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125 呪いの部族

 神様のところから戻って何日か経ち、最近ようやく忙しいスケジュールに慣れてきた。慣れてくると、案外狐ちゃんとの訓練の日が一番楽しいって言うのが分かったのね。で、今日は狐ちゃんと訓練の日。でも、今日は午前だけなんだってさ。なんでも「オシゴト」とやらで。

 くっ、少年め、我が宿敵!


 ま、これが終わったらもちろん次は操作魔法だけどね。物質変換の仕組みが段々分かって来たし。

 私は訓練場に行って、軽く魔力で遊んでいた。

 魔力の可視化にも挑戦してるんだけど、うまくいかない。ここらへんに魔力が通ってる、っていうのは感覚的に分かるんだけど、可視化までは出来ない。

 チッ、もっと細かい魔力調整が必要なのかなあ……無理だ。これ以上魔力を送るのを多くすれば目が痛くなってくるし、少なくすれば何も見えなくなってくる。


「魔王、来たの」


 狐ちゃんが、にこにこで入って来た。可愛い。

 私は立ち上がると、手を挙げる。


「おう、久しぶり」

「一週間前に会ったの。それじゃ、何の魔法なの?」

「今日は、そうだなあ、氷魔法でもやる?」

「ん、了解なの」


 小一時間ほど戦った後、狐ちゃんが息切れしたきたので中断した。

 うーん、イマイチ。最近力を入れてるのは氷魔法じゃないけど、操作魔法は使えないし他の魔法も微妙なんだよねえ。

 真読魔法なら上達してきてる実感はあるけど、それだけだ。日常に変化がなくってつまんないっていうのもある。

 狐ちゃんが倒れ込んでぜーぜー言ってたので、疲労回復の魔法をかけてあげる。狐ちゃんの疲労がほとんどこっちに来たわけだけど、なんだ、全然平気じゃん。

 まったく、最近の若いもんは体力が足りないんだから。もっと鍛えないと。

 ビサなんて連続三時間打ち合いを続けても息切れ一つしないんだから……あれ?もしかしてビサが異常なだけ?

 まあ、なわけないよね~。

 

「魔王の周りが異常なだけなの。普通なら、一時間もあんな高速で動けるわけが……ううっ」

「?」

「お腹、空いたの~」


 食いしん坊。

 私はポケットを探って飴を上げると、大人しくなった。子供か!……子供だ。

 狐ちゃんはどうやったのか一瞬で飴を口の中で舐めて消すと、私を見上げてきた。私は首を傾げる。


「お兄ちゃんの依頼、ちゃんと、受けるの」

「分かってるよ。明日にでも行こうかなとは思ってる」

「今日」

「は!?」

「私、今日は午前しかいられないって、言ったの」

「言ってたけどさあ」


 マジかあ。

 まあ、いいんだけど。けどあそこの場所書いてなかったから、ちょっと難しいかなー。


「『弁当屋ツハシ』の、裏なの」

「あなたには聞いてない!」

「分からないって顔してたから、なの」

「分かった、分かったって、行きゃあいいんでしょ」

「裏の森の中、南に進んで行けば着くの」

「……」

 

 南に進むって、なんてアバウトな。行けるけど。


「それじゃ、魔王は忙しそうだから私はもう帰るの」

「待っ、一時間しか!」

「まあまあまあまあ、私の体力も限界に近いし、ちょうど忙しくなったみたいなの」

「……もしかして狐ちゃん、疲れたから止めたくてそんな事言ったの?」

「ふんふ~ん♪」

「そうなんだね!?」


 まあ、疲れたなら帰らせてあげるか。私は狐ちゃんが去るのを見送った。

 短い登場時間だった。


「行きますか、ミルヴィア様?」

「ん~、しょうがないなあ。新しい登場人物、かあ。名前憶えられっかなあ」

「うさぎに名前があるんでしょうか」

「あ、確かに」


 ユアンの言葉でハッとなる。近所の人達がつけてるって可能性もなくはないけど、それを引き継ぐのかなあ?そうじゃないとしたら私が命名する事になるのかな?

 って、何仲間になる事前提で話してるんだか。普通の野兎でした、なんて展開もあり得るのに。

 訓練場を出ると、『弁当屋ツハシ』の方まで向かう。近いはずなんだけど、案外遠い。やっぱり地図と実際の感じでは違うなあ。


 裏の、家の、近くにある森。あー、ここね。深い!

