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12 水合戦

 魔力の直接操作とか、やったらすごい事になるとか。あの程度で済んでよかった…らしい。めちゃ苦しかったのはそのせいか。

 一頻り怒られた後、私一人では危なっかしいという事で二人も一緒に遊んでくれる。ただ、二人の水着はさすがにないのでその服のままという事になった。ユアンは濡れてるけど、長めの髪からポタポタと水が滴って、えーと、何て言うんだろう。水も滴るいい男、か。うん、一番似合ってるー(棒)


「何がしたいのですか?」

「遊びたい」


 即答すると、ユアンが目をパチクリさせる。遊ぶって言ったじゃん、さっき。お母様に。宣言したんだから、やらないとね…ふっふっふ…思う存分遊べる…。


「遊びたいんですか?」

「うん」

「遊びたいの。じゃ、僕も遊ぼうかな」


 バッシャン!


「お兄様!」


 お兄様は浴槽の水を浮遊させると、自分に被せた。金髪からツウッと水が滴る。うん、いい男♪やっぱり腹黒じゃないといい男だね。私やっぱりお兄様好き~。どっかの青髪とは違うね!


「なんでしょう、とても悪口を言われている感じがします」

「キノセイジャナイカナー」


 ばれてる。やっぱ怖い。


 私は水の中にダイブすると、平泳ぎで泳ぎ始める。ふー、熱い。ええっと、確か氷水の詠唱呪文って簡潔でいいんだよね?


「氷の水よ、熱の水を冷まし給え。氷水」


 手のひらから水が出て、そこらへん一帯が冷たくなる。三十七度くらいになったところで、止める。あー涼しい。気持ちいい。

 平泳ぎしたまま寝そうになる。

 

「ミルヴィア様?泳いでいるのですか?」


 フワフワと浮きながら泳いでいると、ユアンが訝しげに聞いてきた。そちらを見ながら泳いでいると、お兄様も目を見開いていた。


「?そうだけど」

「どうやって泳いでるんですか?」

「…どうって、平泳ぎだよ?」

「ひらおよぎ?」

「あれ」


 まさか、この世界に平泳ぎって無い?私、わけ分かんない泳ぎ方で泳いでる?え、私って今変な子?


「えー、あー、うー、んー?」


 上手い言い訳が思いつかないまま考える。思いついた?いや、無茶がある。本で読んだ?いや、お兄様もあそこの本はほとんど読んじゃっただろうし。…えー、うーん?

 あっ!


「え、エレナさん!エレナさんに教えてもらったの!」

「エレナが?…エレナ!」

「はい、何でしょう」


 びぎゃあ!

 なんでエレナさんが居るの!?

 

 軽くパニクる私をよそに、エレナさんが丈長スカートに水が付かないようにしながら歩いてきた。小走りなのに滑ってない。何か魔法使ってるのかなって考えちゃう辺り、もう私も魔法使いだね。


「何でしょうか」

「ミルヴィアに泳ぎを教えたの?あの変な泳ぎ」


 お兄様とユアンは向こうを向いててエレナさんだけがこっちを向いてたので、すいすいと泳ぐ。お願い、みたいな顔をしながら。エレナさんは目を瞬くと、なんとなんと、頷いた。


「そうです。私がずっと前に見つけて教えました。昨日のお風呂の時です」

「へー、これの名前、知ってる?」

「平泳ぎ!」

「平泳ぎですよね」


 口パクで言うと、エレナさんが復唱した。ふーん、とお兄様が私を見る。私は一瞬前に泳ぎをやめていた。あっぶねー、ギリギリだった。


「じゃ、いいか。エレナ、ありがとう」

「いえ。では失礼…ああ、その前に」


 エレナさんは私のところまで歩いてくると、スカートが濡れるのも気にせずしゃがんで耳打ちする。


「これは借りにさせてもらいます」

「はゎっ!?」


 思わず変な声が出た。エレナさんは一礼して、お風呂場を出て行く。

 

 ……エレナさんって、ドS属性?


 ユアンはそちらを見たまま、私に背中を向けている。私はにやりと笑い、お兄様に人差し指を口に当てて静かにするよう合図した。乱石の要領で、大き目に水を掬う。私の手のひらから一センチくらい離れたところに、直径十センチくらいの水の球が出来る。


「ユアン」

「何でしょう――わぷっ!」


 私は、ユアンが振り向いた拍子に水を顔にぶっ掛けた。

 

「くっ、わぷっ、だって!あはははっ、引っ掛かったぁ!」

「ミルヴィア様、やりましたね?」


 二十センチくらいの水の球が飛んでくる。それをまともに顔に食らった。今度はお兄様にやり返す。


「わっ!ちょ、ミルヴィア、うわあっ!えい!」


 お兄様は私にやり返してきた。慌てて回避。


「うわっ!?ちょっと、危ない!」


 三十センチの水の球を作り出す。それを二分割して二人に当てた。やり返してきたので、潜って避ける。次は水の中で泳いで、詠唱。


「我の姿認知する者なし、我は水に溶け、炎に燃え、草木と化す。透過」


 透過すると、そこにある物質とほぼ一体化する。詠唱の通り、水では溶けて、炎では燃えて、草木の前では草木と化す。だから、私は今、水になっている。うん、これってすごく便利。ただし、この状況では魔法は使えないし、ただ一体化するだけだから移動も満足に出来ない。


「ミルヴィア様!透過は危険です!」


 知ってる。透過は、詠唱が出来ないから戻れない恐れがある。

 魔法は血に溶けている魔力によって使える。つまり、今、血の無い私は魔法が使えない。でも、もし水中に魔力が充満していたら?さっき私が魔力の直接操作をした事によって、魔力がまだ余っていたら?私は水中の魔力を使う。ふわふわと漂う紫色の液体。それを吸い込む。自体に吸収する。そしてイメージ。私は人間になる、頭があり、手足があり、内臓がある、本当の人間!


