113 仲裁に入るのも楽じゃない
悩み続けた後、ツハシのおにぎりの袋を捨てに休憩室を出た。えーっと、確か待合室にゴミ箱があったような。分別とかってしてるのかな。さすがに不燃ゴミとかは分けてるとは思うけど。
あーっ、病院に来れば色々まとまるって思ったんだけど、逆に気が散る!なによりそこら中に人の気配が……!
待合室のゴミ箱へゴミを入れると、私はそのままどさっと椅子に座った。
まったくもう。ニフテリザったらなんて質問してくれるの。おかげで散々考えたって答え出ないじゃん。
「また来ますね」
いかにも恋してます、っていうような恍惚とした表情の女性が、診察室から出て来た。赤い髪の毛がストレートで、茶色の目をしている。あ、魔力多めだ。
貴族かな?アクセサリーたくさんしてる。ピアス、緑の宝石。胸元のネックレスは青い小さな宝石。髪飾りは蝶の柄。うわ、欲しい!
「もう来なくて大丈夫ですよ。良くなったでしょう」
エリアスが眼鏡を押し上げて呆れたような表情をした。
……あ、この人前にも見た事ある。エリアスが『何の用もないのに来る馬鹿』って言ってた人だ。かわいそーに。
「でも、心配です」
「もう何度も来て、何もないと分かっているでしょう」
「あら、今度母に、エリアス様をご紹介しようと思っていたんですよ」
「は!?」
「……あーらら」
修羅場かな?
私は関係ありません。あなた達の問題です、あなた達で解決してね!
といいう態度を取りつつ、そっぽを向く。エリアスが小さく舌打ちしたのが耳に入って、何だか居心地が悪かった。
「いつもお世話になっているんですもの。いいでしょう?あなたにとって、我がアスポレオン家と縁を持つ事は悪い事だとは思いません」
「私は不自由していませんから」
「いいではないですか。母も会いたがってます。貴族になれるのですよ?」
どうしよう周りの人達もざわざわしててなんか私何かしなきゃいけないような気がしてきたんですけど。
私は軽く首の辺りを掻き、声を出した。
「あー」
一気に私に注目が集まった。髪の毛を隠してるしユアンも居ないから、魔王だってのはばれないと思うけど、これはドキドキするなあ。
私は立ち上がると、言葉を選びながら話す。
「ここは病人の居る場所だから、そういった個人的な話は控えた方が良いのでは?」
「……誰なの、あなた。庶民のような恰好をして」
「庶民です」
「ならわたくしの事に口を出さないでくださる?私とエリアス様の問題ですのよ」
メンドイ。
早く魔王の権力行使したいけど、エリアスの方を見たらそれだけは絶対にダメだと言わんばかりに睨み付けて来るし。
しょうがない、場所が場所だけど、論破しよう。
「女性の恋にどうこうと口出しするつもりはありません。ですが、辛い思いをしてエリアスの診察を待っている人が居ます。こうする事によって邪魔かもしれませんが、毎度毎度そうさせるわけにはいきません。お引き取りを」
「ッ!あなた何様なの!エリアス様とどういう関係なの!?」
「友達です」
「~ッ!!」
手を振り上げてきた。単調な動き。考えなしに動いてるだけだね。
くだらないなあ……。
「はいはい」
手を握ると、にこりと笑いかけた。
「お引き取りを」
女性はカアッと顔を赤くして、カツカツとヒールの音を響かせて出て行った。私はなるべく笑顔で待合室にいるお年寄りや病人を振り返り、
「お騒がせして申し訳ありません。お次の方、どうぞお入りくださいませ」
「……どうぞ」
「ああ、はい」
カツ、と杖を突いて移動する老人は、私を一瞥してから中に入って行った。
さあて、考えようか。ここは居心地悪いし、休憩室行こう。
休憩室で、考えをまとめ始める。ふむ、今のでちょーっと気分転換になったかも。かなり不謹慎だけど。
ユアンがあんなにムキになるって言うんだったら、私も意識するかもね。そうなったらどんなに面白いか。けど、有り得ないんだよねえ。
もしユアンが私に本気だって正面から言ってくれるなら、ユアンが私に対して何かしらしてきたなら、って、何かしらしてきたらって今まで何もしてないみたいな言い方。めっちゃしてきてんじゃん。
口移ししておいて何もしてないとか、私、何言ってんだか。
そもそも、ユアンなりのアピールっていう考え方、は、ないか。ないな。うん。
ま、アピールだったとしても、私は直接的な物しか受け付けませんがね!
おお?分かって来たかも。
私が今ユアンを意識しているかどうか。即ち、意識はしてるが何もする気はない!
おお!完璧!
って、わけで。
緊張したから、ちょっと休も……。
閲覧ありがとうございます。
エリアス、病院では大人しくしてるつもりです。でも周りからはそう思われてないみたいです。
次回、クーストースの質問について考えます。が、すぐ終わります。