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105 お願い事

 万智鶴さんのところへ来てみると、真っ白な空間の中にさらに真っ白な雪を降らせ、その中心に白いテーブルと椅子を置いた空間だった。

 今までの中で一番気が狂いそうだよ……。

 万智鶴さんは私に気が付くと、にこりと微笑みかけた。白い肌と黒い髪が相俟って、神秘的だった。私と同じ髪の色が何だか懐かしい気がするよ。前世じゃあ青髪金髪の方が当たり前だったんだけど。


「いらっしゃい。どうぞ、座ってください。何が良いでしょう。ダージリンですか?コーヒー?それともやはり、こちらの世界に順応してきた頃ですからマドツが良いでしょうか」

「……そうだね、じゃあマドツで」

「はい」


 柔らかく微笑んだ後、異空間からマドツの入ったカップを取り出す万智鶴さん。すぐにテーブルに置き、まだ座ってなかった私に座るよう勧めた。

 若干警戒しつつ、座る。

 この香り懐かしーな。最近飲んで無かったかも。あっち行ったらユアンに淹れてもらおう。


 マドツを啜る。……あったかい。やっぱり城の中に白ばっかりだと寒い。雪だからかなあ。温度はないはずなんだけど。

 なんでこんな空間を好むんだか、聞きたいっちゃ聞きたいけど、聞いて地雷踏むのもやだしなあ。


「思い出の日が雪なので」

「……今さら心読まれても、さして驚かないけどさあ」


 万智鶴さんの思い出の日、ね。

 知りたいなー。でも、聞かないでおこう。あんまり踏み込み過ぎるとよくない気がするし。


「皆さんとはどのようなお話を?」

「最近の事とか、人間関係かな。特に私の逆ハーに付いて言及してくる人が多かったと思う」

「ほう、そうですか。青髪の子との事は、私達全員が気になっていますからね。あなたは護衛だからと言うのでしょうけれど、それにしたって近過ぎますから」

「ユアンの距離感がおかしいだけだよ」


 私は信頼してるからって言うのがあるけど、ユアンは女ったらしだからね、あんまり気にする必要もないかな。

 万智鶴さんはクスリと笑うと、なるほど、と呟いた。


「仮になのですが」

「何?」

「青髪の子がしているような事をお医者さんがやったら、どうします?」

「エリアスが……?」


 想像してみて、想像できなかった。

 だって、エリアスが敬愛のキス?エリアスが口移し?エリアスが夜中侵入してきた私を押し倒す!?


「絶対にありえない!」

「仮に、です。意識しますか?」

「……まあ、エリアスだったら嫌でも意識するかなあ」

「青髪の子は今までの噂が邪魔になっていますね」

「どうゆこと?」

「ですから、青髪の子が女誑しでなければ、あなたはきちんと考えただろうと言う事です。ふふ、やはり人間とは面白いですね」

「……私は吸血鬼ですがね」


 もう一度マドツを飲んだ。くぅーっ!たまんない!やっぱり雪景色の中でのお茶は最高だね。あったまるしほっとする。

 正直万智鶴さんは嫌い、大嫌いなんだけども、うーんどうだろう。蜘蛛より嫌いかと言われれば、そうじゃないんだよなあ。まあ、人と人を比べること自体が違うってのは分かってるんだけど。


「執事の方はどうですか?意識しています?」

「ああも露骨だと、さすがに警戒するよ。でも最近は何もしてこないし、そろそろ気ぃ許してもいいかなあ。魔王様口調は変わらないけど」

「……ふむ。では庭師の方はどうですか?」

「コナー君?ただの友達」

「弟子は?」

「弟子」

「猫族の少年は?」

「お友達」

「……ふふふ、皆さん、そうなのですね。恋愛関係になる気は一切、無いと」

「うん、ないよ。特にユアンは、有り得んね」

「では言ってあげましょう」


 万智鶴さんは艶然と笑い、口元に指を当てた。内緒、と言ってるみたい。

 鶴、ね。


「あの方は本気です。ちゃんと考えて(・・・・・・・)あげないと(・・・)

「ユアンが本気だろうとそうじゃ無かろうと、私にとってのユアンの立ち位置は『騎士』だよ。それに他人から言われても、仕方ない」

「ふふ、そうなのでしょうけども、考えてあげないと可哀想ですよ?」

「本人がちゃんと言う気なら、喜んで考えるよ。けど、いくら神様だって嘘は吐くし信用できない相手ってのも居るんだから」


 これがゾーロだったら考えたかもしれないけど、嘘吐き神様のいう事は信じられない。


「そうですか。ああ、そうそう、あなたはここから出る時ここの記憶は一切消えます」

「!」


 マジかー。

 やだなあ。ニフテリザとかと話した記憶、絶対消してほしくない。気が合う相手も居るし、何よりもゾーロと話せるのなんてここだけなんだから。

 ニフテリザに今度、ガツンと言ってやらなきゃいけないしさ。


「記憶、消してほしくないですか?」

「うん」

「では条件があります。とても簡単ですよ。これで神と話した記憶を消さないでいてもらえるだなんて、安すぎます」

「逆に怪しいけど、聞くよ」

「その前に質問です。皆さんからの最後の質問、あなたは何と答えましたか?」


 うわ、聞いちゃう?それ聞いちゃう?

 言おうかなー。でもプライバシー保護もある。記憶消されちゃプライバシーも何もあったもんじゃないけど。


「セプスからの質問には?」

「『そんな事無いよ。私はセプス好きだよ』」

「ニフテリザからの質問には?」

「『意識なんてしてない、ただの騎士』」

「クーストースからの質問には?」

「『誰も選ばない。誰か一人を選ぶのは、嫌だ』」

「ゾーロからの質問には?」

「『道は自分で決めてね、手当も私は出来ないけれど、でも一緒に歩くために肩は貸してあげる』」


 そこまで言ったところで、万智鶴さんがくすくすと笑い始めた。

 気分悪い。笑っててもいいけど、なんで笑ってるのか分からないのが余計に。


「――すべてあなたらしい。最後のはそのままで結構です」

「何がそのままで、なの。ちゃんと説明してよ」

「それ、全部本当の事言っていますか?本当にセプスの事が好きですか?本当に青髪の子の事を意識していませんか?本当に誰も選ばないのですかトワルから『無駄』と言われましたね。それに対する受け答えもしてほしいです」

「……ちゃんと説明してくんないと、察せないよ」

「つまり、ちゃんとした『答え』を用意してきてください。そうですね、そちらの世界での二週間後くらいでしょうか」

「それが全部本当だってば!」

「でしたらそのままで結構です。きちんと『考えてあげて』ください」


 こいつ……!

 私がおざなりに返事してるって言いたいの?そりゃあ、よく考える時間もなかったからさっと返事したところはあるけど、大体それが本当の事だ。

 考えて、って言われても、分かんないよ。


「私はあなたに、即座に決断を下せるあなたに、『考えて悩んで答えを出す』という事をしてほしいのです。ああ、最後に私からの質問も付け加えましょう」

「……」


 私は万智鶴さんの目を真っ直ぐに見た。


「青髪の子が、執事が、あなたに対して本気だとしたら――これから、どうやって過ごしますか?」



閲覧ありがとうございます。

ミルヴィア、目上の人がタメ口じゃないんだから敬語使おうぜ……っていう突っ込みは無しでお願いします。

次回、帰ります。

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