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124 回答

 タイムリミットの日。

 私は決心も出来てないまま、ベッドに向かっていた。

 うーわあ、寝たら絶対強制転送されるよ私。私は荷物か何かか。行ったり来たりさせてくれちゃってさ。

 私はベッドに潜りこむと、眠る前の恒例行事。


「おやすみなさい、ミルヴィア様」

「おやすみ、ユアン」

「お休み、神楽」

「おやすみ、レーヴィ。じゃ」


 ふっと蝋燭が消えた。あー、行かなきゃいけないのかあ……。

 蝋燭が消えたとたんに体が熱くなってきた気がするし、レーヴィが何か喋ってるみたいだけど意識がぼんやりしてて聞こえないし。


「……寝たのかの?」


 寝るよレーヴィ。

 てか、行ってきます。まだ寝れないみたいだし。おやすみって言わなきゃよかった。

 寝てぇ……。


「儂も寝るよ。ゆっくり、休むんじゃよ」


 何それ。お婆さん?

 突っ込みは言葉にならず、私は熱に包まれて意識を落とした。

 ……眠いのに……。




 花弁の中。私は丸まった体を伸ばし、赤い天井に触れた。はらはらと、儚く散る。

 起き上がってみれば、皆がこちらを見ていた。それぞれ、表情はバラバラだ。

 セプスは心配そうに、ニフテリザは面白そうに、クーストースは楽しそうに、ゾーロは嬉しそうに、蜘蛛は嫌そうに、万智鶴は待ってましたと言わんばかりに。


 私は立ち上がると、皆に笑顔を向けた。


「やっほ、来たよ」


 手を振って見せると、ニフテリザは笑って扇子をたたんでこちらに向ける。

 ちょっと、私が先端恐怖症だったらどうするの。馬鹿にならないんだからね。


「来たよ、やない。嫌々来て。あのベッドで寝んかったら来ぇへんでいいのは知っとるやろうに」

「だって、約束は約束。守らないと、魔王の名が廃るでしょう?ちょっと広い所行かない、一人一人、返事するからさ」


 ここも十分広いけどね。赤い花弁ばっかりでちょっとくどい。


「いいでしょう、クーストース、門を展開してください」

「どこ行くんだよ?」

「そうだな、丘とかはどうだ?私が机と椅子を設置しよう」

「ああ」

「……彩里も居ないし、大丈夫やとは思うけど」


 彩里。

 絶対会いたくない神様だね。あの人天然で最悪な性格してるから。前に言った事を思い出してみると、


『だってー、みーんな大事なものをこの世に置いてって死んじゃうんだよ?だったら、皆皆、一緒に逝っちゃった方がいいじゃない』


 要は一人死ぬくらいだったら全員殺す。

 酷い。惨い。それ聞いた時、さすがの私も戦慄したね。一生関わりたくないと思ったよ。

 

 クーストースは門を取り出す(?)と、中をくぐった。横から見ると秘密道具持ってるロボットの道具みたいだね。あのドアの奴。

 次、私に勧められたから私が入る。緑しかない、綺麗な丘だった。

 これ、すげえ綺麗だわ。草原、って感じで。ここに小さな村が在ったら里は一瞬で破壊するんだろな。うん、想像するのは止めよう。


 次にセプスが、人数分の椅子と大きな丸い机を出した。丘の上に設置して、ついでにお茶とクッキーも出す。その間、どうやってるんだろうと魔力の使い方を想像してる私、オタクっぽい。

 私はオタク、尊敬するけどね。好きな事に熱中できるのは良いと思うし。


 シーン、と、静寂。

 何か話題を探してみるけど、まったく思いつかない。多分私の立場になったら分かると思う。

 神様と共通できる話題ってなにさそれ!?


「んんっ、じゃあ、回答を、言おう、かなあ」

「おっ、待ってたぞ!」

「茶化さないでよ……珍しいな」


 私は隣に座っているセプスの顔を見た。セプスはにっこり笑って、照れているみたいだった。

 ちょっとだけ緊張してる感じかな。ま、そうだよね。

 私はふっと笑うと、お茶を一口飲んだ。


 待って、これ私の方が緊張してない?

 まあいいや。ちゃんと言おう。


「結論から言っちゃうとね、私、セプスの事嫌いじゃないよ」

「え」


 いきなり言うとは思わなかったのか、セプスが拍子抜けした声を出す。

 いきなり言わなかったらいつ言うの。


「け、けど、私はミスで、お前の大事な庭師の事を一瞬ではあれど不幸にしたんだぞ?」


 一瞬っていうのは神様視点だから、本当は何年も、だと思うけどね。

 それにしたって私の答えは変わらないけど。


「うん、そうだね」

「庭師が、不幸だったんだぞ?怒らないのか?」


 聞かれると思ってたよ、私。

 だからそれの答えも、ちゃーんと用意してるんだな。


「そうだね。不幸になっちゃったのかもしれない。けどさ、魔族って物凄い長生きなんだよ。そのうちの、八年だよ?そりゃあその時を生きた本人にとっては長いし、すっごい辛かったと思う。けど、そんなの全部どうでもいいやって思えるぐらい、今があるからそれでもいいって、今の事を思い出して笑えるぐらい、私が幸せにしてあげる」


 私は胸を張って言い切った。

 良いじゃない。私はコナー君が笑っていられるようにするよ。昔の事を思い出して辛くなっても、今、幸せなんだって言えるなら、私はセプスの事を怒ってないよ。

 当たり前だよ、神様だって失敗するよ。

 

 だから、魔王の私がカバーしてあげる。


 甘えりゃいい。コナー君の事は私に任せて。だって私、魔王だもん。

 国民の幸せを祈るなんて、当たり前でしょ?


