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護衛編 三百四号室での出来事

本日三度目の更新です。本編とは関係ないので、忙しかったらすっ飛ばしてもらって大丈夫です。

 カーティス様のお部屋から戻った私とミルヴィア様は、渡り廊下を歩いてた。私はミルヴィア様の一歩後ろを歩くようにしているのですが、明らかにミルヴィア様は私を気にしていたようで、ちらちらと後ろをを見ながら歩く。そこで悪戯心が芽生えるのも、仕方ありませんよね?


「どうかなさいました?」

「え!?」


 ミルヴィア様は驚いたのかピタッと足を止めてこちらを見た。私はニッコリと笑う。そこでミルヴィア様が顔が引き攣っても気にしない。


「恋慕って、何かしろってわけでもないんですよ、ね?」

「敬語はやめて下さい」

「はいっ!」

 

 明らかに怯えている。可愛らしい。


 彼女の容姿は、黒い艶のあるさらさらとした髪に、黒く丸い目。童顔だからだろうか、美人というより可愛いという表現が良く似合う。カーティス様が可愛がるのも良く分かる。まあ、こういう方は妹として愛でるより近くにいる者として苛める方が楽しいと言うのが私の正直な思いです。


「そうですね、私に言い寄ってくる方の防波堤です」

「仮にも主を防波堤にするつもりか!?」

「仕方ないじゃありませんか。さっきの会話を侍女が聞いていたので、多分もう噂が広まってる頃じゃありませんか?」

「…もう何も言わない。言う気になれない」


 この方は自分の顔が整っているという自覚がまったくないらしい。

 そもそも、私がこの方の護衛に立候補したのは苛め甲斐がありそうだという理由だけだった。


 会ってみて、確信した。この方は将来悪い奴らに騙される。何かにつけて騙してくる奴らなんてたくさんいる。私みたいな方法もあるかもしれないし、もし魔王だと知らなければ強引に、という事もあるかもしれない。私は取りあえず、防波堤になってもらうと同時に私もこの方を守ろうと誓った。


 敬語で会話されるのは予想外だったけれど、今は普通に喋って下さる。


「ユアン、私魔法の訓練したいんだけど、良い?」

「はい、お付き合いします。しかし、今この時間はコナー様が庭の手入れをなさっている時間では?」

「コナ…誰それ?」

「コナー様です。庭師ですよ、専属の」

「へー、どんな人?」

「まだ幼いですね。おっとりした方です。会いに行きますか?」

「ううん、今度でいいや。じゃ、三百四号室に行って本読もうかな」

「分かりました」


 コナー様は私とは真逆の方。癒し系と言うのでしょうか、すごく笑顔が温かい。ミルヴィア様がコナー様に靡くのは許せませんが、それはないと断言できる。さっきの腕への口付けの意味を知ったことで私の事を気にしてくれるはずですし。


 三百四号室へは初めて入った。ミルヴィア様は入るなり数冊本を取るとソファに座って読み始めた。私はその後ろに待機する。


「ユアンも座れば?」

「いえ、私は立つのが普通で」

「いーから」


 ミルヴィア様はソファの隣をポスポスと叩く。上目づかいが可愛らしい。私は誘われるまま、二人掛けのソファの端に座る。


「なんでそんな端っこに座るの」

「私は護衛ですので」

「でも、私は恋慕のキスをしたんだよ?」


 ミルヴィア様が艶めかしい笑顔で言った。


「もっと近くに来れば?」

「…では、遠慮なく」


 不自然にならない程度にミルヴィア様の横に座ると、ニッコリ笑って見せる。ミルヴィア様はムッと悔しそうな顔をした。


「ちょっとは照れてもいいんじゃない?」

「照れませんよ、これくらい。何なら手でも握りましょうか」

「いい。遠慮する」


 ミルヴィア様は警戒するように、手を本に添えた。


「残念ですね」

「こっちが残念だよ。いつかは私が勝つ」

「勝てると良いですね」


 ミルヴィア様は童顔で精一杯私を睨み付けてきた。この方は無表情が一番怖い。無慈悲な瞬間だ。


 しばらく、ミルヴィア様が本のページをめくる音だけが三百六号室の中で聞こえていた。だが、徐にミルヴィア様は本を閉じた。


「だめだ!やめた!疲れた!寝る!」

「ミルヴィア様、寝るなら寝室へ」


 本を放り出して目を瞑るミルヴィア様を見ながらそう言うと、ミルヴィア様は頭を振った。


「嫌だ。ここで寝る」


 頑固な方だ。というか、タメ口になった瞬間図々しくなりましたね。目を瞑って向こうを向いているミルヴィア様に、ちょっとした悪戯をしたくなる。


「…ミルヴィア様、枕、要りませんか?」

「え、ある、のっ!?」


 こちらを向いたところで腕を引っ張ってみれば、計算通り私の膝の上に倒れ込んだ。ミルヴィア様はわなわなと震えながら私を見ていた。


「ユアン!あのね、やっていい事と悪い事が!」

「ですが、腕に口付けをしたんですよね?少し近付いても良いのでしょう?」


 ミルヴィア様の顔を覗き込むと、私の長めの髪がはらりと耳からおちる。ゴムはミルヴィア様に貸していましたね。もう斬ってしまいましたが。あのゴムはトィートラッセで捨てられているんでしょうか。


「……騎士にとって、キスは絶対の意味を持つんだってね」

「はい」

「…」

 

 ミルヴィア様はごろりと甘えるように寝転がると、私の太腿に軽く口付けた。


「支配だったっけ。何ならもっとしてあげようか」

「…あなたは、まったく」


 呆れるように言うと、ミルヴィア様はにやっと笑い目を閉じた。ミルヴィア様が読んでいた本に目をやると、どうやら恋物語だったようだ。キスの意味でも書かれていたのだろう。私はふっと笑った。ミルヴィア様から静かな寝息が聞こえてくる。

 私はさらさらとしたミルヴィア様の髪の毛をすくった。そっと唇に押し当てる。


「…負けましたよ、ミルヴィア様」


 思慕の意味を持つ髪への口付け。


 騎士から口付けをする事など滅多にないのです。

 この口付けは、かなりの意味を持っていますからね?

閲覧ありがとうございます。

ユアン視点の話でした。キスっていろんな意味があるんですね。知るとすごく面白いです。

次回は本編に戻ります。

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