いますがね」
アイルズがニコニコで言う。でも、アイルズは補助でユアンは護衛って言う、つり合いは取れてると思うんだけどなあ。
仕事に関しては、意外と相性いいよ?絶対怒られるから言わないけど。
「それに、レーヴィ様、カーティス様、コナー様……あの方々もここへ来るでしょうから」
「ああ、おまけは要らないのですがねえ」
「……話を広げ過ぎた。悪いな。授業に行こう」
その後ユアンは隣室へ、私は教室に入って行った。
今日はテストだったな。お金の物質とかそこらへんだったけど……やっば、お兄様からもらった本に夢中で全然復習してない。
えーっと、銅を鉄・金等に変えるためにはものすごい量の魔力領と微妙な調整が必要で、それが出来るのはほとんどドワーフや鍛えられた人だけ、とか、ここらへんは分かるんだけど。
お金の物質は特殊で、特別な魔法がかけられているから複製は不可能……知ってるのは、え、どの種族だっけ!?
結果。
死んだ……何あのテスト……難しいどころじゃないじゃん?
何さ銅貨・銀貨・金貨を作っているのはドワーフだが、その特殊な工程を知っているのはその中でも極一部である。さて、それは何?
って、普通に考えて長でしょ?違うんだって。族長の側近だって!
分かるか!
勉強してたら絶対分かる箇所なのに、もったいない!
テストでケアレミスした気分だわ!大間違いだけど!
「お疲れ様でした。よく復習しておくように」
「ああ。二度とこんなミスはしない」
「……今日が誕生日と聞きました。どうぞ、些細な物ですが贈ります」
「!」
アイルズが渡してきたのは分厚い、本。
おお、また本か。まあ好きだからいいんだけど……さて、どういう本、か、な!?
「ちょ、おまえ、これ」
「すべての物質へ変えるための一覧表です。抜けているところがあるかと思いますが、そこは他の情報で補えるかと。索引も付けましたので探すのは楽だと思いますよ」
「ま、待て、お前が書いたのか?」
「ええ。随分前に書いたものを書き写しました。写しの魔導具を使ってもよかったのですが、私が使えるのは城にある物だけです。国税を無駄遣いするわけにはいきませんので」
「あ、ああ」
ええ……。すごいとしか言えない。嬉しいの前にすごいが来る。いや、だって使用費払えばいいじゃない。それさえももったいないと思ってるんだとしたら、国の事を考えてるのかただのケチか分からない。
けど、これ、見た限りじゃあ千ページは越えてるし、索引もいろんな方向から調べられるようになってるし。魔導具を使うとしたら滅茶苦茶高くなるのか。
お兄様からもらった本も合わせて、しばらく暇しないよ。
ていうか、これ作るのに何カ月かかるの?アイルズも暇じゃないだろうに。
「魔王様が勤勉なのは、執事兼教師としてとても助かるところです。将来の魔王様に相応しい行動だとも思っております。そのためのサポートは最大限させて頂きますので、どうぞ頼ってください」
「……ありがとう。勉強の方面に関しては、一番頼りにしている」
他の人は教師って感じじゃないからねー。
それにしても、ものすごい大きさなのに軽いのは軽量化の魔法をかけてあるからかな?……あ、裏の模様って魔法陣(的な回路)だ。これ持続するようになってる。すごい高度な魔法なのに……なんだろう私が持ってるのもったいない。それこそ王様に上げるべきだよ。私こんなの持てる器じゃないよー。
「ミルヴィア様、お疲れ様です」
外に行くと、ユアンが本を見て目を細めた。何も言及しないでくれたけど。誕生日くらいいいかって思ってくれたんでしょ。
有難い有難い。これに難癖付けられちゃ気分台無しだしね。
「ではまた、お待ちしております」
宮廷を出てしばらく歩くと、閑散とした小路に入った。んー、近道はいいね。
本も軽量化の魔法のお陰で全然重くないし。ユアンが持ってくれるって言ったんだけど遠慮した。なんとなく、ユアンに本って似合わないし。
この小路、最近見つけた近道なんだよね。結構短縮ルートなんだ。色々曲がるところをまっすぐ行くだけでいいから。
ちょっと湿ってて、雰囲気が悪い事を除けば最高。
「師匠!」
「うわ!?」
後ろから声を掛けられて、慌てて横に跳ぶ。ビサが私のいた場所を通り抜けて振り返った。
あぶなっ!ビサの突進怖っ!
