99 最悪な再会
ん、眠い……なんでだろう。ふわふわ浮いてる感じがして、すっごい気持ちいい……。
そう言えば、私倒れたんだっけ。じゃああの特別室に居るって事か。はは、またお兄様とエリアスに怒られそう。
重い瞼を開けて、視界がぼやけている状態で体を起こす。
「お、起きたんか。セプスー。来たで」
「……!神楽!」
奥の方で聞こえる会話が、なんか不穏な気が。ていうか私の事神楽って呼ぶの、レーヴィと皆くらいしか――は?
いきなり目が覚める。自分の居る場所を見て、ゾッとした。
赤い花の蕾の中。見覚えが、ある。そしてこの花弁にふれるとどうなるかも、重々承知だ。
混乱と疑問で頭が埋まる時、私に芽生えた感想は唯一つ。
……最ッ低。
花弁に触れる。
観念するしかないなー。どうしよう。軽く話して帰してもらおう。でも、なんか、記憶に靄が掛かってるような気がするんだよね。
意外なのは、私案外落ち着いてるな。一時の混乱さえどうにかなれば、あとはこっちのもんってわけね。セプスに話したら、返してくれるんじゃないかなー。
ぱら、と花弁が散った。そして目に入って来たのは、蛇の化身。蝙蝠の化身。犬の化身。里の化身。狐の、化身。そして、
「―――――ッ!」
その瞬間、駆け出した。
「あっ、待てこら神楽!ああもう、やからトワル来るなて言うたんや!」
「大げさだなあニフテリザは!きっと混乱してるだけだって」
蜘蛛は嫌い。蜘蛛は嫌だ。閉じ込められる、暗くなる。
追ってくる人たちから我武者羅に走って逃げる。嫌だ、そうだった、忘れてた!
なんで忘れてたのよ私は!あんな人達、どうして忘れられてたの!?あれか!?転生するとき記憶は消しますてきなやつか!?だったらついでに前世の記憶も消しとけあの馬鹿!
「馬鹿って言われんのは心外やね」
空から声を掛けられる。
そーいや、ニフテリザはいい人だったなー。ずっと私の転生に反対してくれてた人だったしね。
……私さっきから人とか言ってるけど全員人じゃないんだよなー。皆神様だし私吸血鬼魔王なんだよねー。
「……どーも、ニフテリザ」
「どうもや、神楽。うち、あんたが飛んでるとこみたいんよ。見してくれへん?」
「ああ、うん」
魔力を込める。これ血通ってないのになんで魔力はあるんだろうなー。そこらへんもちょっと調べておきたいかも。
羽を形成して、一気にニフテリザと同じ高さまで飛び上がった。
ニフテリザは、嬉しいような恥ずかしいような表情をして笑う。わあ、やっぱ美人。
「やっぱり映像とはちゃうなあ。もっとリアルやわ。本当なら神楽の成長した証としてちょっと戦ったりしたいけど、まあそこは我慢せんといかんな。皆から怒られてまうわ。とりあえず、セプスも来とるし行ったらええよ。トワルとは、話さんでもええから」
優しい口調でそう言われたら、断れなくなるじゃん。
私は頷くと、タッと駆け出してセプスのところへ行った。緑の髪に緑の眼、加えて真っ赤な唇と舌。やっぱりセプスって毒蛇だもんね~。
私はにこりと笑い、片手を挙げてひらりと振った。
「セプス、久しぶり」
「神楽……!」
ぱああっとセプスの顔が輝く。うん、美人。クールビューティー?
セプスは恥ずかしそうにしながら、私に一歩ずつ近付いてきた。ははは、かーわいー。
「えと、神楽はもう、帰りたいか……?」
「んー、まあね?でもいいよ、ちょっとなら」
帰るときは時空間移動で帰してもらえるだろうし。とすると倒れた直後かー。ちときつい。まあどうにかなるでしょ。
それに、ゾーロが今どうしてるのか、興味がないといったら嘘になるし。
あんまり何話したか憶えてないけどね!
「そ、そうか。なら、楽しんで行って……くれ。ええと、あーっ、クーストースも、会いたがってたぞ」
「あ、そかそか。りょーかい」
セプス滅茶苦茶緊張してるじゃん。一回距離置こう。落ち着かせてあげよ。
そういやあ、クーストースもいつでも来いって言ってたけど一回も来てないや。来方分かんないからいいんだけど。
でも、ユアンとかお兄様とか、エリアスとかコナー君とかビサとかレーヴィとか居ないと調子狂うなあ。上手い受け答えができない。
っちゃー、絶対今日の私不自然だ。あれだな、中学生の時地味だった子が高校デビューしてその後就職、すっごいいい感じに毎日過ごしてたある日突然同窓会、みたいな!
……分かりにくい。
「おお、神楽!久々だな!元気してたか!」
「おー、クーストース!久しぶり!」
クーストースはがははと笑うと、ばしばし私の背中を叩いた。地味に痛い。いや、派手に痛い。
私はふーっと息を吐くと、じっとクーストースの犬の顔を見上げた。
「……来たよ」
「ああ、いらっしゃい」
「ところでクーストース、門番は?」
「ああ、もう行かなきゃ獄狼が入って来ちまう。じゃあな」
「早っ!……行ったし」
出会いから別れまでも最速だし、走るのもめっちゃ早い。ていうか門経由していけばよかったのに。
「神楽」
後ろから声を掛けられて、ビクッと震える。さすが神様、ユアンと訓練していた私の気配察知さえも潜り抜けるとは。
そう思いつつ後ろを向くと、ゾーロが目を細めて、嬉しそうな表情で立っていた。それと同時に警戒して辺りを見渡すものの、周りにトワルはいない。ふう。
私トワルから嫌われてっからな。
「久しぶり、ゾーロ」
「ああ」
「……」
「……」
あれ、何故だろう気まずい。いや、ゾーロは嬉しそうに私を眺めてるだけなんだけど、その沈黙が苦痛と言うか。
うーん、困った。ゾーロははやりのゲームなんか知らんだろうし、そうなると共通の話題一個もないぞ!?……あるけど、あれはなあ。ゾーロの傷口に塩を塗り込んで、その上から海水かけたうえに紙やすりでこするみたいなものだからなー。
どーしよう。
「お久しぶりですね、神楽」
「まち――あ」
カチリ、と全部分かったような爽快感が走り抜ける。
ああ、忘れてた。
「魔王様、万智鶴です」
「……どうも、魔族の裏切者さん」
万智鶴。仕事はあの星で種族の絶滅を防ぐこと。
あのとき、あの星では吸血鬼が『絶滅』していた。その分を埋めるため。ついでに空いた魔王の関も埋めるため。
そして前代未聞の吸血鬼魔王の誕生を楽しむために、たまたま見つけた私に血を飲ませた張本人。
私の目の前で撃たれ、私の目の前で死んで、死んだ私の前に再び現れた万智鶴。
「あー、ううん。黒髪のお姉さん、お久しぶり。銀行強盗で死んだとき以来かな?」
「いえいえ、その後会ったじゃありませんか」
「まあ」
ったく。
あなたの血飲んじゃったから、私吸血鬼に成って、魔力が大量になっちゃったんじゃん。
あと、エリアスに訂正しなきゃいけない事が、一つあったな。
私が初めて血ぃ飲んだの、万智鶴さんだわ。
閲覧ありがとうございます。
本編99話にして初めて神様と会いましたね……最初から想像してた通り(ちょっと変えた点はありますが)書けて嬉しいです。
次回、セプスと一対一で話します。