96 忙しない一週間
闇民の日、狐ちゃんと訓練場へ。
一回一回使う魔法を決め、技名だけ言って戦うの繰り返し。この前は火だった。火は間近で使うと、前兆が分かり易い(熱が出るため)ので、接近戦ではあんまり役立たないかなあと思った。
あと、狐ちゃんは種族上『燃やす』っていうのが得意じゃない。こういうのは金狐の役目だからとかブツブツ呟いてた。狐ちゃんは『濡らす』『乾かす』が得意っぽい。つまり水とか風だね。狐ちゃんと本格的に戦う時は、土魔法が一番有効かもしれない。
ちなみに訓練場の一部が燃えたので、土魔法で誤魔化しておいた。大丈夫……と信じたい。
後はまあ、雑談とか。
聖民の日、前日の反省会。
昨日こうすればよかったとか、ああすればよかったとか。でもそうなったら狐ちゃんはきっとああするし、となるとこれよりもあっちの方が良いんじゃないかとか。
たまにもっと強い魔法が使えないものかと本を開いて、詠唱して感覚を掴んだりもする。狐ちゃんが使ってた技を練習してみたりね。なんか良く分かんない魔法使ってくるのが多いし。狐族秘伝なのかねえ。
エリアスに聞いてみたところ、
「狐族は排他的な種族だったからな。知らない魔法も多いだろう。ていうか仕事中だ出て行け」
との事。
やっぱり種族ごとで魔法の発明とかもされてるのね。
火民の日、操作魔法の予習復習。
主にアイルズからもらった本を読んで過ごしてる。面白いんだ、これが。
けど、やっぱり魔力概念はあんまり理解できない。たまにお兄様やエリアスに聞いたりするんだけど、分からないって言われてそれでおしまい。だから専門書やらなんやらと照らし合わせたりする。
例えば魔力は目に見えないが極小の粒として空気中に存在し、それに常時触れている私達の肌には魔力成分が含まれる。私達の細胞の中には外から取り込んだ魔力を『増やす』っていう機能があって、まあ実質それはまだ検証もされていない理論なんだけど……え?つまんない?
失礼。
まあ火民の日はそうやって過ごすかなー。次の日アイルズが「よく知ってますね」って驚くたび気分がいい。
水民の日、アイルズに四時から操作魔法の練習。時間はあやふやで、四時から何時までかは決められてない。大体は一時間半~二時間くらいで終わるかな?すごく楽しい日は私がたくさん質問しちゃって二時間半くらいかかるけど、そんぐらい。
この前は魔力概念の応用で、種族ごとの魔力の特色を説明してくれた。種族によって得意な物が違うのは、祖先の魔力構成があるとかないとか。
で、吸血鬼の私はどうなの?って聞いたら、無視されて次行かれた。
悔しい。
例外なのは認めるけどね、魔力の多い吸血鬼と魔王の組み合わせは。今まで無かったらしいし。だから自分なりにいろいろ考えてる。
聞きたい?え、いいの?残念。
この前は全然何もされなかったなー。逆に気になった。それもまあ改心したんだろうとは絶対に思えないけど、いいでしょ。
木民の日は火民の日と同じ、操作魔法の予習復習。
この日は復習が多い。水民の日に習った事を復習して、尚且つ新しい理論を考えて探してみて裏を取って、みたいな?
新しい理論っていうのは大げさなものじゃなくて、こうしたら魔力の回路(的な物)が縮まるんじゃないかとか、魔力の粒を大きくするにはどうすればいいんだろうって考えたりとかしかしてない。
これはこれで超楽しいんだよね。魔力って電気みたいなものなんだけど、何故だろうお父さんの電気工学の本を盗み見した時よりよっぽど面白い。やっぱりファンタジーだからか。
ま、そんなもんだよね。魔力と電気を置き換えてみると、魔族や人族があんまり魔力について学ばないのも納得がいく気がする。私電気が日常で使われてる事なんて十分知ってたけど、詳しく知ろうとは思わなかったなー。
しかもこの世界じゃ魔力が自動生成されるんだもんね。
金民の日、操作魔法の授業。
この日は水民の日で習った事の応用やテスト。分からないことがあったら聞く時間。だから時間は短めで三時からの一時間ぐらい。これは木民の日に分からないと思ったところを聞けるからかなり納得がいく授業になる。
楽しいって言うより、もっと興味がわくって感じの授業かな?
帰ってくれば予習復習。
地民の日、この日はフリーダム。
ビサから剣の稽古をつけてくれって言われたり、ユアンからそれを勧められたりしたけど、きっぱり断った。この日はもっぱら買い物とか、物語読んでみたり、あとはね。
午後からはコナー君とティータイム、とか!
そう、この日コナー君は午前しか仕事がないの!半休!
だからほっと紅茶を飲んで、ゆったりと会話を楽しむひと時。ああ、極上!
コナー君も、
「ミルヴィアと話せる時間がとれて嬉しいな」
って言ってくれるし!
癒し!
ってな一週間を過ごしてるわけなんだけど、今は地民の日、コナー君とのティータイム中です。
長くなったねー。うん、私、忙しい!
「へえ、この紅茶って庭に生えてるハーブを使ってるんだ」
「特殊な育て方をするとこんな香りになるんだよ。いい香りでしょ?」
「うん、これ好き。どうやって育てるの?」
「えーっとね、まずアビシリアとユアラリアっていう花を隣接して植えるんだ。で、この二つの花の花びらをなるべく細かくして混ぜる。それで一度濡らして漉して、一週間乾燥させてから飲む」
「お、おう……?」
「はは、難しいでしょ?」
「うん」
てな具合で会話しつつ、お茶を頂く。この時間、ユアンは『邪魔』と言って一言もしゃべらないように言ってある。
どうせユアンが入って来れる話題はあんまりしないからね。難しいのじゃなくて、軽い雑談みたいな感じで。
雑談して楽しいのは、やっぱり狐ちゃんとコナー君なんだよねー。少年も楽しいっちゃ楽しいけど、策士な感じがするし、エリアスとお兄様は年上で話題が合わないし、ビサとはどうしても戦術の話になる。ユアンとアイルズはもちろん論外。彼らは雑談するのには向かない。
それに比べて、狐ちゃんは訓練の話とかにもなるけど魔法について語り合えるって言うのが良いよね。
コナー君は言わずもがな、癒し専門だし。コナー君が闘争心むき出しにする事ってあるのかな?いやあ、ないでしょ。
「ミルヴィア、操作魔法ってどんなのやってるの?」
「魔力概念っていうのやってるよ。楽しいの。けど難しいかなー」
「例えば?ちょろっとでいいよ」
「魔力って言うのは空気中に在って、それに触れると肌から魔力が浸透する、とか」
「わあ、楽しそう!そういうの、僕と無縁だけど聞いてると楽しいなあ」
「そう?」
コナー君にはあんまり魔力の話振ってないんだけど……気の使い過ぎ?
いや、気ぃ使っといてだめな事はあるまい。
とまあ、こんな風に、私の一週間は過ぎていく。
いやあ、平和だねえ。
閲覧ありがとうございます。
魔力概念はかなり複雑ですが、電気の回路みたいに組み合わせ方がある、というのが通説です。ミルヴィアはそこらへんに興味を持っているらしいですが。
次回、操作魔法の授業、帰り道。