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121 眠くないから

 私は本を抱えて、ふらふらになりながら部屋のベッドに倒れ込んだ。ビサが居た間ずっと庭に居たレーヴィは、その様子を見て苦笑する。


「訓練、随分ときつかったようじゃの」

「どっちが訓練されてんだか分かんないよ~……。もう寝たい……」

「寝ればいいじゃろうに」

「眠くない~」


 寝たいっていうのは精神的な疲れで、眠気は無いんだよねえ。

 疲労回復の治癒魔法は、あんまり使いたくないし。だってこれ対象の疲労を術者が背負うって奴だよ?意味ないじゃん。

 結局、本は一ページも読めてないし。後悔はしてないけど疲れた。


「それじゃあ、今日は早く眠るのかのう?じゃったら儂も寝るぞ」

「まさか!読めなかったんだから取り戻す!即ち!」

「夜更かしか」

「正解!」

「大声を出すとユアンに見つかるぞ?あやつはかなり厳しいからのう。就寝時間だけはきっちり守らせるんじゃから」


 そう、そこが問題。

 見つかったら見逃してもらえるとは思えないし……この前の三百四号室の二の舞だよ。一応レーヴィが居るから夜中見回りには来ないと思うけど、物音立てたら来る気がする。

 だから足音が聞こえたらすぐに本を隠すっていう手法を取ろうかな?


「では手助けしよう。ユアンの気配があったら感知できるよう集中しておく」

「さっすがレーヴィ、分かってるねえ!」

「その代わり」

「え」


 何。やな予感しかしないんだけど。

 いや、この世界に来てから良い予感っていうのは感知できたことが無い。感覚麻痺してるんじゃないか?


「今度庭師に会わせておくれ。手入れのところも見てみたい」

「んん、じゃあ地民の日にお茶会があるから、顔出せば?コナー君も嫌がらないと思うよ。ただ、夢魔ってのは隠しておいた方が良いかも。びっくりするから」

「了解した」


 なるべく夢魔の『魅惑』に掛かって欲しくないから、コナー君とはあんまり会わせたくなかったんだけど……大丈夫か。後から私の真読魔法で正気に戻せる気がするし、コナー君のほほんとしてるから大丈夫でしょ。

 もちろん、最大限注意するけどさ。

 

 コンコン


 やばっ。

 私は咄嗟に本を布団の中に隠した。レーヴィが布団に潜る。なるほど、これで布団の方を見させない戦法か!

 こいつやりおる!


「ミルヴィア様、そろそろ寝ますか?」


 ユアンが入って来て、にこりと微笑んだ。ユアンもかなり訓練で疲れてるはずなのに。

 吸血鬼の治癒力さえ上回る体力って何それチート?


「うん、そうだね。寝るよ」

「お休みなさいませ、ミルヴィア様」

「お休み、ユアン」


 本が見えないようにしつつ、ベッドに入る。ユアンが出て行った音がすると、本を確認する。うん、曲がってない。ページも折れて……ないね。よしよし。表紙が分厚いからそうそう曲がったり折れたりする事は無いんだけどね。

 表紙だけ持ってもかなりのおもさになるだろうなーと思うよ。

 本の無事を確認してにこにこしていると、レーヴィがクスクス笑った。何さ。本を見てにやにやして何が悪い。


「いやいや、先の会話、夫婦みたいじゃったのう」

「馬鹿」

「……思ったほど嫌がらんのじゃな」

「あのね、これだけは言いたくなかったけども」


 ベッドの中で、レーヴィの目を真っ直ぐに見つめて、言う。


「慣れた」

「ははは!なるほどのう、そりゃあ良く言われていれば慣れるわい!」

「静かにしてよっ!」


 さてと、光の可視化オン、『視界良好』オン。

 おお良く見える。さてさて読書を始めましょ。

 

 えーっと?こっからだね。

 どう頑張って物質変換のレベルを細かく調整したところで、変換できないものがあるっていう。

 例えば、マッチの火から水滴にするにはかなり細かい調整が必要なうえ、出来たとしても少ししか出来ない。キャンプファイヤーの火を池にするのは出来ても、そこまで大きな物は無理。


 つまり、物質変換は変換と同時に量が大幅に少なくなるって言うのだね。

 あと、どう頑張ったってプラスチック・ガラスには変えられないとか。ガラスは砂と火があれば出来るかもしれないけど、魔力の量と労力を考えれば非効率すぎる。

 私は、もっと細かく、小さく、物質を変換する回路(的な物)を作れば可能なんじゃないかなって思ってる。もちろん不可能な事はあるだろうけど、やってみて損はないでしょ。


 あと、この部分、要約すると、うわ、すごい!魔力と光を直接触らせる事によって、瓶に光を保存できる!?

 すげー、こんなの出来るんだあ。でも直接触らせるのはどうやって……ああ、なるほど。指に魔力を集めて光に当てればいいのか。

 ん、っていう事は物に魔力を付けて(?)光に当てれば、光がそのまま保存できる……ああでも外気に触れると光が少しずつ消えていくのか。


 楽しい……。


 後は、その光の持ち運びについて。瓶を持ち運ぶだけでもいいけどそれだとしばらくして光が消える、だから断続的に魔力を与え続ける。

 魔導具の『光瓶』っていうのはこの性質を利用したもの、か。へーえ。面白いな。魔力の加減によって光の強弱も変えられると。

 いいねコレ。今度やってみよっかな。ああでも回路(的な物)を刻まないといけないのか。魔女文字の勉強は、操作魔法が終わってからにしたいし、これ操作魔法の中のついでだからあんまり深く勉強しなくてもいいや。


 次、正確な物質の名前は分からないけど変換したい物質に変えるには、それ専用の事典を見ると分かりやすい、か。アイルズ持ってるかなあ。三百四号室にはなかったはずだし。

 ふわふわな物に変えるにはどうすりゃいいんだ?実験あるのみかな?


「神楽!あやつが来た!」

「えっ、勘が良いなあ」


 布団の中に本を隠して潜り込む。息を潜めていると、キイ、と音を立ててドアが開いた。

 気配が近くにまで来て、しゃがんだのが分かる。ドキドキするけど、狸寝入りを決め込んだ。

 少しすると、ふと髪の毛が触られてビクッとなる。ユアンがクスッと笑ったのが、気配で分かった。


「今回は見逃しますが、夜更かしは程々にしてくださいね」


 そう言ったっきり、ユアンは部屋から出て行った。

 ……。


「神楽?おい、寝たかの?」

 

 その後私が微動だにせず眠りについたのは、言うまでもない。

閲覧ありがとうございます。

護衛に怯える魔王様。

次回、コナー君とレーヴィとお茶会。

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