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10 庭師登場


「ん…」


 目が覚めると、視線が妙に低い。なんで?ここ、三百四号室じゃ…。


「ぴぎゃあああ!」


 ごろん、と上を見ると、ユアンと目が合って飛び起きる。


 あれ?あ、そうだ。ユアンに強制膝枕されて、私が足にキスしたんだ。思い出した思い出した!ふー、良かったー……って、良くない!お兄様に見つかったら雷落されるよ、これ。怒られるってもんじゃない。絶対ユアンがクビになる!


「お目覚めですか?」

「うー、まあね。めちゃくちゃ目覚め悪いけど。今、何時?」

「もうすぐ三時になります」

「じゃー魔法訓練しよっかな」

「魔法訓練?」

「そう。魔力の微妙な調節をしようかと。ユアンも付き合ってくれる?」

「分かりました。ですが、私は魔力が強い方ではありませんので魔法訓練には向かないかと」

「じゃ、昨日の夜みたいに私が飛ばす石を弾いてもらえれば」


 昨日のユアンの剣捌きを記憶してる。石を弾いていたのに、ユアン愛用の剣はまったく傷付いていなかった。乱石で体に土一つ付いていなかった。四方八方から飛んでくる乱石を器用に防ぎ、自分の身に石が当たる事はない。

 ちら、とユアンを見る。綺麗な顔で綺麗な笑みを浮かべていた。

 あの顔に傷を付けたらスゴイ気持ちいいんだろーなー。


「…ミルヴィア様?」

「何にも考えてないよー」


 考えてない。考えてないから、その黒い笑顔止めてくれ。


「じゃ、行こう」


  

 私達は庭に行くと、人目につかない端っこで魔法訓練をする事にした。相変わらず綺麗な庭だな。

 訓練方法は至って簡単。私が乱石で攻撃をする。ユアンがそれを剣で防ぐ。隙を見て私がユアンに石を当てようと攻撃する。それの繰り返し。それだけなのに、ユアンの方が圧倒的に優勢だと分かる。いざとなれば私なんてすぐに斬られる。

 

 隙なんて一ミリもない。一瞬隙があってそこに石を当てようとしてもすぐに防がれる。


「右側が空いてますよ」

「分かってる!」

 

 私は右利きだけど、そのせいで左側を意識しすぎて右側が空きがちになる。それをユアンが注意してくれるんだけど、言われなくったって分かってるし!


「それと、隙が生じています」

 

 うわ、ユアンが弾いた石がこっちに飛んでくる。それを防ぎながらだと、やっぱり正確な射撃は出来ないな。待てよ、合体魔法なら、あるいは!


 合体魔法とは、例えば水魔法の水乱と風魔法の竜巻を組み合わせて水の竜巻を作り出す物だ。それを炎と竜巻にすれば炎の竜巻となる。かなりの上級技だけど…とりあえず乱流でも発生させてみるか。


「水の精、風の精よ、共に一体となって水の竜巻を巻き起こせ!乱流」


 水が地面からうねって這い上がるようにぐるぐると渦を巻きながら竜巻が起こる。周囲の物と一緒に巻き上げられ、冷たい水飛沫が飛んでくる。少し暑い夏にはちょうどいいかも。

 

 よし!成功……


「ああっ!そんなに水を起こしたら花が枯れます!やめて下さい!」


 いきなり聞こえた大声に、反射的に竜巻を止める。駆けてきたのは、九歳くらいの男の子。近くの花に触って慌てたように水を払っている。持っていた鋏を放り投げて、花を見ながら折れていないか確認している。

 うっ、なんかすごい罪悪感。


「ごめんなさい」

「気を付けてください。花は繊細なんです!うわあああっ、お、折れてる…添え木しないと。あ、ユアンさん、添え木のストックはまだありましたっけ?」

「はあ、確かあったかと思いましたが…あの、とりあえずコナー様、ミルヴィア様に対しての言葉づかいにお詫びを」

「こ、この人が魔王様!?」


 コナー君?は私を見て立ち上がると頭を下げた。おい、この家の娘なんだが知らなかったのか。


「すみません!魔族の頂点に君臨され、尚且つ私が雇ってもらえている家の娘さんだと言うのに、言葉が過ぎました!」


 用意されていたかのような台詞…用意されてたんだろうけど。『魔族の頂点に君臨』なんて、普通出てこないよそんな台詞。

 

「いいんです。こちらこそ、というかこちらが、花を折ってしまってすみません」

「そ、そんな、僕ごときに敬語なんか使わないでください。僕は庭師で、魔王様とは全然違う立場なんです」

「じゃ、コナー君、花の添え木、あとどれくらいあるの?」


 いきなりタメ口になった私に驚いたようだったけれど、すぐに言葉を続けた。そんな怯えなくてもいいのに。私別に不敬罪とか気にしないからさ。


「添え木はあと三つです。旦那様に願い出ても、中々聞き入れてもらえず…」

「そう。じゃ、お詫びに追加しよう。お兄様に言っとくよ。お詫びがこんなので悪いけど」

「ありがとうございます!最近野良のラッドミストが花を折っていくので足りなくなっていくんです」

「あなた、年齢は?」

「まだ八歳です」

「…」


 目覚めが五歳って事は、後からずっともう子供って事か。寿命はすごい長いのに、赤ちゃん時代が五歳に終わるって変じゃないか?


「ええと、僕、敬語、あんまり得意じゃなくて…些細な言葉の使いは見逃してほしく…」

「私にはタメ口でいいよ。私の方が年下なんだし」

「で、ですが」

「いいって。どれくらいここに居るの?」

「住み込みですけど、いろんなところの手入れをするので、少ししか会えないかと」

「ほら、敬語。疲れるでしょ」

「疲れます。じゃあ、僕はタメ口で」

「うん、そうして」


 ニッコリ笑ってみせると、コナー君はほっとしたような表情になった。

 私そんなに怖いか~?怖くないぞ~?


 コナー君はまたしゃがんで花の手入れをし始めると、私はユアンと顔を見合わせた。


 今日の訓練はここまでかなあ。

 前回はユアンに停められちゃったし、私って訓練に縁が無かったりして。

閲覧ありがとうございます。

庭師のコナー君は小さいのに専属庭師なので、友達が居ません。

次回は魔法で遊びます。

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