131 誕生日<前編>
それからは何も変わらない日を過ごした。
まあ、男の子、アルトが居るってだけでかなり変わったけど、訓練・授業の時はレーヴィとお留守させてるし。レーヴィの事は『夢魔のお姉ちゃん』って呼んで親しくしてるし。
最初『夢魔のおばちゃん』って呼ぼうとしたところをレーヴィがにっこり笑って制したのを、私は知ってるけど。
気付けば次の月になっていて、来月のビサの訓練に向けて一層張り切った翌日。今日は操作魔法の授業の日なのね。
朝起きたら、レーヴィからにっこり笑ってこう言われた。
「誕生日おめでとう、ミルヴィア」
「……はい?」
私は首を傾げる。
……あー、確かに今日が誕生日って教わったような。いや、来月って言われただけで今日って言うのはまったく知らなかったんだけどね。
本人が誕生日って知らないって、どゆこと。
「儂からの誕生日プレゼントは、残念ながら用意できんかった。悪いのう」
「え、いや、ううん。お気持ちだけで十分でございます」
「かかっ、そうかの?」
レーヴィはそう言って、髪の毛の手入れを始めた。おおぅ、軽い。
ま、まあ、この国にはあんまり誕生日を祝う風習はないしね!なんてったって長生きだからね、五百回も誕生日パーティーとか絶対飽きるし!
さすがに成人の時と、四百歳の時は祝うらしいけど。なんで四百歳か?知らん。大体の種族は四百歳くらいまでは必ず生きられる(標準)みたいだから、それかな?
日本で言う米寿・喜寿みたいなものだと思う……多分。
「儂は最近夜しか寝ておらんから、昼寝してもいいかのう?護衛が必要なようじゃったら付いてくが」
「ううん、大丈夫。ユアンだけでも結構心強いから」
「かかっ、違いない」
次いで三百四号室に行くと、アルトとユアンが待っていた。ん、アルトって華奢だし、ユアンが後ろに居ると王子様みたいだな。
うん、似合ってる。今度ドレスっぽい服着させよう。
「お姉ちゃん、おはよう……お誕生日おめでとう」
「え、ああ、ありがとう」
「これ、ぼくからプレゼント」
渡されたのは小さな石っころ。艶々してて綺麗。
おー。これ、庭に在ったのかなあ。綺麗な石。
「ありがとう」
「おめでとうございます、ミルヴィア様。私からはこれを」
「……髪ゴム?」
真っ赤な髪ゴムで、月のチャームが付いてた。小さく星の柄もある。
可愛いっ!ユアンにしてはセンスあるっ!
早速、それで髪を結んでみる。月のチャームがちゃんと外側から見えるように、ちょっとだけ苦戦した。……こういう飾り付きの髪ゴムってなかなかつけないんだもん。
おし、結べた。
「どう?」
「お似合いです」
「お姉ちゃん、可愛い」
「ありがとう」
ふふ、嬉しい。
石は、後で小さい袋に入れて持ち歩こう。綺麗だし、探してくれたんだろうし。
あー、小さい子のこういうプレゼントが一番可愛らしい。嬉しいなあ。やっぱり誕生日っていいなあ。
三百四号室で、アルトに字を教えつつ本を読んでいると、コンコン、とノックの音がした。
あれ?エレナさん、今日来るっけ。
最近三百四号室に入り浸ってるので、メイドさんのシフトを熟知している私です。確か、エレナさんが来るのは明日の夕方、夕飯前だったはずだよ?
「はい」
「ミルヴィア」
お兄様!
