117 一番簡単
うわ、めっちゃ早起きしちゃった。起きた……夜中だけど。
月の位置から見るに、まだ朝の四~五時くらいだと思う。我ながら早起き、ってそうでもないか。私いつも早起きしてるもんね。
早寝早起きは出来てるけど、生活リズムが良いとは言えない。
ご飯?食べませんが何か?
さてと、なら操作魔法の授業に行くまでに、万智鶴さんの質問について考えよっかな。
アイルズとユアンが本気だったらどうするか?決まってるじゃん。
その決意、形にしてもらおうって事で、直球に言ってもらおうかな?回りくどい事じゃなく。私回りくどいの嫌いだし。例えばアプローチとかされても、ピンとこない。
だから『好きです』って言ってくれたら、ちゃあんと応対しますよ?
……あれ、これニフテリザの時も言わなかったっけか?
ん?それと同じじゃね?んん?いいのかこれ?
もうちょっと考えよう。もうちょっと考えたら良い案が浮かぶかもしれない。
ベッドの中、眠るレーヴィの隣で悩む事数十分。
考えの進展はない。
ベッドの中、もぞもぞするレーヴィの隣で考える事更に数十分。
考えの進展はない。
を、繰り返しつつ……。
「おはよう神楽。早いのう」
「オオゥ……」
とうとう朝になりました!わーい!
じゃない!
え、え、マジで?一番偉い神様がこんな簡単な問題出してくるの?は?
いや、偉いからこその深い意味?うんにゃ、そんなもんなかったはず!ただただ思い浮かばなかった?いやいやそれもない。だとしたらこんな質問しないだろうし。
えええ?
これも計算通りだとしたら万智鶴さんの手のひらの上だよ、私。
三百四号室に行ってユアンにおはようを言い、本を読んでいる間もその事で頭がいっぱいだった。
なんで私は質問と違う事考えてんだ?えーと本来の質問の答え、は、もう出たんだった。あーっ!頭こんがらがって来たっ!
「ミルヴィア様、そう言えばこの間の授業の時、本当に何もされませんでしたか?」
「へ?」
滅茶苦茶頑張って考えている時に話しかけられたものだから、間抜けな声が出た。
でも、すぐにスイッチを切り替えて瞬きする。えーっと、前回の授業の時何もされませんでしたか、ね。
されましたよ!?されたけど言ってないだけですが!
「何にもされてない。ここんとこ本当に何もされてないから逆に警戒する」
「……何もしないのに、警戒するのですか?何かしても警戒するのに?」
「その感じが面白いんだよ、アイルズは……って言っても分かんないか。常人にゃ理解できないよ、多分」
今の言い方だと私が常人じゃないみたいだけど、普通の人間ですからね!?
訂正するのであれば普通の『人間』じゃなくて『吸血鬼』だけど!
ユアンが目を細めて、訝しげな表情になった。う、気まずい。
「では、私との関係はどのような」
「え?主従関係でしょ」
何聞いてるんだか、今さら。
ユアンは虚を突かれたような顔になって、首筋をかいた。ん?
「そうではなく……ミルヴィア様にとっての、アイルズ様と、私は、どういった関係なのかなと。外野から見た何かではなく」
「え?アイルズは一緒に居て面白い人、ユアンは……」
ユアンは?なんなの?本当に思いつかない……。
あ。
「一番、信頼してるよ」
「!」
ユアンが目を見開き、複雑そうな表情になった。何故だかユアン、信頼してるって言うとこの表情になるんだけど……なんで?
私が首を傾げると、苦笑される。
「いいのです。今は」
「……あの、その今は、って言い方すごく気になる」
「気にしないでください」
「そうじゃよ神楽。無闇矢鱈とユアンを困らせるものじゃなかろう。男の事情と言うものもあるのじゃ、見逃してやれい」
今まで黙ってたレーヴィが、足を組んで頬杖をついた格好で呵々大笑した。
えー、夢魔が男の事情を見逃せとか言っちゃう?
「まあ、皆がそう言うなら、無闇には聞かないけどさ。何よ男の事情って」
「主人や好きな人に、言えない事の一つでもあろう」
「好きな人?ユアン、好きな人居るの?」
「いえ、居ません」
「ふうん。なんだ、つまんない」
一瞬食いついたのに、さらりと否定された。
やっぱり居ないんだ……どっちでもいいんだけども。
「恋愛は自由だから、好きにしていいよ?」
「いえ、私は一生ミルヴィア様のお傍に居ると誓ったので」
「何が一生お傍にだ!守るって誓ったんでしょ!意味合いが違うからやめなさい!」
「ほほう、誓った、とな?」
「はい、あの庭で」
「ユアン!」
「あの庭で!?」
「レーヴィ泣きださないで!」
レーヴィが感極まって泣いて来たので、ハンカチを渡した。
ったくもう。
朝っぱらから騒がしいなあ、もう。
閲覧ありがとうございます。
操作魔法の授業入りませんでした……。一話丸々使うつもりだったので、次回に回します。
次回、操作魔法の授業で物質変換です。分かりづらい、小難しい感じになるかと思います。