「な、何?そんな急がなくったって声掛けてくれれば止まるのに」
「師匠、誕生日、おめでとうございます。いえ、私は戻らなくてはいけないので急いでたのですが」
「あ、そう。ありがと」
「これをどうぞ」
ビサから差し出されたのは、ケースに入った砥石?だった。
えーっと、誕生日にこれはどうなんだろうという疑問は置いておいて。
何故に?
「剣の手入れに使って下さい。魔法で手入れは済むかもしれませんが、鋭さを保つために砥ぐというのは基本です」
「ああ、なるほどね。ありがとう。使わせてもらうよ」
「魔王、誕生日なの?」
「ぅわっっ!」
後ろを振り向くと、狐ちゃんが白いノースリーブで立っていた。尻尾を振りながらこちらを観ている。
なんなの?今日は私を驚かせる日なの?誕生日じゃないの?
まあ、小路なんだから狐ちゃんがいてもおかしくないか……舞踏会にも出没した子だし。
「ビサ、時間大丈夫?」
「あ、もう行かないと。すみません師匠、きちんとお祝いを出来ず……」
「ううん、嬉しかったよ。ありがとね」
「いえいえ」
そう言ってビサは帰って、は、いないか。仕事に戻って行った。
兵長は大変だなあ。もうちょっとで昇進試験があるから、それの事でも忙しいのか。書類とかもあるだろうし。
「ふうん、なるほどな」
「なんで少年まで居んの……」
え、アレなの?全員集合する日なの?(そうです)
だとしたら神様出てないんだけど?(尺の都合です)
少年はポケットをゴソゴソした後、しばらく制止した後堂々と言った。
「要らないだろ、プレゼント」
「持ってなかったのね。いいよ、別に。くれようとしたのは嬉しい」
「はい、魔王、これ私とお兄ちゃんからのプレゼント、なの」
「ん?……あ」
狐ちゃんがくれたのは、ヘアピン。真っ黒だけど艶々していて、かなり高級そうに見える。
うわ、これどこで手に入れたの?すごい綺麗じゃん。
「川に行ったとき、綺麗だったから取って来たの。ちょっと汚れてたけど、磨いたらすごく綺麗になったから、あげるの」
「狐ちゃんのは?」
「あるの。ほら」
狐ちゃんは頭にあるヘアピンを指差した。あ、ほんとだ。水色だけど綺麗だわ。
「だから、おそろいなの」
「おー。ありがとさん。もらっとくね」
優しいねえ。
皆、くれるものが皆らしくって嬉しい。
「まあ、おめでとう……だ」
少年は顔を真っ赤にしながら呟いた。自然と口角が上がり、少年の顔をじっと見る。
おめでとう、だって。顔真っ赤だし。
「ありがとねー」
「馬鹿にすんなよ!?」
「してないしてない、嬉しいって」
「ぜってえもう言わねえ!来年は言ってやんねえ!」
「えー、それは寂しいって」
「正式に魔王になったときだって言ってやんねえからな!」
えー?
この後、しばらく少年と狐ちゃんと話してから家に帰った。
家に帰ってからしばらく、プレゼントを見ながらにやにやしたのは言うまでもない。
閲覧ありがとうございます。
これで二章を終わりにしようかな、と思います。三章からもよろしくお願いします。
誕生日のプレゼントは、贈ってくれる方の性格が出ると個人的に思っています。
次回、コナー君の視点です。