お兄様と分かった途端、アルトは反射的に本を置いた。本が浮いてたらさすがに変だからね。それと同時に、反射的に立ち上がる。
それから入って来たお兄様に詰め寄ると、お兄様の手を取った。魔力停滞は、ないね。
「ちゃんと寝てますか?ご飯食べてますか?十二時と三時に休憩取ってますか?」
「うんうん、大丈夫だよ。それよりミルヴィア、誕生日おめでとう」
くっ、軽くあしらわれた。
まあ、いいや。仕事抜け出してきてるみたいだけど、それくらいが一番でしょ。祝ってくれるのは嬉しいしね。
「僕からは、これ」
「何ですか……わああああ!」
めっちゃ大声で叫んだ。歓喜の叫びをあげた。つーか驚いて叫んだ。
お兄様が差し出したのは物凄く分厚い本で、題名を見た途端叫んだ。
「こ、これ、魔導具の回路が全部載ってるやつっ……!?」
「どうかな、さすがにこれは屋敷になかったし、喜んでもらえるかなと思って」
「う、嬉しいです。けどこれ、す、すごく少なくて手に入れるの大変って、書いて、あ、あったんですけど」
本を持つ手が緊張して震えてその上どもった。
いや、これ本当にすごい本なんだって。回路は精密だから、手描きの本じゃなきゃいけないらしくてね、すごく数が少ない。
う、うああああああ……。
「うん、でも、ミルヴィアが喜んでくれるなら」
「お兄様……!」
さすがですっ!さすが筋金入りのシスコンですっ!
よっ、魔族領一!
「なんだろう、少し馬鹿にされている気がするよ」
「え、気のせいじゃないですか?」
こんな素敵なお兄様を馬鹿にする人なんて居ませんよ!
お兄様はちょっと雑談すると、慌ててタフィツトに戻って行った。本当に抜け出してきたらしい。夜は私が操作魔法の勉強に集中しちゃうから、昼のうちに持って来たんだって。
さすがと言う他ないね……。
「……お姉ちゃん、ぼくのプレゼント嬉しかった?」
「ん?すごく嬉しいぞ!ありがとな、アルト!」
「……」
アルトはぼうっとこちらを見た後、置いてあった絵本を読むのを再開した。
んー、本当に嬉しいんだけどなあ。綺麗な石って触ってると癒されない?
あ、分からないですか。
そうですか。
お兄様からもらった本に集中していると、あっという間に操作魔法の時間になった。
えーと、レーヴィは確か今日は昼寝するとか言ってたから部屋に居るよね。
部屋に行くと、レーヴィがおへそを出したはしたない格好で転がっていた。フェロモンの匂いがむんむんする。
アルトは別に影響を受けてないけど、これはちょっと困るなー。
レーヴィさん、起きてねー。子供の教育上良くないよー。私も殴りたくないなー。
「起きたッ!」
「あ、レーヴィ、起きた?これから授業なんだ。アルト、預かってくれる?」
「お、おう」
「アルト、絵本は置いておくからいくらでも読んでていいぞ。分からない字があったらレーヴィに聞くんだぞ」
「……お姉ちゃん、はやく帰って来てね」
「ああ」
私はにっこり笑って衣装室に向かった。今日の格好?
青い服にピンクのリボンタイが付いて、黒いマントを羽織った格好。結構あったかいんだよ、コレ。
ふう、にしても子供は癒されるなあ。邪気のない笑顔ってステキ!
階段を下りて、庭に出る。んー、今日もいい庭!ちゃんと手入れされてるのが分かるねえ。
「ミルヴィアっ!」
「あ、コナーく……」
奥から駆けてくるコナー君は、何か持ってて、しかもこれまでの流れから大体分かる事から察した。
コナー君はにっこり笑って、私に小さなブーケを差し出した。カラフルで綺麗だけど、なんとなく上品な香りだった。
わあ……。
「ミルヴィア、これね、お屋敷のお花で作ったんだ」
「すごい、綺麗だね」
「えへへ、頑張ったよ。花も喜んでくれてると思うな」
「そうなの?」
「うん、なんとなくなら分かるから」
やっぱりコナー君はすごい。
私が一番尊敬してるのってコナー君かもしれない。だって頑張り屋だし、無邪気だし、可愛いし何より可愛いしそれに可愛いし。
コナー君は私にブーケを渡すと、満足気に微笑んだ。
「じゃあ、頑張ってね、ミルヴィア」
「うん。ありがとう!」
あー、嬉しい。嬉しいなあ。
コナー君と別れた後、私は宮廷に向かって歩き始めた。
誕生日って、イイネ!
閲覧ありがとうございます。
一話でまとめきれませんでした……!次回には必ずまとめます。
皆からのプレゼントですか、コナー君からはきれなお花ですし、ユアンのヘアゴムは吸血鬼を象ったものです。お兄様がくれた本もすごく貴重な普通の本です。が、アルトからのプレゼントはちょっとだけおまじないが掛かっています。
次回、誕生日・後編になります!