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130 看病


 コンコン

 

「はい」


 お兄様の部屋をノックすると、返事があった。

 よし、起きてはいるみたいだね。男の子が見えるかどうか若干不安ではあるけど……まあ、ばれたところで今さらだし。

 失礼します、と声を掛けてから中に入った。


 お兄様はベッドの上に座っていて、寝間着だった。私に向かって微笑んでくれる。

 うーん、見たところ体調は大して悪そうじゃないね。何とかなってる感じ。それに男の子も見えてないみたい。私の真横に居るんだけど。


 はあ、何はともあれ、無事でよかった。いや、倒れてる時点で無事じゃあないんだけど。


「お兄様、腕輪を返してください。お兄様に贈る物ではありませんでした。そのせいで無茶をしたんですから、返してくれますね?」

「惜しいけれど、返そう」


 ベッドの隣に椅子を置いて座る。お兄様から返してもらった腕輪は、私の腕に付けた。ん、カッコイイ。

 あとで修理しないとなー。出来るかな?えーと、魔力をこうしてああして……いやいや、待てよ、そうなると劣化が進む恐れがあるからそれを食い止めるためにあれをしてこうやって……


「ミルヴィア、夢中になるのはいいけど、どうしてここに来たのか用件を言ってくれるかな?」

「あ、はい。エリアスのところでお薬貰ってきましたから、飲みましょう。お水はありますよね」

「ここにあるよ」


 お水を差し出してくれたので、その中に一滴、ポタリと垂らす。その途端、水は見る見るうちに真っ青な液体に早変わり。

 う、うわ、気持ち悪い、絶対飲みたくない。

 そう思いつつ、笑顔でお兄様に渡す。お兄様はそれを見てピクリと反応した。


「エリアス……よりによってこれを……ミルヴィアが知らないからって……」

「え、どうしたんですか?」

「ぼく知ってる。森の葉っぱを溶かしたおくすりだよ。苦いって、本に書いてたよ」

「本?」

「お姉ちゃんが貸してくれた絵本」


 絵本にそんなことまで書いてあるとは。

 お兄様は私が何しているのか見て無くて、じーっとグラスを見ていた。ははは、悩んでる。多分私がせっかくもらってきた薬だから飲みたいけど飲みたくないけどやっぱり妹が採ってきた薬だからって悩んでるんだと思う。

 

 意地でも飲んでもらうけどね。甘やかし?要らない要らない!

 無茶した罰です、お兄様!


 結局、お兄様はぐっとグラスを呷って飲んだ。おお、男前~!

 て、ちょっと残ってるじゃないですか。

 少し睨むと、渋々最後の数滴を飲んでくれた。あの数滴も、エキスが入ってるんだから残してもらっちゃあ困るよ。

 私はよし、と頷くと、お兄様の額に手を当てて疲労回復の魔法、次いで苦痛軽減を掛けた。

 

 こんなものかな。これで安静にしてれば、二、三日で良くなると思うな。

 私はお兄様に微笑みかけると、お辞儀した。


「私はこれで失礼しますね。ゆっくり休んでください。部屋から出ちゃだめですよ。怒りますから」

「分かったよ。怒られたくないから、ここに居よう」

「はい。何か持って来てほしいものはありますか?」

「んー、いや、大丈夫だよ。この部屋も、案外悪くないからね」

「……そうですか。何かあったら呼んでください。では」

「ああ」


 そう言って、部屋を出た。

 疲れたあ。えーと、三百四号室に行って、男の子の名前決めて、したら休もう。

 さすがに疲れ切っちゃった。徹夜で真読魔法使ってたし、当たり前っちゃ当たり前だけど、こんな疲労感久しぶりだわ。

 いつ以来だろ。初めての修学旅行以来?


 ああ、あの時は疲れたなあ。体力なかったし友達あんまりいなかったし。

 ただ、他のクラスの友達と行動できたのだけが嬉しかった記憶がある。


「お姉ちゃん、あのお兄ちゃん、ぐちゃぐちゃだったよ」

「は?」


 その言い方怖い。ぐろい。

 私は首を傾げて、こちらを見つめる男の子を見つめ返した。


「紫色と、茶色と、青色が混ざってた」

「それは……どういう意味だ?」

「夢魔と、狼男と、人間」


 なるほど。確かにそれを考えれば、お兄様はぐちゃぐちゃって言ってもいいけど……良くない。まったくよくない。

 お兄様はぐちゃぐちゃじゃないっ!キレイだっ!


「そういう言い方は止めるように」

「はい。……ぼく、あるとって呼んでほしいな」


 私は思わず足を止めた。唐突!

 脈絡がなさすぎる。もうちょっと話繋げようぜ?


「アルト?」

「うん」

「何か意味があるのか?」

「……うん。あるとって、物語の中の木こりだよ」

「さっき私が貸した童話か?確かに、そんな名前の木こりが居たような」

「木から生まれて木を削り続ける、木こりだよ。呪いから生まれて、呪いを消したりするぼくにぴったりだと思わない?」


 お、おう。

 珍しく饒舌に語られたので、ちょっと引く。その間も男の子の眼はぼんやりとどこかを見てただけだったので、余計に。

 アルト。良い名前だけど、意味深っ!

 

 なんだ、私の周りには見た目と行動が一致しない子供が多すぎやしないかい?


「今から三百四号室に行くが、何か読みたい本はあるか?」

「……うん。あそこにある絵本、全部」

「お、おう、読んでいいぞ」


 絶対一日じゃ読めないだろうけど。

 私達は三百四号室でユアンと合流して、読書を始めた。


 え、その後?

 一日で全部読んでましたが何か?

閲覧ありがとうございます。

アルトが読んでた絵本は、有名な著者ですがその本だけは何故かヒットしなかったとか。

子供向けにしては重かったみたいです。

次回、数日後のミルヴィア誕生日。

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