107 悩む
とりあえず朝。
んー、良い朝!今日は、えーと、操作魔法の勉強だね。ていうか、いつもならとっくにユアンが起こしに来てるのに来ないのは、レーヴィが居るからかなー。
ま、いいや。レーヴィはまだ寝てるし、とりあえず三百四号室行こ。
ベッドから飛び降りて、欠伸をして伸びをしてから三百四号室の方へ歩いて行く。誰も居ないだろうし、着替えなくっていいか。
ちょっと飛んでいくか。屋敷のバカ高い天井に付かない程度で。
ふう、最近飛んでなかったから気持ちいいな。今度レーヴィと一緒に飛びに行こうっと。もちろんあのつっちゃんとかいう蜘蛛には絶対来てほしくないけどね!
そういや、神様のところ行っていろいろ言われたからか、昨日カチッとスイッチ切って眠れなかったなあ。
しかもその間考えても、答え出なかった。どうしよう。特に、万智鶴さんの質問は答えられない。本気なわけないじゃん。ただの遊びの延長だって。
本気だったらどうするか――どうする、って言われてもなあ。だって本気じゃないのは明らかだし、有り得ない事を前提として言われても。
……これが、逃げてるのかなー。
もっとちゃんと考えてあげないと、って言ってたし、その『有り得ない前提』で考えないといけないのかも。けど想像しにくいし、何より私の人生、ラブコメじゃないんだから誰かと付き合うのは有り得ないし。
まあ、長い長い数千年の命、一度も恋をしないとは言い切れないけどさ。前世でも十八年間だけ過ごしただけだもんね~。こっちだったらまだ赤ん坊も良い所だよ。
話を戻して、と。
クーストースは、男性陣が告白して来たら誰を選ぶか。
誰だろう。誰も選ばない、で良かったんかな。
本当に好きな人、居ない?と、聞かれたら……。
……居ないって即答できる質問だよ。
困る。万智鶴さんから聞かれた事、クーストースから聞かれた事は答えが固定されちゃってる分、早めに答えが出るかもしれない。
ニフテリザのが難しい。私はユアンの事を意識してない、って思ってるけど、周りから見たらどうなんだろう。常時一緒に居る男の人……うん、まあ恋愛対象として見られてもおかしくはない。
おかしくはないよ?
けど、ねえ。
私としては恋愛対象じゃないし。そうじゃないとしても相談相手くらいには思ってるかもしれない。
あー、恋愛対象として考えるんじゃなかった。
ニフテリザが聞いてたのは私がユアンを意識してるかって事だ。
ああああああっ!
一つ考えるのにこんなに時間かかってたら一週間過ぎちゃうよ!?セプスに対する返答も考えなきゃだし……って、セプスは別に良いんだって!あれは悩む必要無い!
……結局、答えが決まってるのは一つだけかあ。部屋からここまでの長い道で何にも結論出なくて話が飛び飛びになるって、相当やばいぞ?一日これについて考える、みたいな制度作らないとやってけないよ。
あ、決まってる答え?
そりゃあもちろん蜘蛛に対して、だよ。蜘蛛の質問は至極簡単じゃない。要は周りが先に死ぬんだから今一生懸命周りと仲良くしてても無駄だよ、って事でしょ。
ね、答え、簡単。これだけは蜘蛛に感謝すべきかも……いや、やめた。感謝なんてしたらなにされっか分かったものじゃないし。
「最近、あいつ倒れすぎなんじゃないか?」
「っ!」
三百四号室まで来た途端、エリアスの声が聞こえてビビった。あれ、帰ってなかったんだ?
えーと、倒れ過ぎって言葉から察するに私の事だな。立ち聞きしてよう。あ、でもばれるか。
「そうだね。目覚めて一カ月しかたっていないのに」
お兄様?
この二人がずっと話してるのは珍しいなあ。
「昨日倒れたのは百歩譲って分かるとして、他の日にも倒れたり体調不良が続いたりしていましたからね」
ユアン!?
ん!?この三人が話してるのって珍しいどころじゃなくない!?
私は浮いて物音を立てないようにしつつ、三人の話に対して聞き耳を立てる。
「魔王にも吸血鬼にも、そういった症例はない。それに昨日魘されていたのも気になるな」
「あれはただ、苦しかっただけだと思うけどね。僕はそう思ってるけど、エリアスは違うの?」
「私もそう思います」
「……一時的に、ミルヴィアが倒れた時と起きた時、魔力の流れが大きく乱れた。それが気になっているだけだ。前に十日目覚めなかった時と同じだったと思う」
「前と同じ。その前兆を、君は察知できるの?」
「できない。倒れた後に起こるからな」
やば。それって愛発のところ行った時の事じゃん。魔力の可視化が行えるのは、さすが霊魂族。魔力の可視化は出来なくても、感知は可能なのね。
ひゃー、こりゃ厄介だなあ。エリアスが一番、厄介かもしれん。
これ以上盗み聞きしてもあれかな。
コンコン
「失礼します」
「っ」
中でガタガタっと音がした。入ってみると、お兄様とエリアスは驚いた表情で立ち上がっていたけれど、ユアンは余裕綽々の表情でにこりと笑った。
チ、ユアンへの不意打ちは無理か。
「お待ちしておりました、ミルヴィア様。今日はお早いようで」
「え、そう?いつも通りじゃない?あ、お兄様、おはようございます。エリアス、帰ってなかったんだ」
「……ついさっきここへ来た。ミーツの葉の薬を届けるためだ」
「へっ?薬?あの美味しいやつ?」
「ああ」
手渡されたのは、前にも飲んだ事のある薬だった。おお、これ美味しいから嬉しいな。
中の種は、なんで入ってるのか良く分からないけど。
「その種は保存用だ。長持ちする」
「へー、そうなんだね」
今さら心読まれたくらいじゃ動じなくなった私。
ドヤァ。
……だめな気がする。
「ミルヴィア、今日はゆっくりしていな。明日はどう言ったってアイルズのところへ行くんだろう?だったら、今日ばかりは休んでもらわないと。本は持って行っていいから、部屋に居なさい」
「はい、分かりました。今日はお出かけしません」
「うん。あと、今日は寒いから風邪ひかないように。上着、羽織っておきなさい」
「はい」
心配性だなー。
まあ、あんだけ倒れてたらそうなるか。今回のも唐突だったしねー。
病弱な子って思われてたりして。
閲覧ありがとうございます。
病弱な子って思われてます。
次回、部屋で色々と考えます。お屋敷の冷暖房完備についてもお話しますよ。