「……さすが、魔王だ」

「でしょ?」


 セプスへの回答、終わり。

 次、ニフテリザかな。ニフテリザ、にやにやするな。

 実を言うとあなたの質問あんまり悩んでないからね?


「ユアンを意識してないか、だったね?まったく全然意識してません」

「ほんまに?」

「ほんまに。ユアンの事は、護衛としか見てないよ」


 何だか最初にすごい奴持って来たから次の回答が薄っぺらく感じるのは私だけでしょうか。

 ま、まあ、いいか。

 次、クーストースだったね。

 クーストースは私に目をやって、にやにやしてる。あれ、クーストースが座るの珍しいな。そこまで重要な事じゃないと思うんだけどなあ。


「皆が告白してきても、全部断るよ。今の段階では(・・・・・・)

「なるほど?今のところ誰にも恋してないと」

「うん。付き合いたいって思ってないのに情けで付き合うだなんて、そんなのただの侮辱じゃない?私はそう思うなあ。優しさじゃ、ないかなあって」

「そうか。そうだな。お前はそう思うんだな」

「そう。私はそう思うわけよ」


 しかも他の人が居るのになんでその人選ぶんだって言うね。

 私としては、誰も選ばないっていう回答がしっくりきたんだよね。

 ええっと、終わりでいいのかな?そんじゃ次、ゾーロだ。ゾーロへの答えは、ちょっとだけ変えよう。


「あのね、ゾーロ、ちょっとだけ変えるね」

「ん?ああ、良いぞ」

「『道は自分で決めて、でも手当だけはしてあげる。あなたがそうしてほしいなら、ずっと一緒に居てあげる』」


 魔王だし、手当しないって言うのはまずかったかなあって思ったの。

 けど、道だけは自分で決めてほしいんだよね。だって私、分からないもん、ゾーロがどこに行きたいのか。


「俺が道に迷っても?」

「行きたい場所があるなら、手伝ってあげる」

「……そうか。ああ、満足だ」


 ゾーロは満面の笑みを浮かべると、お茶を一口飲んだ。

 次……蜘蛛。

 今度のはかなり強気に行かなきゃ、いけないんだよね。辛いなあ。怖いなあ。

 ええいっ、ままよ!


「蜘蛛」

「びっくりしたなあ、私。ちゃんと考えてくれたんだあ?今、どうやったって無駄になるっての、憶えてたんだ?」

「それに対する答えを言います」


 私は蜘蛛に目を合わせると、舌を出した。

 そんなの。


「知るか」

「……!」

「今、私は皆と仲良くしたいの。その過程で、どんどん好きだなあって思える人を増やしたいの。例え私が最期に取り残されたって、勇者に身を投げたりなんかするものか。死にたいだなんて思うものか。だって絶対その時には、その人とは別の、好きだなあと思える人が居るはずだもん」


 何より、狐ちゃんとレーヴィは絶対にずっと生きてるしね。狐ちゃんは、ただ若いからって理由だけど、レーヴィは私の眷属だから、中々死なないって特性は引き継いでる……はず。

 それにさあ、そんなの今考えたってしょうがないし。その人が死んでしまった時、一緒に悲しむ人が居るって私は信じてっから。

 

 恐る恐る蜘蛛の方を伺うと、くすくすと笑って……笑って!?

 蜘蛛が私の発言で笑っているだと!?


「そうなんだあ。やっぱり私、嫌いだなあ」

「嫌いで結構」


 蜘蛛はふっと席を立った。まずっ、誰か殺される!


「情けないんだあ、神楽。だあれも殺さないよ。その人達が自然に死んだとき、あんたがどんな顔するのか、見てあげる」

「あら、お情け、有難い限りでございます」


 私は笑うと、門をくぐって出て行く蜘蛛を見送った。

 次に私を襲ったのは、脱力感。


 うっわ、うっわああー!

 なんも無くて良かったあ、めっちゃ賭けだったんだよ。いざとなれば力尽くで止めようと思ってたんだよ。

 マジか。本当に、お情け有難い限りだわ……。


「次、私の質問に答えて下さいね」

「急かすなって。もうちょっと安堵感に浸らしてよ」


 安堵感を覚えた。

 私は万智鶴さんの方を向いた。

 二人が本気だったら、私はね。


「どうもしない。ハッキリ言って、二人が回りくどい事をしてる限りは私は何もしない。直接『好きです』って言ってくれるなら、考えてもいいよ」

「……ええ、大体想像通りでした。分かりました、良いでしょう。では雑談と行きましょうか」


 私は肩の荷が下りて、ほっとしながら雑談を楽しんだ。途中、クーストースは仕事があるからと抜けた。

 最後に、もうさようなら、っていう時に、万智鶴さんから言われたことがある。


「ラアナフォーリ・うさぎ・畑荒らし。この単語がピンときたら、関わってみてください。とても、楽しい事が起こりますので」

「……めんどくさそうだけど、分かったよ」


 ピンポイント、あの依頼。

 ちょっと落ち着いたら、受けるって決めてたから、それが揺らがなくなっただけかな。大した変化はないや。

 私は帰る前に、皆に向かって言った。


「楽しかったよ。じゃあね、また(・・)

「おお、また、な。楽しみにしとるで~」


 私は楽しかった代わりに、めちゃくちゃな疲労感を伴って帰路についた。

 明日、ビサとの訓練。

 やべえ、心身ともにズタボロになりそうだわ……。

閲覧ありがとうございます。

大体、皆さんの想像通りだったかと思いますが、書きたいのが書けて満足です。

次回、依頼。

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