 ザッと見ただけでもかなり奥までありそうな森だった。こんな暗くて深い所だったら魔獣とか出てきそうだけど、出てこないのかなあ。


「行きましょう」

「ユアンってなんでそんなに乗り気なの」

「……呪いに関しては、少々詳しいので」

「ふうん」


 それもまた、未だ回収されてない奴ね。

 私は恐る恐る、南(と思われる方角)に向かって歩き始めた。土が湿ってて歩きにくい。

 誰かいないのかなあ。せめてリスとか居てくれてもいいのに。可愛い小動物見たら、癒される気がする。

 歩くとたまに枝を踏んだパキッという音が聞こえてビビる。ひー、怖い。何が怖いって、私真っ暗なの苦手なんだよ。いや、完全に真っ暗だといっそ『視界良好』をオン、『五感強化』オンにすればいいんだけど、見えるっちゃ見える、魔力を消費する必要がないって時が一番困る。


 ここ数日、可視化の研究で魔力を無駄に消費しちゃうから節約してんだよね~。

 けど、『視界良好』をオンにしようかなあ。


「あのー、誰かいますかー?」


 ちょっとだけ声を出してみた。もちろんうさぎが返事してくれるとは思ってないけどさー……


 ガサッ!


 !?

 葉っぱをかき分けるような音。私は後ろを振り向いて、目を瞬く。迷う事無く『視界良好』をオンにした。

 出て来たのは、うさぎ……じゃないよこれ。

 金髪の男の子。私より少し下くらい、狐ちゃんと同じくらいの歳。何より目立つのが、金色の髪なのに黒い目。私ほどではないにしても、十分黒かった。


 魔力の勉強してる人なら分かる、あまりにも異様だと。

 それに、表情。黒い目はこちらを無機質に見ていて、金色の髪は靡いている。

 男の子が、ゆっくりと口を開ける。


「だあれ?」

「っ!」

「ミルヴィア様」


 ユアンが前に立って、男の子から私を守るような体勢になる。

 何、この子。何かよく分からなくて怖い。

 分からない人ほど、怖い人はいない。


「お食事?それとも、誰か、呪ってほしいの……?」


 呪ってほしい。

 その言葉でピンときた。この子が、ラアナフォーリ?この子が、呪いを使うの?

 だって、呪いって感情が形になった物でしょ?こんな、こんな感情のなさそうな子がラアナフォーリなの?

 ユアンが剣に手を掛けた。っ、やば!


「ユアン、それはだめだ!」

「何故です。ラアナフォーリ、切り伏せる価値はあるかと。ご安心ください、手加減はします」

「そうじゃない!馬鹿なの、私の周りに居る人とは違う!普通の、男の子だよ!」

「ラアナフォーリという時点で、普通ではありません」

「……」

 

 種族ね。

 この世界じゃあ、種族が重視されるものね。差別はないけど偏見はある。

 私はユアンの背中に指を当てた。ユアンの体が硬直する。前、やったことあるでしょ。魔力を分散させるやつだよ。


「真似してみたんだけど、どう?」

「動きませんね」

「じゃ、今から解くから、剣から手を離してね。命令はしたくないなあって、個人的に思ってるんだ」

「……彼が不自然な動きをしたら」

「斬ってよし」


 ふっとユアンへの拘束を解く。

 男の子はとろんとした瞼を瞬かせて、首を傾げていた。私はユアンより前に出る。


「お姉ちゃん、どうしたの?呪ってほしいんじゃ、ないの?」

「そうじゃないぞ。ところで、仕舞っている『耳』を見せてくれないか?」

「……」


 男の子は目を見開いた。予想外といった感じだ。

 一応言っておくと、勘だよ。狐の耳、猫耳ときたらウサ耳もあるんじゃ、と思っただけだよ。兎の耳は無種族認定されてなかったはずだしね。


「よく、分かったね、お姉ちゃん。ぼく、ちょっとだけびっくりしちゃったよ」

「そうか?なあ、君、どうしてこんなところに居るんだ?」

「ぼくたちは、人の呪いから生まれて、里に行くんだよ。ぼく、ここで生まれたんだ。呪いを教えてる学校があるから、そこから、生まれたよ」


 ……呪い矯正学校の事かな?真逆なんですけど。

 私はそうか、と頷くと、手を差し出した。男の子は首を傾げて手を見つめている。


「うちにおいで」

「……え……?」

「ミルヴィア様!」

「一晩だけでも。お腹空いているんだろう。君の食事って、なんだ?」


 男の子は目を瞬かせた後、ぽつりと言った。


「感情がある人の、感情の、欠片……」

「オーケー。得意だ。私のならいくらでも食べていいぞ」

「本当……?」


 つまり、畑の作物じゃ満足してないって事だね。

 普通感情の欠片を食べられたら、補えない。無くなってしまう。何故なら感情のコントロールが出来ないから。

 けどさ。

 私、感情のコントロール、出来るから。


「いくらでも食べていい。だからとりあえず、うちに来なさい」

「……っ!」


 ユアンが複雑な表情でこちらを見ていたけど、私としては謝るべき人はユアンじゃなかった。


 お兄様、ほんっとすみません……。

閲覧ありがとうございます。

お屋敷の管理はほとんどお兄様がやってるのに……。まあ、人が一人増えたくらいじゃ大した問題ではないのですが。レーヴィも男の子も普通の食事は要らないので。

次回、男の子とお話します。

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