101 完全なる雑談
セプスとの話が終わった後、私はニフテリザのところへ向かっていた。
あー、疲れた。ていうか案内もなく方向も分かんないんだけど……進めば着くか。『神の間』でも私の方向感覚通じんのかなー。
と思ってた時代が私にもありました。
あった。あったよ、デカデカと蝙蝠の絵が描かれた門。その奥からする異常な魔力の多さ。私でもあんな魔力持てんわ!体破裂するよ!?
ちょん、と門に触れるとギー、と音を立てて開く。冷めた事を言えばこの門、音立てない仕様にも出来るんだよねー。趣があっていいのか。ニフテリザらしい。
「ようこそ、うちのお部屋へ」
ニフテリザの部屋はいろいろあるから、うん、見やすくていいわ。
神様って白が好きなイメージがあるんだけど、ニフテリザの部屋は紫ばっかりで逆に目が眩みそうになるけど。まあそこはご愛嬌ってとこか。
「どう、元気しとった?あ、ここ座りい」
「ありがと」
ベッドに腰掛けたニフテリザが隣を勧めて来たので、さっと座る。うっわ、ふわふわ。神様は寝る必要ないのになんでこんな高級ベッド創るの?すごくない?
ベッドのスプリングで遊んでいると、ニフテリザがにっと笑う。だから、何故に神様はそんなかっこかわいい人ばっかなの。承認試験の時は顔か。顔なのか。
「元気そうで何よりやわ。いやー、にしてもあんた面白い毎日過ごしとるな。うちも嬉しいわ」
「そう?いっつも見られてんのは気分良くないけどね」
「いっつも見てるわけとちゃうよ?あんたが見られとうないとこは見ん。やけどちっと覗いちゃう事もあるかもしれへんけどな。助けてもらいたければ言いや、助ける」
「例えば、見られたくなかったところって?」
恐る恐る聞いてみる。
あれか、それともあっちか。あれのあれってのも有り得る……。
「さあ?ぎょうさんあるやろ。くちうつ……」
「うわああああああああ!やめて!ほんっとにやめて!見てたの!?一番見られたくないとこ!?」
じゃあもうどこ見られてなかろうがあんまり関係ないんですけど!
そう思って睨み付けると、ニフテリザはお腹を抱えて笑い出した。大げさだ!いいから謝罪しろ!
「ははははは!うるさいで~」
「酷い!非道!ほんっと神様とは思えないっ!」
「よう言われるわ」
ニフテリザは目の端に溜まった涙を拭った。本当に面白そうに笑ってたなー。……神殺しって爽快なのかな?
ちら、とニフテリザを見ると、今度は引き攣った笑いを浮かべてた。
「なんやのん、やな予感しかせえへんのやけど」
「なにが?どうしたの?もう二度と見れないようにしてやるとか全く思ってませんが?」
「思うとるやろ!怖いからやめい!」
「ええ?なに言ってるのかな?常時観察されてる恐怖思い知らせてやろうとか思ってるわけないよね?ね?」
「信用できへんて!悪かったて!傷付けられへんうちの肌にだって魔王だったらかすり傷くらいついてまうかもしれんやん!神の威厳保てないやん!」
「……」
「無言はもっとやめい!」
ニフテリザで遊んでから(めっちゃ楽しかった)、私はニフテリザの方を伺う。ニフテリザは叫び疲れたのか、水を取り出して飲んでいるところだった。うっわー、あれ大昔の水だよ。つまりまったく汚染されてない水だよ。チートじゃん。うらやま。
水をコップ一杯飲み干すと、ニフテリザは質問を投げかけてきた。
「うちはあのお兄様が好きなんやけど」
「やらない」
「ちゃうて。興味があるって事やん。二つの種族兼任しとるなんて、あの星に一番貢献しとると言っても過言じゃないわけやろ?その上次期公爵はほぼ確定しとるようなもんやし、しかも魔王のお兄様やもん、将来大出世するんとちゃう?医者とは対立しておるようやけど、大した問題にはならへんやろ。なんと言っても医者がお兄様気にしておるもんなあ。それもこれも神楽が繋げた縁やと思うと、不思議やわ。神楽は誰が好きなん?あ、でもうちはあの弟子も好きやで。師匠に恋する弟子なんて最高やん」
「なにが最高やん、だ。私の周りはロリコンばっかか。いいからその口閉じといてよ、頭パンクしそう」
「精神世界やからパンクするとしたら頭やなくて体じゃ」
「うるっさい!」
ぺらぺらぺらぺら喋るんじゃない!ニフテリザはこれだから厄介なんだ。
マシンガンのように喋られたらたまったものじゃないのに、それに加えてちゃんと質問を織り交ぜつつ答えさせない――何この新手の拷問!
「で、神楽、質問いーい?」
「何?」
「あんた、誰かに恋愛感情、持っとる?」
「……いや、持ってないけど。そもそも私、前世合わせて初恋まだだし」
「ふうん、ならええよ。ああ、ええよ。うちはお兄様が好きなんやから、あんたを巡る戦いに巻き込まれん人やしな」
「ええと、何が言いたいのか全く分からない」
つまり、早めに誰にするか決めとけと?やー、深読みのしすぎか。ただ聞きたかっただけ?
私は考えながら、ニフテリザの質問に答えていく。
「最近、飛行してないみたいやけど」
「そーなんだよね。飛びたいんだけど、あの誘拐事件があってから飛行って言ったらその場に居る誰かに絶対睨まれるって言う。コナー君とビサも例外じゃないっていう最悪パターン」
「最近は勉強ばっかしとって、疲れんの?運動、してないやん」
「まあね。けど勉強だって楽しいよ?前世は勉強好きじゃなかったのに、なんでだろう」
「うちは勉強大嫌いやで。殺してまいたくなるわ」
「やめて。神様は本当に勉強この世から無くすとか出来そうだからやめて」
「けどまた多分原始に戻るだけでまた発達していくんやろうなー。人間てそういうもんやし。厄介すぎやろ、どうしろっちゅーねん」
「人間にとって一番つらいのはやっぱ、社会的抹殺?」
「うわ、えぐい。神楽、まともじゃないんやない?」
「いやでも、実質そうだと思うよ?」
とまあこんな感じで雑談していると、ニフテリザが急に空を見上げた。何。天蓋だけで何もないけど。
「あ、もうそろそろ時間とちゃう?」
「え、嘘、早っ」
「空間と空間で時間の経ち方はちゃうからなあ。うちの空間は早いんよ。一番遅いのは、そうやな、ゾーロか」
「……へえ」
気まずくならないと良いなー。
私は立ち上がると、ベッドメイキングしてからひらりと手を振った。
「じゃあね、また」
「あ、待ちい。最後に質問があるねんけど」
「何?」
ニフテリザはにかっと、明るく爽快に、愉しそうに笑った。
「神楽、あんた、最近少し、青髪の子ぉの事意識しておるのとちゃう?」
閲覧ありがとうございます。
神様とミルヴィア(神楽)はかなり気が合います。神様達は自分に気さくに話してくる人が居ないので、嬉しいんです。
次回、クーストースと話します。