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111  庭師とお茶会

 

「おはようございます、ミルヴィア様」

「ん……おはよう」

「今朝は遅かったので見に来ましたら、まだ寝ていたので。三百六号室へ行きますか?」

「うん」


 あ、本当だ。もう十時過ぎてる。寝過ぎた。まあ最近全然眠れてなかったから、ちょうどいいっちゃちょうどいいか。休日だしね。

 

 三百六号室で読書をしながらどうしようかと考えていた。

 昨日滅茶苦茶考えたにもかかわらず答えは出なかったからなあ。やっぱりコナー君と話そう。午後まで読書で過ごすかな。あーあ、せっかくの癒しの時間が無駄になっちゃうよ。早目に答えが出てくれりゃあ良いんだけど。


 午後。

 ユアンを連れて、庭の小さなイスと机がある場所へ。これ、庭の端っこにあるけど、端から端まで手入れの行き届いている庭の端っこは、小ぢんまりしてるけどいい場所だった。

 うん、いつもながら綺麗な庭だね。惚れ惚れするよ。


「ミルヴィア!」


 コナー君が、手を振りながら駆け寄ってきた。


「コナー君!お疲れ様。終わったんだね」

「うん、今日もいいお仕事が出来たと思うよ」


 うーん、この謙遜なしで素直なところが可愛い。こういうところで『ちょっと反省点が』とか言われてもちょっと困るもん。

 私達は椅子に座って、話し始める。もちろん雑談。




「朝露が綺麗だったんだよ。幻想的だった。氷を散りばめたみたいに、ところどころが光っててね。あんなの、初めて見たなあ」

「へえ~、見たかったな」

「今度一緒に見よう。綺麗だから」


 コナー君とは、話すのも話を聞くのも楽しいなあ。

 ユアンが淹れてくれたマドツを啜る。……神様が淹れたマドツと同じくらい美味しいって、ユアン、何者なんだろうね。


「今日はね、三番目の花壇が荒れちゃってて。治すの大変だったよ」

「え、荒れてた?」

「うん……昨日は風が強かったから。ちゃんと治ったから良かったけどね」

「そっか」


 花壇が荒れると大変だよ。私前世で花育てた事あるんだけど、台風の時ちょうど熱が出ててね、学校休んでたんだ。

 したらもう育てた花が台無しで、本当に勘弁してほしいって思った記憶がある。


「こういう時に魔法が使えれば、バリアが張れるんだろうけど……」


 ふと、セプスのことを思い出して目を伏せる。今日中に答えを出すって思ってたのにまだ全然考えられてない。まずいなあ。セプスの事だけで二週間が終わっちゃいそう。

 こうやって落ち込みがちなところを見ると、セプス、何やってんだって怒鳴りたくなって来るけど。


「あ、ごめん!ええと……」


 コナー君が焦ってあわあわしていた。わ、何子供に気ぃ使わしてんだ、私。


「いいの。それで?どうやって治したの?」

「一からやり直しただけだよ」

「……花、折れた?」

「ちょっとだけね。でも謝ってから処分すれば、土地に呪いも残らないし、僕も気持ちいいからそうするよ」

「そっか」

 

 『こういう時に魔法が使えれば』、治癒魔法で治してあげられるのに。

 何回、そう思ったんだろうなあ……。何回、魔法が使えればって仮定をしてきたんだろうなあ。

 皆が街中で魔法ばっかり使っているのを見て、どう思ったんだろう。

 魔法ばっかりのこの世の中で、日本で言えば電気を使えないような物なのに、どれだけ悲しくなったんだろう。


 まだ、子供なのに、親も居なくて、不安だっただろうと思うのに――。


「コナー君は、さ、今、幸せ?」


 つい、口から言葉が零れた。

 やっば!こんなん困らせるだけなのに!

 慌てて取り消そうとすると、


「幸せだよ」


 そう言われて、体が強張った。何より、考える間もなくそう言ってくれたのが嬉しくて。

 そっか。

 そっかあ。


「ここに来るまでに何人も家を回ったよ。人族のところへ行った事もあってね。その時は、『帰れ』って言われてそれでおしまいだった。『隔離者』なんて誰も欲しがらないからね。それで魔族のところへ来たら、すごいんだよ。苦労したんだろうね、って言われて、温かいスープが出て来たの。雪が降ってた時で、僕嬉しくって泣いちゃって。頑張って貴族の家を回ったんだ。でもほとんどの家が庭師が居るからやんわり断られて、でもちゃんと仲介してくれて、たくさん家を回って、ここに来たんだ」


 コナー君は嬉しそうに、話していた。そっか。やっぱり、大変だったんだなあ。

 だからね、とコナー君は続けた。


「そんな優しい魔族の王様になれたミルヴィアは、すごいと思うよ」


 素直で飾り気のない言葉が、何より嬉しいんだよねー。

 そっか。

 なら、いいや。だって、本人が幸せだ、って笑ってくれるんだよ?それ以上の事ってある?

 コナー君はふわりと笑って、庭の方を振り返った。


「こんなにたくさん花がいるところでお仕事が出来て、お休みの日にはミルヴィアと話せて、主人も優しい、ここに来れたなら、不幸だなんて言えないよ?」

「……そっか。嬉しいな、そんな風に言ってもらえるなら」

「へへ」


 コナー君は今度は照れたように笑ってから、マドツを飲んだ。美味しいね、と呟く。

 なんだ、こんな簡単に答えって出るのか。昨日一日中考えたのに、答えが出るのはあっという間だねー。

 良かった良かった。


 私もマドツを一口飲んで、美味しいね、と笑った。


閲覧ありがとうございます。

コナー君はいろいろ苦労してますが、結局、今が一番楽しいと考えています。あ、なんだかいい話風に……。

次回、ニフテリザの質問について考えます。

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