122 夢魔を交えてお茶会です
鬼のような教師に鬼のような量の問題を解くのを強要(?)された翌日。幸い大きな間違えはなかったけど、後半は疲れからかケアレスミスが多発した。ふらっふらになりながら家に帰り、そのまま倒れるようにベッドで横になったんだ。
昨日は本っ当に疲れた。復習する暇も無かったの。
その疲れを紛らすため、私は癒しを求めて庭に来ていた。無論ユアンも一緒だし、庭が大好きなレーヴィも来ていた。あー、コナー君と話すのが一番癒されるけど、この庭も十分だなあ。これにコナー君って最強の組み合わせだよ。
えーと、コナー君は、今日は裏のお花の手入れって言ってたかな?お仕事の邪魔になっちゃ悪いから、終わってから捜そうかな。
その間、昨日の復習をする。本を開いて、プリントに羽ペンで間違えたところを確認してチェックを入れていく。このプリントはアイルズが即興で作った。
そのくせ字は上手いんだから、よくやるよ。
「神楽は勉強が好きじゃなあ。儂は百歳の時に魔学理論を学ぼうとして諦めたわい。かっかっか、若かったのう」
「……百歳は若くないよ?」
ちなみに魔学理論っていうのは魔力概念の昔の言い方です。なんか良く分からないけど変わったみたい。魔学理論の方がかっこいいけどね。
私は引き続きプリントに取り掛かった。本をめくって確認するんだけど、如何せんページ数が多いから探すのに滅茶苦茶時間がかかる。そこがネックだね。読み込めばどこにどんなのがあるか、分かるようになると思うけど。
「ミルヴィア様、そろそろ午後です」
「おー、じゃあ探しに行こうかな」
「儂も同行するぞ!庭師!庭師!」
「ははは……」
裏の方まで歩いて行く途中、レーヴィは目をキラキラさせながら庭を見て歩いていた。本当に花とか植物が好きなんだなあ。
花壇を眺めながら歩いていると、すぐに裏に着いた。コナー君を捜して、歩き回る。無駄に広いんだからこの庭。その広さを上手く利用した庭造りをしてるコナー君はさすがだね!
「ミルヴィア様はコナー様が優先なのでしょう?」
「ふむ、じゃあ、もし殺人犯と閉じ込められたら、神楽は庭師を守るのじゃな」
「どうした急に。まあね、そうだよ?真っ先にコナー君を守るね」
「私や、他の方はどうするのですか」
「他の人達は自衛出来るから大丈夫だよ。っていうか、私はどうするって、何それ。私を守るんでしょう?」
「……そうですね」
当たり前じゃん。ユアンのポジションはそこなんだから。
てゆーか、絶対殺人犯が気圧されて何も出来ないと思うけど。私の周りの人達最強ですぜ?
「ミルヴィア!」
「お、コナー君」
手を振ってこっちに駆けてくる天使、違ったコナー君。でもレーヴィの表情を見れば、本当に天使なんじゃと思う。
だってさあ、目をキラッキラさせて泣きながら拝んでるんだよ?
天使どころか神様見てんじゃん。
「ミルヴィア、この人は、えーっと、あ、そっか、新しく来た人だね?」
「儂はレーヴィ!こんな身じゃが、三百は越えておる!ああ、信じられんか、今違う年齢になるから――」
「あ、いいですいいです!いろんな種族が居るから、僕、気にしないです」
「天使っ!」
「ちょっと私とキャラ被ってる」
キャラ被りが一番困るんだからね?
レーヴィのせいで天使ポイント掠れちゃったじゃん。でも、ふふ、さすがだなあ。コナー君は純粋だから好きなんだよねえ。
まあ、犯罪が無いって言うんだから、この国の人は皆純粋なんだろうけど。けどねえ、日頃争い合う大人達(ユアン・アイルズ・お兄様・エリアス等々)を見てると、一番純粋なコナー君が好きになるんだよね~。
「レーヴィがこの庭大好きで、コナー君と話してみたいって。いい?」
「もちろん。嬉しいです。この庭、頑張って手入れしてるから」
「儂は好きじゃ!例えばあの植木とか、あの花の位置もちゃんと考えられとる。大切にしておるのが分かる庭じゃな」
「わあ、嬉しいです!」
コナー君は緊張してるみたいだったけど、楽しそうに庭の話題に移っていった。
私の入る隙がないのだが。まあ二人とも楽しそうだし、ちょっとだけ放置しても……。
「ところで、儂にも色々教えてくれんかのう?」
一瞬で辺りに蔓延する蠱惑的な匂い。それは庭中を包みこみ、コナー君を中心に広がって行った。私はそれを察知したとたん、レーヴィの頭にチョップを入れる。
こいつ!ほんとに許さないからね!?それだけは、本当に、絶対、だめって言ったのに!馬鹿!
「何やってんの、レーヴィ!?」
「いや、違うんじゃ、自然に出ただけで、わざとじゃあ」
「気を付けてよ!コナー君には止めてって言ったでしょ!?」
「悪い、謝るっ!」
「ミルヴィア、どうしたの?あの、えっと?」
「え?」
コナー君は意外にも、困惑しているだけで『魅惑』に掛かった様子がない。
あれぇ?絶対に『魅惑』が掛かってたのに。
「お茶飲もう?何かあったの?」
「あ、ううん、何でもないよ?……コナー君、好きな人とか、居る?」
「え!?い、居ないよ?どうしたの、急に」
「ううん、なんでも」
おっかしいなあ。見当違いってわけでもないだろうし、『隔離者』に関係が……でも調べた限りじゃあそんな特性なかったし。
あれぇ?
ま、いいや、あとでいろいろ調べるとして、お茶飲もう。
庭の隅に在る椅子に座ると、ユアンがお茶を淹れ出す。ビースっていうお茶だったかな。確か疲労回復の効果があるんだったよね。
「ミルヴィア、僕、さっき好きな人居ないって言ったけど、ミルヴィアは好きだよ?」
「おお、ありがと。嬉しいな」
子どもの間の純粋な好意って、普通に嬉しい。コナー君はにっこり笑って、ビースを啜った。
私も一口頂く。ん、コーヒーに近いけど、甘みが多い感じかな?コーヒーゼリーみたい(?)。
「じゃあ、ミルヴィア、お話始めよう」
「うん、レーヴィも、話そうか」
「じゃあ庭の事をずっと」
「そればっかりだと私が置いて行かれるから他のもね」
そう言って、楽しいお茶会。
何かするまでもなく、話してるだけで、疲れは取れて行った。
閲覧ありがとうございます。
コナー君に『魅惑』が効かなかったのは、子供だからと言うのも大きいです。そういった気持ちに心当たりがないため、少し不思議な気持ちになるだけなので。
次回、特別編。万智鶴視点。