解除(キャンセル)!」


 人間に戻った瞬間、即、大量の水を使った水の球を二人にぶつけた。二人はいきなりの攻撃に咽る。


「よっし!成功!」

「ミルヴィア!危険だと知ってるだろ?なんであんな透過なんて…」

「勝負は真剣に!その隙が負けを生む!」


 刃の形にした水を投げる。鋭く速く。返されれば水に潜る。二人が水――というか浴槽――の中に入ってきたので、水に入りながら遊ぶ。砂粒大の水を出してユアンを狙う。二対一って卑怯だろ、と言いたくなるけど、ユアンはお兄様に対して攻撃できないので仕方ない。


「トドメだ!」


 浴槽の水全部を浮かせる。二人が足元の水が無くなり、戦いたのが分かった。


「でりゃあああ!」


 一気に二人に被せる。二人の顔が引き攣り、反射的なバリアが張られる。ただし、これは三分の一。バリアが解かれた瞬間を狙い、私・ユアン・お兄様の上空で分解させる。


「光よ、雨粒を照らせ。雨光!」


 雨粒が光り出す。キラキラと、降り注ぐ雨に光が宿り、蝋燭で照らされたお風呂場に太陽の光のようなものが降り注いだ。シャアー、と上空で分散された水は心地よく私達の上に落ちてきた。それはひどく幻想的で、この魔法の世界で、儚い光を思わせた。


「綺麗ですね…」

「ああ、すごく」

「すごいでしょ?でも気を付けてね」


 私はすぐに自分にバリアを張った。上で溜まった水は、バリアによってリンクが切れ、一気に降ってきた。

 きゃーっ!バリアを打つ雨音が痛いー。これ、ユアンとお兄様は大丈夫かな?ふふふ。不意打ちってすごいよね。


 シャンッ


 雨はいきなり止み、浴槽には綺麗に元通り水が溜まっていた。目の前には、びしょ濡れを通り越して「泳いで来たの?」って感じのお兄様とユアン。


「ミルヴィア…結構痛かったよ?」

「ミルヴィア様、予告なしは酷いです」

「だって、予告したらつまらないじゃん?…うわっ!」


 お兄様にバリアを押され、バリアの中で転がる。バリアは円状に作って、私を覆っていた。だから水の上をコロコロ走って行く。怖いんですけど!


「罰だよ。バリアを解いたら、水の中に沈むから気を付けてね」

「お兄様!ちょ、これ怖いです、うわ!ユアンも転がすな!」

「いいじゃないですか、中々滑稽ですよ?」

「~ッ…」


 こーいーつー!

 盗賊から助けた事、忘れてんじゃないでしょうね!

 って無理!酔う!いや、酔わないけど!怖い!この言いようのない不安感がぁ!


解除(キャンセル)!」


 バチン、と音を立ててバリアが弾ける。水に打たれそうになったけど、すぐ受け身を取って水の中でも頭をかばったので何とか無事だった。

 あー怖い。凶器だよ凶器。防御も攻撃になるって知らんかった。


「あ、二人とも濡れてるね。もう出ようか」

「もういいの?」

「はい、いいです。十分、楽しめたので」

「…それは私とカーティス様に雨を浴びせたのが、ですか?それとも、さっきのバリアですか?」

「前者です。思いっ切り。さっきのは怖かった」


 そんな会話をしながら、寒くなってきた事もあってお風呂を出た。そのままユアンは使用人用のお風呂に、お兄様は男湯の方に行った。私はメイドさんからタオルを受け取って体を拭き、新しい寝間着に着替えて脱衣所を出た。


 それにしても、今回で結構鍛えられたんじゃないか?細かい砂粒ほどの魔力も出せたし、何より浴槽の水全部を空中で維持・分解出来た。それはかなり大きい。


「ミルヴィア様、お夕飯は召し上がりますか?」

「要らない。寝る」

「え、あ、はい」


 メイドさんは戸惑いつつも先回りしてベッドを整えてくれたらしい。部屋の無駄に大きいベッドは綺麗になっていた。ベッドに潜る。もう眠い。ひょっとして疲れた?…魔王って疲労感とかあるんだな。ああ、もう寝よう。いくらなんでも、今日は魔力を使いすぎた。


 私は、ベッドに入ると三秒も経たずに寝てしまった。

閲覧ありがとうございます。

浴槽はすごく広いです。二十人は入れますね。ぎちぎちになりますけど。

次回は夢です。

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